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103.クリスマスの炊き出し実習じゃ


 父上、醤油と生魚、美味かったかのう……。

 シルビスを引きずり回してパーナルの港町まで魚を買い付けてミルティーの店で集まってみんなでって、そこまで食いたいものだったかのう。

 泣かんでも良いではないか。

 みんなドン引きじゃったわの。

 シルビスもミルティーも、あんなもん生で食うなんて気が知れんと言っとったわ。

 まあ、わしはそこそこうまいと思ったがの、この国にも魔族にもあれは売れんて。

 焼いた魚に醤油は、美味かったがの。

 どれもアレを食わすには、米をもっと普及させねばならんと思うぞ。

 パンだのスパゲティだのには絶望的に合わなかったわ。


「ワサビを忘れた」とか言うておったがの。あんなもんが合うわけないわの。

 勝手にすればいいわの。



 せっかくクリスマス前に来ておったのじゃ、もうすこし街を見て回ればよかったのにのう。ほれ、街中がキラキラに飾られて、夜も明るくて、そしてツェルト像がむさいのじゃ。

 あればっかりはなんとかならんかと思うのう……。だいなしじゃ。


 クリスマス当日に、また炊き出しをやったのじゃ。

 今回は予算制限なし! なんでもアリじゃ! ただしお金は自分で出すのじゃ。

 寄付を集めてもいいのじゃぞ。

 面倒なのでやらないがの。


 班の殿御たちもの、これが学園最後の炊き出しになるからわしの好きなものをなんでもいいから作れ。協力するからとお墨付きをいただいたのじゃ。

 凝った料理も作りたいがの、なにしろ炊き出しじゃ。大量に鍋で作れて、それでいて体が温まって腹も膨れ、浮浪児も浮浪者も喜ぶものとなると難題じゃ。

「おぬしら、クリスマスにはどんなご馳走作っておった?」と聞くとの、「ローストチキン」、「ローストダック」、「ローストターキー」

 却下じゃ。

 人数分捕まえてくるわしの身にもなってみれ。


「丸焼きはどうだ? ブタとか牛とか」

 却下じゃ。

 切り分けるときに誰がどこを食うかでいつもケンカになるのが丸焼きじゃ。

 美味いところを先に食われたらあとは残飯も同じじゃぞ。


「クリームシチューは?」

 いきなりハードルが下がったのう。

 クリームシチューは魔族でも人気のメニューじゃ。

 人間の料理で魔族でも人気になった数少ない料理の一つじゃの。

 バターもチーズも人間領からの輸入品じゃからの。


「どうせならビーフシチューは?」

 おうっそれいいの!

 あれは人間の料理のうちでも、わしの大好物じゃ。

「よしっビーフシチューで決まりじゃ!」

「って牛どうすんだよ」

「わしが獲ってくる」

「ええええええ――――!!!!」


 野牛を一頭双子山を探し回って仕留めて、肉にして、ミルティーの店にあずけて熟成じゃ。ミルティーの店には氷魔法の冷蔵庫があるからの。

 前の日から男子寮の厨房を借りて出汁造りじゃぞ。玉ねぎをみんなで刻んで、鍋で炒めて、小麦も加えて、トマトに胡椒に鶏ガラスープに塩じゃ。出汁が出たら今度は牛の骨じゃ。

 素手で骨をバキバキ割るわしに殿御がみんなドン引きじゃ。

 気にしちゃ負けじゃ。

 これをコトコト煮込んでの、交代で灰汁すくいじゃ。

 翌朝、ガラを全部取り出して貧民街に鍋を荷車で運んでの、でかい鍋でバターと小麦粉を炒めるのじゃ。

 さすがに寒いんじゃがのうー。火をパッパパッパと燃やしてわっせわっせと殿御にかきまぜさせるのじゃ。

 終わったら出汁を入れてすりつぶした茹でトマトに胡椒に塩に人参、玉ねぎ、月桂樹の葉、セロリ、それに赤葡萄酒じゃ。

 牛肉をぶつぶつと「ええええ――――っ」と言われるほど大きなぶつ切りにしてどんどん放り込んでいくんじゃ。牛一頭分あるからの。遠慮はいらんわの。

 木炭も大量に用意したのでの、コトコトとおいしそうな匂いがしてきたのう。


「じ……嬢ちゃん、これってまさか……」

「ビーフシチューじゃ」

 うおおお――――と集まってきた浮浪者が大騒ぎじゃ。


 他の班もやってきて、ポトフだのジャガイモの塩煮だのチーズ入りオートミールなど作り出しておるが、もうわしらの勝ちは見えたの。

 煮込んでいる間にみんなでジャガイモの皮をむいて、それを大きめに切って最後に加えるのじゃ。あんまり早くから入れてしまうと煮崩れてしまうからの。


 班のみんなで味見して、ぐっ。

 握りこぶし作って、準備はバッチリじゃ。

 十二時の鐘が鳴り、配給開始じゃ。

 もう列がすごいことになっておる。

「……ほ――……」

 食ってみた浮浪者たちは声も無いわ。

 涙ぐんでおる。


「失礼」

 黒服が来ての。

「(今日は陛下は来られません。どうか一杯だけ、いただけませんか?)」(小声)と申すのじゃ。

 並べと言いたいところじゃが、まあしょうがないのう。

 クリスマス当日じゃ、国王もさすがに城を出られんわの。

「(特別じゃぞ)」

「(申し訳ありません。)」

 浮浪者たちに見られんように、こっそり黒服の差し出したミルク鍋についでやっての、フタをして大事そうに持って帰ったわ。


 いやあ大盛況だったのう。

「最高のクリスマスプレゼントになったよ、ありがとう」とみんなから声をかけられたわ。遅れて来た者は鍋が無くなって残念そうに他の班に並んでおった。気の毒だったのう。


 とにかく、寒いクリスマスに、浮浪者たちに温かいビーフシチューをふるまえて、みんな大満足じゃ。


 あとでかかったお金を集計してのう、みんな、「ナーリンは牛肉用意してくれたからあとは俺たちで出しとくよ」と言うのじゃ。

 それでは悪いと思ったのじゃがの、「一年間なんでもナーリンに頼りっぱなしだった。すこしは恩返しさせてくれ」と言うのじゃ。

 班で何かやるのはこれが最後じゃ。

「おぬしらもよう助けてくれた。わしはこの班になってよかったのう」


 みんな、嬉しそうな顔してくれたのう。

 スーミス、ジョルダン、パーズ、ポーラル、ラオンと言うんじゃ。

 わしの無茶振りにようついてきた。感謝するぞ。


 そういっていい雰囲気になっておったらのう、先生が来て、「遅くなりましたが、あなたたちの班あてにクリスマスの炊き出し実習の寄付が届いています。受け取りなさい」と言って金袋を渡されたわ。「トーちゃんより」と書いてあったわ。


 ビーフシチューそんなに美味かったかのう、トーラス。

 なんだかいろいろとだいなしじゃ。


     1030年12月25日  ナーリンより。



次回「最後の三学期じゃ」

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再読 今日は氷風の吹く、寒い一日です 夕食はビーフシチューかクリームシチューにします
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