8【授業中】笑顔の中身
拙作にお立ち寄りいただき、ありがとうございます(・^人^・)
ウォルセン殿下の視点です。
ありふれた薬草の花色に似た髪を、サイドで緩く束ねた これまたありふれた木製の髪留め。必要最低限の装身具しか身につけない彼女は、名門と言われるだけあってある程度の教育を受けられる 一定以上の家柄の子女が多いこの学校で、少し浮いた存在になってしまっている。
そんな彼女は アーシャ という名前で、姓を持たない者の多い 辺境の田舎町から来たらしい。
最初とは違って、ほんの少し嫌そうに羽ペンを渡してくれた彼女の横顔を わざとらしく見つめてみるけれど、全然 こちらを向かなくなった。これじゃあ、つまらない。
仕方がないから、彼女が貸してくれた羽ペンを使って 簡単な魔法陣をさっさと描いてしまう。
僕に用意されたペンは、この質素ながら手作りの暖かみがある羽ペンよりも ずっと華美で高性能なものだったけれど、ほんの少しの悪意で 使い物にならなかった。まぁ、すぐに犯人を調べて僕だと分からない方法で(一部の教授には気取られてるかな?)つついてやったし、すぐに新しい物を用意させたから大した問題でもないんだけどね。
(それにしても この子、ホントに面白いなぁ)
ほとんど表情を変えないし、愛想も媚びも何にもない喋り方だし、いつも一人でいるけれど。
初日の授業で してやられて、自分の迂闊さに嫌気が差していた僕の手元に無言で羽ペンとインク瓶を置いてくれたりするような子なんだよね。
落とし物をスッと拾って、持ち主に「ん」としか言わないで差し出すから ちょっと引かれてたり、授業のグループ分けで 無表情のまま 人見知りで有名な伯爵令嬢に近づいて行ったと思ったら、怖がられて逃げられちゃったり。僕とは違う意味で 皆から遠巻きにされてる。でも、そんなの気にせずに泰然とした態度で過ごしてる……ように見える庶民の子。
(でもねぇ……)
注意して見てみると、困ってる子がいるとチラチラ気にしてるようなお人好しだし。怖がられて逃げられた時には、心なしか眉が下がっていたり、もともと小さな唇を微かに窄めているし。変化が無いわけではないみたいだ。
それに、僕が「ありがとう」って にっこり 笑いかけたら、目を泳がせて ちょっとだけ恥ずかしそうにそっぽを向いちゃう子なんだって気づいちゃったんだよねぇ。……最初は、無視されたのかと思ったけど。
ペンを貸した相手に“第4皇子”なんていう面倒な肩書きが付いているのも、彼女は全く知らなかったみたいで、ストライデル教授の呼び掛けを聞いて凍りついていたのはちょっと見ものだった。その後、僕に対して しばらく微妙にオドオドしていたし。 意外と中身は凡庸で善良なんだと思う。
(時々さ。僕を見て悔しそうに「可愛いな」って、小さく呟いてるのは いただけないけど)
だから。授業内容も今のところ知っている事ばかりだし、この興味深い観察対象が、どんな時に表情を変えるのか もう少しだけ 見ていることにしたんだ。
描き終えた魔法陣を玩びながら、また じっと観ていたら、そのことに気付いて 微かに動揺しているらしい隣人に、僕は“不本意ながら可愛いと言われてしまう笑み”を贈った。
彼はこんな子でした。……え?! 予想がついていた?? ソンナバカナ(棒読み)
[本編に活用したい設定]
《隣の席の皇子》ウォルセン・ティーリエ・ムラタ・ハイランディア〔名・母の姓(または名)・継承権所持者の証名・皇室の姓〕
女の子と見間違えそうな可憐な男の子。庶民(魔族?)を母に持つ妾腹の第4皇子。継承権は皇王の子としては最下位の16位。
微妙な立場ゆえに、遠巻きにされたり、目立たない嫌がらせをされたりと、やや不遇の子。鑑賞用としてなら密かなファンがいる。主人公の見返りを求めないささやかな善意と庶民ながら泰然とした姿(外見だけ)に、興味を持って観察中。生い立ちのせいか、ちょっとお腹が黒い。
甘い蜂蜜色の髪に光の加減でピンクと言われそうな紫(と言い張っている)の瞳という色味で余計に可愛らしい。僕、もっと鍛えようかな……?




