君のこと、今も変わらず愛しているのさ
楽しんでいただけたらとても嬉しいです。よろしくお願いいたします。
俊二は空を見上げて雨が降るのを見つめていた。
缶コーヒーはすっかり冷めていた。残りを一息で飲み干して屑籠に投げ捨てる。
雨が降る6月の夕暮れは物憂げで寂しかった。突き抜けた解放感をわずかに感じるのは昨日の華純の声が愛しくて優しかったからかもしれない、と俊二は思った。
コートの襟を立てて、ポケットの中にある携帯電話を強く握り締めた俊二は、止みそうもない雨の中を足早に歩いた。
俊二は肩をすくめて目を細めながら歩く間、華純の昨日の言葉を思い出していた。
「あなたがいないのは寂しい。いつもあなただけを想って毎日を過ごすのが私にとっては救いなのよ」と華純は感情を抑えながら言った。
「窓辺に寄り掛かりながら雨が降るのを見つめていたわ。いつまでもあなたの面影を探し求めながらね」と華純は言った。
クラクションの音で俊二は我に返り、華純の記憶を遮断して信号待ちをした。
更に雨が強くなってきた。
横断歩道の向かい側には赤い傘を差す親子の姿があった。
俊二は行き交う車のフロントガラスに弾く雨を見つめた。
タイヤから激しく飛び散る雨を見ている女の子は、下を向いて水溜まりに指を差して、母親に何かを伝えていた。
母親は手を引き路面から少し後ろへ離れた。母親が携帯を見ると女の子は空に向かって口を開けて雨を飲んだ。
俊二は華純の事を考えた。恋人たちにとって遠く離れて暮らすのは過酷であり悲しい現実であった。
2人には強い絆がある。必ず乗り越えられると信じていた。いや、今も信じるべきだと強く思っている。躊躇いは迷いに変わり、気持ちが小刻みに揺れ動くのを感じ始めていた。
(落ち着かなければならない)と俊二は思った。ブレる必要はなにもないのだから、と自分を奮い立たせるように心に語りかけた。
華純は「あなたに会いたい」という言葉を飲み込んでいた。俊二は華純の気持ちを痛いほど分かっていた。耐えているのを感じていた。
「華純、もうすぐだよ。大丈夫さ、心配はいらないよ」と俊二は言った。華純は電話口で、しばらく声を出さずに泣いているようだった。
華純には、もっと大事な言葉をたくさん伝えるべきだった。俊二は今晩も華純に電話をしようと考える。『自分の気持ちを正直に伝えよう、華純に今すぐ会いたいと伝えよう、君が必要なんだと素直に伝えよう、華純を愛していると伝えよう』と思った。
俊二は拳を強く握り締めた。
信号が青に変わった。
向かい側から来る女の子が「キャッ、キャッ」と言いながらはしゃいで歩いていた。
すれ違う瞬間、女の子は俊二に微笑んで手を振った。俊二は頷くと手を振って「バイバイ」と言った。
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