21.ダンス教室じゃ
親愛なる父上様、母上様。
わしが音楽が全然ダメだったのは覚えておるのう?
リズム感の特訓じゃいうて今日から放課後ダンス練習じゃ。
十時間。一時間ずつ十日やる。これがわしの補習じゃな。
ダンスじゃぞ? 踊りじゃぞ? わしになにがさせたいのじゃ?
母上はミュージカルが好きじゃからの、わしが舞台女優みたいにくるくる踊れるようになったらうれしいかもしれんがの、わしには絶望的に向いておらぬわ。
「どうしてそんなにリズムに逆らうのかしら」と先生もあきれ顔じゃ。
当たり前じゃ。剣も、武道も、その本質は力でも速さでもなく、「間合い」じゃ。
「間合いを外せ、間合いを相手に読まれるな」
常識じゃ。
ダンスはまるっきり逆なのじゃ。リズムに乗れ、相手にリズムを伝え、相手にリズムを合わすのじゃとくるのだからの。水と油じゃ。
こんなものやっておったら弱くなるわ。
「女の子だったらダンスぐらい踊れなくちゃ! モテないわよ? ダンスは社交界での武器になるわ。剣もダンスも騎士のたしなみよ? 両方できなきゃダーメ!」
「そんなことやっとるからこの国の騎士は弱いのじゃ」
そう言ってやるとな、先生、「じゃ、やってみるしかないかしらん」といってわしに剣舞用のハリボテ剣をほうってよこしたわ。
先生はひゅんひゅんとよくしなるほっそい剣を片手でな、「さあ来なさい」と構えるのじゃ。
笑わすでないとわしが打ち込むとするりと剣先をわしののどもとに当てよった。
鳥肌が立ったのう。
「さ、もう一度よ」
言われるままにもう一度本気で行くとな、今度はおまたにぴったりと剣を当ててくるのじゃ。
全身から冷や汗が出たわ。父上と稽古しててもこんなふうになったことはなかったの。
「もちろんあたしのほうが強いわけじゃないわ。真剣でやればナーリンちゃんこんなものが刺さったぐらいじゃ止まらずにあたしの首を力ずくで落としてしまうわよね」
わしそんなふうに思われておるのかの。
「あなたはスピードもパワーも常識外れだわ。でも今見たところ剣は邪道よ。ザコは始末できてもそれで本当に強い相手と闘えるのかしら? あなたが歩まなければならないのは王道のはず。間合いを外すのではなく、間合いを隠すのでもなく、間合いを支配するの」
わかったようなわからんような……。でも「間合いを支配する」とはちっとカッコいいの……。
「我慢してもうちょっとだけがんばって。きっとあなたのプラスになるわ。あたしが保証するから、ね、やってみましょう!」
そんなわけで今日はちっとばかしとんがっとったわしの鼻をぽっきり折られたのじゃ。世の中は広い。凄い男もいるものじゃのう。反省じゃ。
あ、書き忘れておったがダンスの先生は男じゃ。
クネクネしておネエ言葉でキモいがの。腕は確かじゃ。
1028年9月4日 しょんぼりなナーリンより。
次回「遠足なのじゃ」




