18.期末テストなのじゃ
父上。ピーラー、礼を申すぞ。
いままでジャガイモやにんじんの皮をむくのはナイフでやっておったがの、この皮むきは最高じゃな! これなら不器用な殿御でも料理をしたことが無い貴族のおなごでも手を切らずに皮をむけるわ。
しかしの父上、ここまで凝る必要があるのかの?
ミスリルの皮むきなど聞いたことが無いわ。
風化魔法でチタン鉱石を酸化還元させて純チタンを抽出し結晶化させた後鍛造するなど父上にしかできんがの、こんなものはさびない鉄板に刃がついとるだけでよいのじゃ。
こういうのをいろいろと庶民向けに売り出すとよいぞ。魔族の雑貨店の開業じゃ!
一学期の期末テストというやつが近いのじゃ。
学生がちゃんと勉強しとるかどうか、問題を出してそれを解かせて、点数をつけて、30点以下だと赤点というてのう、真面目に勉強しとらんかったと言われて補習を受ける羽目になるのじゃ。そうすると夏休みが無くなるのじゃ。
夏休みが無くなると、里帰りができなくなるのじゃ。
……世知辛いの。
正直に言うとな、わしは学校が楽しい。夏休みもこっちにおりたい。
補習どんとこいじゃが、わしは成績優秀じゃからの、そんなことにはならんわの。
というわけで毎晩猛勉強しておるぞ。
理系はバッチリじゃ。
こまっておるのは文系なのじゃ。
「この主人公の気持ちを述べなさい」と言われて、「この男をぶっ殺したいと思っておる」などと書いてはいかんのじゃ。
主人公になったつもりで、考えないといかん。
「彼を許せない一方で、友人として罪を許したいと思う心の間で葛藤している」が正解なのじゃ。
人間はややこしいのう。
もし補習になって帰れなくなっても許すのじゃぞ。
歴史のテストはの、今回は無しになったわ。
ツェルト教会がの、ガイコツのせいで新事実がいろいろ出てきたおかげで今歴史の見直しをやっておる。それまで学生に教鞭をとることはかなわぬという。
お堅い教会じゃのう。
ま、そういうところがツェルト教会のいいところじゃな。
音楽の授業もあやういのじゃ。
わしは音痴でリズム感が無いのじゃ。
タンタンタンタンタンタンタンタンとタンバリンを叩きながら校庭を十周もさせられたわ。壊滅的じゃ。
あと聞いておると思うがガイコツが矢で射られたぞ。
今大使館で療養中じゃ。
……わしを笑わせるつもりかの?
ガイコツに矢をかけてもすっぽ抜けて服に穴が開くだけじゃ。そもそもなにをやってもガイコツは死なん。だってもう死んでおるからの。
暗殺者は頭が悪いの。
まあでも一応倒れたふりはせんと、ガイコツへの攻撃がエスカレートするだろうからの、一応、効いたふりして寝込んどることにするそうじゃ。
わしにも気を付けるよう大使館から連絡が来たの。
「見舞いはせんぞ」と言ったら職員驚いとったの。
これは陽動作戦だからの、お見舞いが集まれば魔族関係者のあぶり出しができるとの魂胆もあるじゃろう。犯人は魔族との友好反対派なのじゃろうが、あの講演の直後だったことを考えると、たぶんこの学校の貴族の親じゃ。
パスティール教会かモーガン教会の信徒で魔族友好反対派の貴族の親が、息子か娘があの講演を聞いてコロリと考えを変えたのに腹を立てて腹いせでやったのじゃ。
ガイコツが一か月も寝込んだふりをすれば留飲も下がるじゃろ。
トーラスは大慌てじゃろうが、この犯人は捕まらんほうがいいのう。
わしの学園から将来有望な学生が一人いなくなるわ。
そこまで話すと、職員も感心しとった。
「まこと、魔王の器です」などとおべんちゃらを言いおった。
そんなわけで大使館側からは国に対しては抗議もせんし不問にするし犯人も探さんことにしたそうじゃ。面倒な外交問題にしたくないのはどっちも同じじゃの。
まあそうは言っても、わしにも用心せよとのことじゃからの、武器屋に行って十手を買ってきたぞ。
ハンティングナイフじゃ流血騒ぎになるしの、かといってわしみたいなちんまいおなごが襲撃者を素手でボコボコにしたり魔法で消し炭にしたらそれも大事件じゃ。十手ならまあそう見た目が悪いこともあるまいて。
こっちの武器屋にも十手があるのじゃ。びっくりじゃの。
父上が昔武闘会であばれてから知られるようになったでの、タリナスの武器屋が作っておるそうじゃ。父上の十手とそっくりじゃぞ。
実は一般の平民は武器は買えん。禁止されておるのじゃ。
わしはハンターだから買えたのう。ハンターカードを見せたら驚かれたわ。
背負い鞄に差したり、ふところに入れたりして、毎日学校に通っておる。
これでなにかあっても大丈夫じゃ。
この前見たらな、学園の女生徒が、ホロウに「ご苦労様でーす」と声をかけとったぞ。かしゃんと少し頭が動いてな、「ぎゃああああ――動いたあああ――!!」と悲鳴を上げて逃げておったな。
会釈のつもりだったのだろうかの。
魔族だとバラさぬほうがよかったのかもしれないのう。
テスト結果の成績表は学校がそっちに送ってくれるはずじゃ。
まああんまり期待しないで待つがよいの。
1028年7月10日 ナーリン
次回「夏休みじゃあ!」




