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幻想(ファンタジー)の欠片~今日の授業を始めます~  作者: 月灯銀雪
ささやかなる幻想(ファンタジー)
17/53

15【昼休み】石の蕾




 拙作へお立ち寄りいただき、ありがとうございます(*'v')人



 殿下の視点ばっかりですみません(;´ω`)ヾ

 





「ねえ、アーシャ。昨日の()()()メモ帳のお礼に、コレあげるよ」



「ん?」



 昼休み。配食・購買棟に併設されている大食堂の片隅で昼食を食べるアーシャを探し出し、小ぶりなテーブルの向かい側に座って 持っていた包みを渡す。彼女は一人で食事をしていたらしくて、それがいつもの事なら、僕も時々こちらに来てみようかな? などとちらりと考える。



(彼女を“あちら”に招待しても良いけれど、煩いのがいるからね。アーシャが喜ぶなら、ティタリアを連れて来ても良いだろうし)



 ちなみに、アーシャへ渡した包みは僕がいつも食事をしている上流階級向けの食堂で購入してきた焼き菓子が入っているよ。



「甘いものが好きだと良いんだけど」



「お菓子……?」



(おや?珍しい反応の仕方をしてるね)



 女の子にお菓子とか、少しありきたりかとは思ったけれど、どうやら当たりだったみたいだ。アーシャの無表情の中では、比較的 感情の表れやすい青灰の瞳が輝いている。



「うん。食に拘る貴族とかも食べる料理人のお菓子だから、味は保証するよ」



「食べて……いいの?」



 遠慮がちにお伺いを立てるアーシャに、僕はちょっぴり笑ってしまいながら「どうぞ」と勧める。そんなに大袈裟にするようなものじゃないから、気軽に食べて欲しいのだけど。




 お菓子の包みをテーブルに置き、瞳をキラキラさせながら 恭しい手つきで包み紙を開いてゆく。こんなに喜んでくれるなら、理由なんか無くても もっと早くに持ってきてあげたら良かったかもしれないね。



「じゃあ、いただきます……」



 一口サイズの焼き菓子を摘まんで、恐る恐るとも言えるほどの慎重さで口に運んだアーシャ。そして瞬きの後、僕は最大の失敗を悟った。



  ふわり



 そんな音が聞こえそうなほど、柔らかく微笑むアーシャ。微かに染まった頬が、色白の肌に映える。



(あぁ、これは いけない)



 その様子は、まるで石の彫刻でできた飾りだと思っていた花の蕾が 思いがけずに綻んで、固い蕾の時には想像もできないほど 柔く繊細な花びらを覗かせた瞬間を目の当たりにした気分になるような、劇的な変化だった。



(とんでもない大失敗だ)



 うっかり目を奪われたのは僕だけじゃない。周りを見れば、アーシャを見て驚いた顔をしたクラスメイトや、惚けている男子が僅かながらに見えた。



(どうして僕は、二人の時に渡さなかったんだろう……)



 自ら面倒を呼び寄せてしまった予感に、僕は幸せそうにお菓子を食べるアーシャに気づかれないよう、こっそりとため息を吐いた。




 その日から、僕がいない日に アーシャへお菓子を差し入れする者が“男女問わず”現れるようになったのは、きっと この事が原因だったんだと思う。





※男女問わず

→いつも無愛想な子が あんまり幸せそうな顔で食べるものだから、つい。と、容疑者たちは供述しており……。

 学生時代の友人にもいましたが、甘いお菓子を幸せそうに食べる女の子って可愛いですよね(*゛∀゛)羨ましい。……あ、本音がw



 実は、連載前には授業をメインにして、このシーンはもっと時間的に後の方でした。そして、ウォルセンがアーシャの笑顔にほんのり引っ掛けられた この辺りで未来を匂わせて完結させちゃおうかなと思っていたんです。だから、キーワードは“恋愛?”という疑問形に。ですが、もうちょっと続いちゃう予定です。“あの人”の本領も発揮してないですし……



[日の目を見なかった設定]


《可愛いメモ帳》


 落ち着いたベースの色に金縁の薄ピンk…紫な花が散らされた柄のメモ帳。もちろん殿下の髪と瞳の色をイメージして作られたもの。それを見て、うっかり「似合う」と納得の頷きをした目撃者たちは黒天使より(見た者が)凍える笑みを賜った。……でも、愛用はしている。

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こぼれ話や番外なお話→ 欠片の一粒~小話をします~
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