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三万円課金してガチャガチャしたら美少女キャラクターが出現した話

作者: 白城

「カンパーイ‼」

 カチン、とグラスのぶつかる音が響いた。私も遅れを取らないよう、誰の物かも分からないグラスに自分のグラスをぶつける。大人数で囲む大きな机の上には、豪華な料理が並べられ、空腹を刺激するような香りが漂う。

「いやぁ。今年もこうやって皆で集まることができて良かったなぁ‼」

 隣に座るおじさんが、ばしばしと私の肩を叩く。

「そ、そうですね、えへへへ……」

 私は手に取った箸をいじりながら、下手くそな笑顔で応えた。

 あぁ、帰りたい。私は強く、切実に思った。

 今日は親戚皆で集まって、祖母の誕生日パーティーだ。普段は家に引きこもって部屋から出ない私も、母親に「今日位は来なさいよ」と睨まれれば、流石にいかないわけにはいかなかった。行きたくなくとも、だ。

他人の家というのはどうも苦手だ。匂い、家具、テレビの位置。何もかも違うのだ。落ち着かなくて仕方がない。私はそわそわと足を動かしながら、油でべたべたになったエビフライを皿に二つ乗せ、口にした。これはスーパーで買ったものだな、と口に入れた瞬間にすぐに分かった。普段だったら食べ残してしまうような味だが、する事もないので黙々とエビフライを食べ続ける。色々な所で楽しそうな会話が飛び交っている。私はそれに混じる事もないまま、黙ってもそもそと口を動かし続ける。

「どうだい。漫画の方は?」

 私から少し離れた場所にいるおじさんが、やたら大きな声で私に話しかける。私はぎくりと動きを止めて「いやぁあはは」とごまかすように笑った。母親の視線がやけに冷たい。そりゃそうだろう。私は漫画を描いているが、人に自慢できるようなものは描いていない。私はエロ同人作家だ。部屋に籠って、少女同士の濃密な絡み合いを朝から晩まで血眼になりなって描いている。平日休日問わずだ。

親戚にはただ「漫画を描いている」とだけ言っている。彼らには漫画を読むという文化がない。そのため、彼らの想像する漫画は「少年や少女達が読むもの」だった。ちなみに私の描く漫画は成人向けの為、未成年者は読んではならない。

「わ、私ちょっとお手洗いに行って来ますねえへへ」

 私は席を立ち上がって、部屋から飛び出した。漫画の話はしないで欲しかった。恥ずかしいし、私が漫画ばかり描いている事をよく思っていないお母さんが不機嫌になるからだ。

「はぁ……疲れるなぁ」

 私は暗い部屋の中、壁にもたれかかって、ズボンのポケットからスマホを取り出した。このままゲームでもやって時間を潰そうと思ったのだ。

 私は最近あるソーシャルゲームにはまっていた。ガチャをして美少女のカードを手に入れる。よくあるタイプのゲームだ。私はそのゲームのあるキャラクターに首ったけである。金髪ショートカットの幼女、きらりちゃん(妹キャラ)。その子が私のドツボにハマった。それ以来私は、きらりちゃんのカードをコンプリートとするため、時間があればアプリを開き、クエストをこなして報酬をもらっていた。

「はっ……‼ こ、これは‼」

 アプリを開いた私は驚愕した。新しいイベントガチャのレアキャラが、きらりちゃんだったのだ。きらりちゃんが白いワンピースを着て、綺麗な花にかこまれて微笑んでいる。まるで天使のようだった、いや、天使だ。天使に違いない。

「課金しよ」

 私は迷わず三万円程で大量のガチャ券を購入した。ガチャのボタンをひたすら連打する。きらりちゃんは、なかなか出てきてはくれなかった。

「焦らすねぇ、きらりちゃん」

 出てくるカードはノーマルキャラばかり、それでも私は落ち込む事も、焦る事もなかった。きらりちゃんのレアカードが出るような、そんな強い予感があったからだ。

 あっと言う間にガチャ券が尽きて、最後の一回になってしまった。私もこればかりは少し動揺をして、ごくりと唾を呑んだ。ゆっくりとガチャのボタンに触れる。その時だった。スマホが驚く程の光を放った。私はその強すぎる光に、たまらずスマホを手から離した。スマホは絶えず強い光を放ちながら、音を立てて床に落ちた。ゲームのバグだろうか、スマホの故障だろうか。私が床に落ちたスマホに手を伸ばした瞬間、長い黒髪の美少女が出現した。

「……?」

 黒髪の美少女は不思議そうな顔をして、部屋を見回した。口から聞かなくても言わんとしていることが分かった。「ここはどこ?」

 その黒髪の少女は、ゲームのキャラクターだった。名前はえりか。高校生の女の子でモデルをしている、という設定である。私からしたら十五歳以上はみなババアなので、えりかももれなくババアの範疇である。

「ねぇ貴女」

 えりかは私を見下したような冷たい目で見つめると、長い髪をさっと指ですいた。

「……なんで、なんできらりちゃんじゃないんだよおおおおお‼」

 えりかが何か言いかけていたが、私はそれを遮って叫んだ。ひざまずいて、拳をだんだんと床に打ちつける。

 出てきてくれるならきらりちゃんが良かった。金髪ショートカットのロリが好きな私からしたら、えりかは私のタイプのど反対をいくようなキャラクターだった。

「きらり? ふーん。貴女ロリコンなのね」

 えりかの視線がいっそう冷たくなる、まるで生ごみを見るような目だった。

「ねぇロリコンの貴女。私を元の世界に戻す手伝いをしなさい」

 えりかは私に対して、ぴしゃりとそう言った。命令形だった。

「……分かったよ」

 私はスマホを手に取ってため息をついた。ゲームを開くとガチャ券の所持数がゼロになっていた。







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