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11.友人たちじゃ


 母上はわしがちゃんと勉強出来とるかが心配のようだがの、父上はわしがちゃんと皆になじんでおるかが心配のようだのう。

 母上には成績表だけ送っておけばよいのかもしれぬのう。


 はっはっは、冗談じゃ!



 魔界では友達も大勢おるがの、こっちの友達という奴も悪くないの。

 魔界の友達というとやはりわしが魔王の娘だと知っておるし、だからといって遠慮するやつなどおらぬが、それに輪をかけて遠慮のないのがこっちの友達じゃ。

 宿題がわからんと言ってはわしの部屋に押しかけ、おもしろい本があるから読めと言っては押しかけ、ウワサ話を聞いたと言っては押しかけてきよる。


 みんながわしの部屋に集まるのはの、わしの部屋がなんにもなくて一番広いからというのと、わしの部屋のランプが一番明るいからじゃ。

 ライトボールの魔法を浮かしておく魔族産ランプなのじゃが、昼間のように明るくてみんな驚いとったのう。

 どこに売ってるのか聞かれたが、そもそもライトボールの魔法が使えんやつが持っておってもしょうがないからのう返事に困ったわ。


 それ以上に、まずわしが物を知らん、常識がわからん、子供のようじゃ言うて面白がるのもみんながわしの部屋に来る理由かの。

 なぜか来るのは平民も平民、ド平民じゃ。


 クラスでは身分の差無しというてもの、そこはやっぱり層ができる。

 王族、貴族、大家の子息、富豪、商人、平民じゃ。

 農民の子などはおらんのじゃ。

 わしはそういう中でド平民の仲間が多いの。相当田舎者だと思われているようでの、わしの相手をすると安心するようじゃ。

 平民の子らがクラスの中で貴族の子息など見るとのう、やっぱりその風格に圧倒されてしまうのじゃ。


 貴族の殿御に見初められて玉の輿、なんて目論んどったけど、現実は無理無理、とてもあんな中に入っていけない、と思うらしいのう。

 わしはそんな中で、貴族の連中にも平気で文句を言うからの、ちと煙たがられてはおるようじゃが、平民の子らには頼りにされておるようじゃ。


 大人になればの、誰でも否が応にも身分に従って社会に入る。

 だからせめて学生時代ぐらいは、身分を気にせず対等な友人であれと言う国王トーラスの理想は立派じゃ。

 立派なのだが、なかなか理解されるのはちと難しいようじゃて。

 わしも、鼻持ちならぬ貴族風吹かしてくる御仁を相手にするのは御免じゃからのう、やっぱり平民の子らのほうが話しやすいわ。

 どうしたらよいのかのう。

 貴族の鼻っ柱をかたっぱしから折ってやるなんてことは簡単にできるのじゃが、それをやると今度はわしが平民の子らに怖がられそうじゃ。

 貴族の方で、平民を見下さず対等に付き合ってくれる御仁がおればだいぶ変わると思うがの。


 意外なことじゃが、それをやっておるのがキャロラインじゃの。

 ほれあの国王トーラスの娘じゃ。

 あれは誰にでも本当に遠慮が無いの。

 貴族がみんなあんなんだったら、付き合いやすいと思うのだがのう。

 まあ学生全員が、あれは姫様じゃと知っておるから、逆にそういうふうにできるのかもの。


 父上は男子のことをやけに心配しておるがの、わしの眼鏡にかなうような男はおらぬの。どいつもこいつもボンボンで面白くない上にわしより弱いわ。

 この学園で伴侶を見つける、なんてことはまず考えられぬのう。



 わしも他の娘の部屋に遊びに行くぞ。

 パーシェルという娘はの、ウサギの剥製(はくせい)を持っておって驚いたのじゃが、剥製じゃなくてぬいぐるみだったわ。

 ふわふわの毛のついた布を動物の形に縫って綿を入れるのじゃ。

 可愛い動物が好きでも実際に飼うのはエサも食えばウンコもするので大変じゃろ? なのでそういうおもちゃがあるのじゃ。

 わしはウサギというと絞め殺して皮をはいで鍋に入れることしか思いつかんが、女の子というやつはそういうことを考えてはいかんのじゃぞ。

 可愛い動物を愛で、なでさすってかわいがるのじゃ。

 猫や犬もこちらでは人気の動物じゃ。

 食っても旨くないので魔界では人気が無いがの。

 

 そういえば犬の首に輪をはめて紐で引っ張ってもらっておる市民も少なくない。

 犬の散歩というそうじゃ。

 犬の散歩に人間が付き合わされるなどおかしな話じゃの。

 

 みんな学校を卒業したらなにをする、夢はあるのかという話をした。

 夢というのはの、寝たとき見る夢ではなく、将来の希望じゃ。

 こうなりたい、ああいう仕事がしたい、という話じゃな。

 いいところに輿入れしたいという話から、学校の教師になりたい、商売を始めたい、雇ってくれるならどこでもいいと様々じゃ。


 わしの将来か?

 考えたことも無いの。

 兄上は「魔王はお前が継げ」といつも言うとった。

 兄上は父上のようになりたいらしいの。魔王は嫌だそうじゃ。

 わしを魔王にして自分は裏方をやるんだと。気楽に言うてくれるのう。


 兄上は父上と同じ、まるで人間みたいじゃ。

 わしは母上と同じ。まるっきり魔族じゃな。

 わしらは兄妹なのに全く似ておらぬ。兄上の背中に羽は無いからの。

「ナーリンのほうが長生きするだろ」というとった。

 兄上とは一つしか違わぬのに、兄上はもう大人みたいじゃし、わしは子供のようじゃ。成長のスピードが全然違うからの。

 そうなるのかのう。兄上がわしより早く死んでしまったら、わしは悲しいのう。


 魔族ではたいてい親の仕事を子が継ぐからの。別の仕事に就くほうがめずらしいのう。まあわしもそうなるのかの。

 わしが魔王になったら挑戦してくる奴が山ほど来るじゃろう。強くなっておかねばの。とは言っても、あと百年以上母上は魔王でおるだろうがの。今から考えてもせんないことじゃ。

 わしの親の仕事は何かと聞かれたがの。

 母上は魔王じゃからいいとして、父上の仕事はなんなのじゃ?

 あまりにもいろんなことをやっておってどれが本業なのかわからんわ。

 とりあえず「学校の先生」と言っといたんで、なんかあったらそういうことで話を合わせてほしいのう。


 そんなわけで、将来なにをやるか、まだ決まっておらぬ子らが大半だということにわしは少し驚いておる。

 人間は自分の生き方は自分で探すのじゃ。

 将来の夢を語り合える友達じゃの。

 魔族にはおらんかった友達なのかもしれぬのう。


 ここは女子寮じゃからの。おなごの話しか聞けん。

 いつか殿御の話も聞いてみたいの。


  1028年5月20日   ナーリン



次回「体育祭なのじゃ」

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