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2.学生寮じゃ


 父上、母上、元気かのう。

 まあ元気に決まっておるな。

 わしは両親が元気ないところなど見たこと無いからのう。


 かたくるしい手紙は面倒じゃ。あんなの書くだけで夜になったわ。わしはもう面倒な手紙はやめる。いつもの通りいかしてもらうからのう。


 チリティのドラゴンに送ってもらって、王都のドラゴン発着場に着いたらの、ガイコツが迎えに来ておった。

 迎えはいらんと言うとったがの、心配性じゃの。

 わしの荷物が少ないのに驚いとったな。

 まー魔王の娘としての身分は隠して、平民の一生徒として入学するのじゃ、父上の言うとおりだいたいのもんはこっちで買いそろえるほうが良いからの。


 学校、というのは面白いな。

 ここ王都では、本来貴族の爵子というものは、家庭教師など雇って教育を受けるのが普通じゃが、国王の提唱で平民から王族までみんなまとめて同じ教室で授業をうけるような学校を作るというのはこの国でもまだまだ新しい試みじゃ。

 魔族ではそもそも貴族というものがないからの、みんなでごっちゃになって大人も子供もみんな暇なときに学校に来とったが、こちらでは歳をそろえて同じ学年で学ぶのじゃ。

 これも父上の言う「公平」というやつなのかの。


 街が見たかったからの、自分で荷物を背負って、発着場から歩いて学園まで行ったぞ。ガイコツには離れて付いてくるように言っておいたわ。

 ガイコツ泣いてたけどの。

 ああ、わしはガイコツが泣いてるのちゃんとわかるぞ。赤ん坊の時からの付き合いじゃからな。

 あいかわらずでかい街じゃの。

 街も街道も石造り、石畳、レンガでなにもかもが立派だわ。

 わしのような子供が荷物を背負って歩いていてもだーれも気にせん。

 本当にわしのことをだれも知らん街に来たんだと実感したわな。

 あちこちに食い物の屋台が出ておって、これも楽しみじゃ。

 ヒマができたら回ってみようと思うのう。

 学園について、ガイコツにちょっとだけ手を振って中に入った。


 学園の門の上にある「この門をくぐる者は一切の身分を捨てよ」というのは国王が書かせたそうじゃの。

 わしも魔王の娘、というのはちっと置いといて、フツーに人間のふりして入るとするかの。


 身分を捨てよ、かの……。

 どうすればよいのかさっぱり見当がつかんのう。

 ま、身分が高いお人というのはお供がぞろぞろとついとるもんじゃ。

 要するになんでもわし一人でやればいいということになるのかのう。


 学園はでかいぞ。

 魔族にもこんなでっかい学校は無いな。

 国王のトーラスは本気のようじゃの。


 魔族と人間の和平が成って、交流が始まってからはや18年。

 子供たちが教育を受けられるということがどんなに社会のためになるかは魔族領でそれを見たトーラスが真似をしてみたくなるのは無理もないわの。これもまた父上の功績の一つじゃ。

 国民を馬鹿のままただ働かせておけばよいとするより、国民に等しく教育を施して働いてもらったほうが遥かに国は発展するというものがわかったであろうの。

 まあ魔族は人口が少ないからそれもできるが、圧倒的に数が多い人間の社会でそれを実行するのは難しいだろうからの。


 そうはいっても、魔族領には人間の子供はおらん。

 こちら人間領にも、魔族の子供はとんと見かけん。

 子供のころから付き合いが無ければ、魔族に対する偏見も、人間に対する偏見もなくならぬというもの。

 わしはその先兵となるのかの?

 ま、人間という奴をよく知る機会じゃ。

 ああは言ったが、本当は人間の学校に入るなんて気が進まんのじゃ。魔界のほうが気楽じゃからの。


 学生寮に入って、寮長に挨拶したぞ。

「ここでは身分、出身で特別扱いは致しません。失礼なことが多々あるかと思いますがお許しください」とかしこまっておったわ。

 以後、わしに対する特別扱いはなにもなしじゃ。

 徹底しておるの。

 わしも甘ったれたことはもう言っておられぬわの。


 学生寮では個室を一つもらったぞ。

 平民でも貴族でも誰でも部屋を一つもらえるのじゃ。

 2カーリン四方(作者注:約3.2m)のちっちゃい部屋じゃ。ベッドと机しかない狭い部屋じゃ。

 小さいながらもわしの城じゃ。

 おいおい、いろいろとそろえていこうかの。


「独立心を養うためだ」とか言うて父上は小遣い禁止とか言うとったがの、ガイコツも入学祝じゃと言うて小遣いをくれたからの。

 ドラゴンで送ってくれたチリティもじゃ。

 怒ってはダメじゃぞ。

 父上も母上もわしにコッソリくれたではないかの。

 そんなわけでわしはちっとばかし金持ちじゃ。

 金のことは当分なんも心配いらんのう。はっはっは。


 寮長から制服をもらったぞ。

 みんなおんなじ服を着るそうじゃ。まあ服を自由にしたら貴族はキンキラキンの一目で貴族とわかる服を着てくるに決まっているであろうからの。これも父上の言う「公平」かの。

 試しに着てみたが、ちっとブカブカじゃの。

 ま、わしは魔族じゃ。人間に比べれば長生きな分ちっと成長が遅いかもしれんからの。

 明日はこれ着て入学式じゃ。国王のトーラスも入学式には来るそうだからの、久々に会うことになるの。楽しみじゃ。


 ベッドの布団は木綿の綿じゃ。

 そのうち、ハトの羽根でもむしって羽根布団でもつくろうかの。

 公園にわんさかハトがおったわ。うまそうじゃった。


 じゃ、また入学式が終わったら手紙出すわ。楽しみに待つのじゃ。


  1028年3月31日   ナーリン



次回、「入学式じゃ」

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