37【豊饒祭5】ここでもネコ(科)
拙作にお立ち寄りいただきまして、ありがとうございます(*´∀`)
平和って素晴らしい!
昨日は色々なトラブルに見舞われたけれど、4日目の今日は高等科の出し物を楽しめば良いだけである。平和って素晴らしい。
午前中は 大迫力の歌劇に、うっとりするような演奏など、流石は年長組と言いたくなるクォリティの出し物を楽しんだ。昨日 見た初等科の演目も、可愛くて微笑ましかったり フェインが獣人族のルーツとなった幻霊獣人役でゴテゴテに飾られていたりして面白かったけど。
お昼からは、ティタリアは家族を案内しなければならないようで 残念ながら別行動である。ウォルセンの方も、皇族としてどうしても昼食会に参加しなければならないとのこと。それ以降は抜け出して来るので(良いのかな?)高等科の模擬店や展示を見て回ろうという話になった。
買い食いもしたいので 軽めにお昼を食べて、待ち合わせ場所である 初等科の学科棟前広場へ向かっていると、行き交う人々の間に ちらりと見慣れた姿が見える。彼も私に気づいたようで、軽く手を振っている。
けれど。その斜め向こう……少し離れた建物の蔭から、昨日 兄皇子の取り巻きの中にいた男の子が こちらを向いて 何かの呪文を詠唱しているような姿も見えてしまった。
ウォルセンと兄殿下が言い合いをしている間、ずっと嫌な目付きでウォルセンを見ていた子である。
なんとなく嫌な予感がして、ウォルセンの方に向かっている足を速める。彼はまだ異変に気づいていない。
そして 響く獣の咆哮。……おしい、小型の召喚獣だから迫力がちょっと足りてない。
それでも 突然そこに顕現した召喚獣の上げた声に、戦う術の無い生徒やお客さんたちが混乱に陥って 蜘蛛の子を散らすように逃げてゆく。ウォルセンも、はっ として気づいたようだけど 魔物……生物学の山のような宿題の中で見かけた 小型の豹に角を付けたような姿のキティレオパルドは一度の跳躍でかなり距離を詰めて 目の前に迫っている。もう二度と痛い思いなんて……
「させない!」
なんとか キティレオパルドとウォルセンの間に滑り込み、引っ掛かれても たぶん死なない! 盾くらいにはなれるハズ! と、ぎゅっと目を瞑った……すぐ後に、腕を引かれて力任せにぐるっと振り回されるような感覚に驚いて 再び目を開けた。
その瞬間の私は、庇ったハズのウォルセンに抱えられて、彼の肩越しに迫り来る 鋭い爪の生えた前足を見た。
予想よりも重い衝撃とともに、私を庇う彼の体から 鈍く何かが壊れる音が聞こえ、2人一緒に勢いよく倒れて転がった。
~*~*~*~
〔ウォルセン視点〕
「させない!」
鋭い叫びと共に、迫る危険と僕の間へ その身を晒したアーシャが見えた。僕は咄嗟に彼女の腕を引いて、お互いの位置を入れ替えることで なんとか庇うことができた。思いっきり薙ぎ倒されちゃったけれど。相手は魔物のようだから仕方ない。
魔物の方を見れば、真っ先に駆けつけてくれたらしいストライデル教授(彼は社会学の教授じゃなかったっけ?)と、その他 近くにいた戦闘に対応できる教授や生徒たちで囲い込むようにして攻撃している。ストライデル教授の放った炎の槍が猫型の魔物に刺さる…直前に躱されて後ろ足を抉ったのが見えた。
(つっ……これは……肩か上腕が骨までやられちゃった感じかな……)
母親の血のせいか 見た目よりもかなり頑丈な僕でこれだから、アーシャなら もっと酷い怪我をしていたかもしれない。間に合って良かった。
(だからさ)
「……泣かないでよ、アーシャ」
なんとかアーシャの上から退いて、怪我を負った方の腕を庇いながら、すぐ横にあった学科棟の壁に寄りかかる。結構 転がったみたいだね。勢いよく壁にぶつからなかったことに安堵しながら、怪我が無いかと彼女の様子を伺えば、すぐに起き上がってこちらを覗き込む青灰の瞳には 涙が今にも零れそうなほど……あ、ちょっと零れた。
「泣いてない。ウォルセン、これ飲んで」
目元を乱暴に拭って 性急に腕輪を撫で、アーシャが取り出したのは、淡く光る魔法水薬。
(それは、故郷に送るって言ってたじゃないか)
やっと持ち帰りの許可が下りたって、豊饒祭のお土産物と一緒に送るんだって、ちょっとだけ微笑んでいたのに。
「大したことないよ」
「嘘だよ! 涙目になってるじゃん!! こんなに血が出て、泣くほど痛いのに……」
そりゃあ、それなりに痛いから涙目にはなってるかもだけどさ。……というか、感情的になってると いつもより流暢に喋るんだね? 君。
「いや、泣いてるのはアーシャの方……あぁ!わかった! ちょっとだけ痛いかなっ。それ、飲ませてくれるんだよねっ?」
茶化して誤魔化そうと思ったら、大失敗だった。アーシャの涙腺が決壊して、無言で ぼろぼろ 泣き始めちゃったから、無駄な抵抗は止めて魔法薬をもらうことにする。
「ん。少し口開けて」
(あ。元に戻っちゃった)
一度 決壊して勢いがついてしまったせいか、泣きながら瓶を口に当てがわれる。片方の腕は無事だから 自分で飲めないこともないけれど……涙腺にトドメを刺してしまった手前、とても居たたまれない思いをしながら飲ませてもらう。自分のせいだから仕方がないよね。今の彼女には なんと言うか……逆らえないし。
「……ありがとう。楽になったよ」
素っ気ない口調とは違って 丁寧に少しずつ流し込まれた水薬を飲み終え、深く息をつく。痛みが和らいで随分楽になった。けれど。
「まだ 治ってない」
そう。この水薬はまだ1年生のアーシャでも作れる最下級のもので、軽い怪我を治したり、出血や痛みを和らげることはできても、大きく裂けた皮膚や折れた骨の完治には至らない。
「……うん。でも、かなり楽になったし十分だよ……アーシャ?! いけない!!」
寄り集まる魔素、練り上がる魔力、光の気配。彼女は回復魔法を使おうとしている。
(骨の治癒なんて、今のアーシャには無茶なのに!)
長々と詠唱してくれたら止めようもあったのに、アーシャはやたらと拘っていた呪文の詠唱さえせず、魔力は現象になりかけている。今 下手に止めてしまえば、彼女に何らかの反動があるかもしれない。
そして完成した光の回復魔法が放つ 清らかな白銀の光に、痛みが一気に引いてゆく。
「あ……あぁ……」
身に余る魔法で僕の傷と痛みを消し去った代償に、力なく崩折れて倒れ込むアーシャ。その姿を見て、僕の頭の中は真っ白になってしまった。
あぁ……冒頭で変なフラグを立てちゃったから……。トラブルに見舞われて分かる平和の素晴らしさよ……(´TдT`)
ちなみに、真っ先に駆けつけてくれたヒュー先生は、学科棟1階の教室にいて、悲鳴を聞きつけて窓を覗いたら主人公たちが襲われるているのを目撃し、その場で魔物の追撃を牽制する魔法を放ち、窓から飛び出して来ました。
[色々と迷って 着地(不時着)した設定]
《キティレオパルド》
豹よりも小さめな体躯に、渦巻く角を額に持った召喚獣。小型ゆえに俊敏で、鋭い爪を持っている。戦いに馴れた大人なら、油断はできないながらも 大きな脅威にはならない。まだ未熟な学生が召喚できるくらいだし……(; ´∀`) でも、戦う術を持たずに襲われる者としては キティ(子猫)という名が付いていてもちっとも可愛くない相手である。
英語とドイツ語を組み合わせるというネーミングセンスにツッコミを入れてはいけない(; ̄人 ̄)




