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酒と涙目男と女

作者: 葦谷歩

むかしむかし、何かの打ち上げでもなければ酒を呑まなかった頃に書いたお話です。

なのでお酒についてはだいぶ知ったかぶりして気取っています。お恥ずかしい。

 酒は苦手だ。

 弱いというわけではなく、むしろ耐性はある方なのだが、それ故に同席している連中から酔い遅れることがしばしばある。皆ができあがっている中、一人だけしらふでいるときの疎外感は何ともやるせない。それを見咎められ、潰れたやつの面倒を見させられると思うとなおさら憂鬱だ。

 だからサークルで開かれる飲み会は、全員出席の義務的なものにしか行かないが、それでもゼミでの飲み会には足繁く通うのは何度でも会いたい人がいるからであった。もっともその彼女は酒に強くはないらしく、一次会で帰ってしまう。目的がなくなるのだからそこで一緒に帰ればいいのに、「送ろうか」と気の利いたことを言えずにまごつき、結局はタイミングを逃し最後まで居続け、一人しらふで立っている。

 何とも情けないが、それが私である。


 *


 先日の飲み会も残念な結果であった。結局、彼女に何のアプローチもかけることができず、ただ背中を見送るのみ。二次会以降は周りが異様に盛り上がる中、私は一人で肌寒さすら錯覚していた。

 だが、いつまでもその立場に甘んじてはいられない。そう一念発起して、今回の飲み会に挑む私である。

 目標は、彼女と同じタイミングで席を立つこと。何だしょぼい志だなと侮ることなかれ、小出しに設定していけば次の目標を見出すのが容易になり、それをテンポよく繰り返せばやがては大成につながるのである。

 一味違う決意を胸に、飲め飲めと迫る酒の勧めをどんどん受ける。最後まで残る面子では、私は抜きん出た酒豪と認知されており、うわばみとの称号も賜っている。ありがたくもなんともない。彼女の耳にでも入ったら、どう思われるか知れたものではないというのに。

 私は酔いが顔に出ないたちらしく、今まで赤ら顔を他人に披露したことはない。そのせいか、相席している者は「まだ大丈夫」と錯覚してしまうらしく、分量の調節を間違えてよく倒れる。介護役に回される所以だ。

 ので、その役目から逃れるべく、本日は厠へ行く回数を増やしてフットワークを軽くしておくことにした。

 何度かの「ちょっとトイレに」から戻ってきたとき、席を見渡すと一人分空いている。あれ、と顔を回すと、玄関で靴を履いている彼女の後姿。慌てて追いかけようとするが、荷物を席に置きっ放しなので酔っ払いの波をかきわけて取りに戻り、そこで更に一杯飲まされ、ようやく店を出た頃には彼女の姿はどこにもなかった。

 不覚をとった。よもや、策に溺れようとは。

 この一夜は、途方も無い大失態として自史に刻まれることになったのであった。とほほ。


 *


 歴史に残る大敗の翌日、私はサークルの先輩と慎ましく飲んでいた。飲み会ではなく、個人的な誘いで。別に親しくはない、ただ向こうが私に飲み比べをふっかけてくるだけだ。そして飲み比べの実態も、要は割り勘という名のたかりである。

 大して酒が得意なわけでもないのに、いつも潰れるまで飲む先輩。ここまで厚かましいと潔ささえ覚えるが、私の財政事情とは別問題なので、次はウイスキーでも呷らせてコロッと寝かせてしまうのがいいかもしれない。

 そんな先輩でも、誘ってくるのは決まって私がへこんでいるときである。かといって激励のためではなく、むしろとどめだ。何度も断ろうと試みたが、口が巧くいつも丸め込まれてしまう。この人のせいで、私の酒への苦手意識は強まる一方であった。

 そんなこんなで数日が過ぎた。本日は飲み会の催しもなく、それならば用はないとさっさとゼミ室から直帰しよう――としたのだが、忘れ物という初歩的なミスを犯してしまった。しぶしぶ舞い戻ると、なんと意中の彼女もまだ残っていた。なんという偶然、もはやこれは運命、と思っていると、同じく残っていた邪魔以外の何者でもないゼミの担当教授に目をつけられた。

「お前、酒に強いんだってな。今日、一杯どうだ?」

 これは珍事である。教授は社交的なタイプではなく、ゼミ生を飲みに誘うなど私の知る限りでは初めてだ。とはいえ酒はあまり好まない手前、やんわり断ろうと思ったのだが、

「さすがに女と飲み比べってのは気が進まないんでな」

 事情が変わった。教授が同席者として名を挙げたのが彼女であったのだから仕方がない。酒好きと誤解されるのは心が痛いが、ここはご相伴に預からせていただくことにしよう。


 *


 その判断を、私はさっそく後悔することになる。

 教授に連れてこられたのは、一度も行ったことのない飲み屋。穴場を教えてくれているのかとも思ったが、店主と知り合いのような素振りはないし、適当に空いてそうな店を選んだだけなのだろう。

 私は社会に蔓延る暗黙の了解に従い、とりあえずビールを頼んだ。一口目は美味いが、あとは苦いだけというあの泡立つ麦酒。まるで、私のゼミでの体験を表しているようである。

「つまりな、俺が思うに――」

 うちのゼミの教授は、我が大学の生徒から総じて評判がよろしくない。理由は「暑苦しい」それに尽きる。

「――で、そこでそれがそうで――」

 導入というか、オリエンテーションは巧いのだ。私もそれに引っかかった。だが、回を重ねる毎に明らかになる、オタクっぽさ、というのだろうか。自分の趣味に熱中する余りに、常に自分のテリトリーに話題を移したがる上に、話す内容が次第にとりとめがなくなり、最後には「そんなことも知らないのか」という態度を見せるようになる。嫌われて当然だ。

「――それでもって――」

 そのような男の話を、嫌な顔ひとつせずにこやかに聴いているのだから、やはり彼女は路傍に転がる大学生とは出来が違う。是非ともマンツーマンでお話したいところだが、教授の頼まれもしない独演会がそれを阻む。ああ、早く潰れてしまえばいいのに――自分は生き残れると確信できるこの体質、嬉しいやら悲しいやら。

 そんなこんなで、相槌の代わりにビールを口にしているようなものだから、嫌でも酒が進む。いつまでも飽きが来ないビールと枝豆の奇跡的な組み合わせに感謝。

「――まあ、そうはいうがな、結局のところ、お前らに認められたってのが一番嬉しいことかもしれん」

 枝豆をつまみながらビールを喉に流しつつ無視してきた話も、どうやら転換を迎えたようである。

 うん?

「俺のやり方は間違っていなかったんだ」

 いやいや、それはおかしい。

 教授の講義は、生徒からは不評を買う一方である。ゼミの先人によれば、過去幾度となく学期末の講義アンケートでそれを指摘され続けてきたのだが、改善はまったく見られなかったという。私も前期のアンケートをボロクソに書いて出した。どうせ名前欄はないのだからと割り切っての暴挙である。

「実はな、前期のアンケートがかなり良かったんだよ」

 そんなバカな。

「……お前、そんなバカなって顔してるな。一枚だけあった酷評のアンケートはお前のものか」

 なぜわかった。

 それはともかく、これはまずい。人質にとられている成績に関してもそうだが、今の話を聞いていた彼女の私に対する心象も悪くなってしまうじゃないか。そのへんの微妙な空気を読まないから嫌われるんだこの教授は。

「まあいいさ。今までが今までだったからな、アンチがいないと逆に気味が悪い」

 どうやら、難は免れたようだ。教授の私への心象はすこぶる悪くなったであろうが。Sはまず見込めない。

「良かったですね」との彼女の朗らかな声。

 どう考えても教授への相槌だったが、私の身の保全へ向けられた言葉だと脳内補完することにした。別にいいじゃないか、それぐらい。

「まあな。しかし急に俺のゼミに理解を示すようになるとは、連中に何があったんだ?」

「さあ、わからないです」

 そのとき、私には彼女のその一言が「知りたいわ」と言っているように聞こえた。彼女が言うなら仕方ないと、私は密かに決意を固めていた。


 *


 翌日から私の行動は始まった。

 アンケートがおかしいといったところで、私に実害があるわけでもないし、放っておいても一向に構わない問題だ。ただ、何となくすっきりしない。はっきりさせないと気持ちが悪い。

 普段の私なら絶対に動かない理由だが、今の恋する私には持て余すほどのバイタリティが溢れていた。嘘だと思うなら、一度恋してみるといい。

 さあ、早いところ真相を暴いて彼女に教えて「凄い」と褒めてもらわねば。

「ああ、アレか。この間の飲み会でそう決まったんだよ。前期のアンケートで褒めちぎってやろうって」

 同じゼミ生から、そう証言を得られた。

 私が帰ったあとに決まったことらしく、連絡するほどのことでもないから放っておいたらしい。それを咎めるつもりはない。もし連絡網を回されたとしても、私は一蹴していただろう。

 では、なぜそういうことになったのか。知的欲求を満たすには、過程も大事だ。

 メリットは何なのか。何の見返りもなしに、嫌っている教授を喜ばせようなどと示し合わせるはずがない。

「確か、アンケートをよく書くって決めるときに、下敷きになった話題があったはずなんだけど」

 彼はそう語っていたが、問い質すと「さあ」の一点張りで、何もわからなかった。所詮は酒の席、記憶力に期待するのは間違いだった。

下敷きとなった話題を引き出すことはできなかったが、素人探偵としては手応えがありすぎるほどの功績だ。


 *


 とりあえず、確定したことは一つ。

 教授は、アンケートをボロクソに書いて出したのは一人だけだと言っていた。もちろんそれは私だ。

 だが、本来ならば酷評のアンケートは二枚なければならない。計画を知らないはずの人間がもう一人いるからだ。それは、私より一足先に席を立った、我が意中の彼女である。

よって導き出される結論は、彼女は普段からアンケートは良く書いているに違いない、という真実。

「恋は盲目というが、いやはやここまでとは」

 先輩の呆れを隠さないコメントも、私の気分を害することはできなかった。

 またも先輩にたかられ、この会合での行き付けの店で飲んでいるのであった。安い飲み屋だが、そのイメージを裏切ることなく焼酎を飲むには適した環境である。

「焼酎って、アルコールが隠れちまうことが多いよな」

「そうですね。ジュースっぽいので割ると、特に」

「甘味の裏で、少しずつ酔わされていくんだよな」

 応用が利きすぎるためか、ユニークな焼酎を目にすることは多い。ジュースのようなチューハイは今となってはさほど珍しくもないが、炭酸飲料を酒で割っているのには驚いた。あれは酒の味がまったくしない。

「意中の彼女が知りたそうだと思い込んだだけで探偵家業とは、お前さんも不器用な奴だねえ。酒でもそこまでご機嫌になれれば手っ取り早いのに」

「生憎だが俺は酒への耐性があります。たとえ吐くまで飲んでも気分よくはならないでしょうね」

 その代わり耐性のない別のものにはあっさり飲まれたもんだな、という皮肉の聞いたコメントも、私の気分を害することはできなかった。これが酔いというのなら、悪くないかもしれない。

 その勢いで、酒の肴にするべく調査の詳細を話すと、「ほろ酔いのお前さんにいいこと教えてやろう」と先輩。

「授業アンケートってのはな、他の大学にも評価のサンプルとして出回ったりするものなんだよ」

「へえ」

「で、アンケートの評価がよければ、それを参考にした他の大学から引き抜きが来るかもしれない。アンケートを良く書くメリットってのはまさにそこだよ」

 なるほど。教授に気を遣った、といったような美談ではなかったわけだ。要は、追い出そうとしたのだから。

「流した噂ってのも、そんな内容じゃないのか。嫌われてたってんなら、そりゃ酒の入ってる学生はご機嫌で乗ってくるだろうな」

「なるほど」

「あまり信用するなよ、あくまでも推測だぞ。この目論見は現実性が薄すぎるからな。見返りが期待できない。風が吹いたら桶屋が儲かるってレベルだぞ」

 とは言うものの、しっかり辻褄が合う。さすが先輩、伊達にこじつけを駆使して酒をたかってはいない。

とにかくこれで理由と方法は説明がついた。あとは、噂の種を蒔いたのは誰なのかという問題だ。

「お前さんはアホか」

「何ですと」

「答えなんか、もう出てるみたいなものじゃないか」

 皆まで言われるまでもない。ただ、最初の段階で無意識に選択肢から外し、以後浮上してきても意識的に摘み出していただけだ。

「ところで、今日は何で飲みに誘ったんですか」

 先輩はその問いかけに答えなかったが、今までのパターンに当てはめると、この人は私が弱っているときにしかやって来ない。まさか、いや、そんなことは。

 私が去った直後に始まった悪戯計画。私がいない間に出ていた話題。「何も知らない」という条件は同じなのに、私と違った行動をとっている人物。

 麗しの彼女としか思えない。そこが問題だ。


 *


 酒というものは、一人でちびちび飲むものというイメージが、いつの間にか自分の中に根付いていた。子供のころ、食事時に酒を飲むのは父だけだった。祖父も酒を嗜んでいたが、いつも夕飯前に飲んでいて、食卓につく時には既に出来上がっていた。それら幼少時の記憶や、成人して自らが飲酒するようになっても飲み会で楽しい思いをしたことがあまりないのが原因と思われる。

 先輩との飲み比べ後も、深酒をしようと安い日本酒を買ってきた。適当に選んだチャンネルでやっていたバラエティの笑い声を聞き流しつつコップに酒を注ぐ。

 彼女が首謀者とするなら、目的は何だ。

 先輩の言う通り、教授を追い出したかったのか。いやしかし、あの彼女がそんなことをするはずが。

 実は、教授を元気付けたかったのだとしたら、どうだろう。アンケートの結果を良くすれば、教授のモチベーションも上がるはず。誰も傷つけない、損しない、罪でもない。これが白い嘘というやつか。

 そうなると、どうしても見えてきてしまう結論が。

「好きなのか、やっぱり」

 ……正直、それは受け入れがたいものだが。

「あの、嫌われ者の教授のことが、好きなのか」

 単純な好意ではないだろう。でなければ、他人を巻き込んだ策を弄したりするものか。

 これまで抱いていた彼女のイメージを壊さないように詭弁を弄した結果がこれとは、何とも皮肉な話である。あまりにも皮肉なので酒をあおると、内側から焼けるような熱さがのどを遡ってきた。

初めて酒のことを有難いと思えた。


 *


 それから大学は夏休みの期間に入り、私は諸問題から離れ特に記すまでもない退屈な日々を送っていた。

 だから夏休みの中盤で開かれたゼミの暑気払いの飲み会で見せたかつてないほどの乗り気は、その裏返しなのかもしれなかった。酒は、はめを外したふりをするにはもってこいのアイテムだと学んだ。

 そのときに知った、大きく変わったことが一つ。あの教授は本当に、他の大学に引き抜かれてしまった。嘘から出た誠というか、もしかしたら、教授が喜んでいた本当の理由はこっちにあったのではなかろうか。というか、あの野郎ゼミを丸投げしやがったな。

 これで、あの教授と呑んだのは、私を素人探偵として奮い立たせたあの一回のみとなった。

 あのとき、私が見出して蓋をした結論は、「彼女は教授に惚れている」という目も当てられないようなものであった。あえてその結論をベースに考えるなら、今回の教授の異動は、彼女的にはどうなのだろうか。

 アンケート事件に取り組んで以来、私の思考回路は急速に汚染されつつある。彼女がゼミ生たちに引き抜きの噂を流したのは、別れたあとの教授が邪魔になったからでは、という道を何度も通った。

 一方で、高評価のアンケートは去り行く教授への餞別だったのでは、という考え方もある。これなら彼女のイメージも崩さない。しかし、結局は栄転を特別に知らせてもらえるほど親しかったと肯定することになり……。

 いや。いくら考えようが、所詮は机上の空論だ。すべてに因果関係を求めるのが無理な話だったのだ。

 だから私は、考えるのをやめることにした。

 それには酒が一番である、らしい。


 *


 飲み会に参加したはいいが、場所は離れていても彼女と同じ席で飲んでいると思うと、どうも落ち着かない。それを理由に外へ出たのに、そこに彼女がいたのではどうしようもない。

しまった、もう抜けてきたのかと思いながら、「どうも」と軽く挨拶をかわす。込みあがる火照りは、酒によるものだけではあるまい。

「酔い醒ましに来たの?」

「ああ、いや……あんまり酔わないたちだから」

 しまった。

「やっぱり、すごく強いんだね、お酒」

 わざわざ酒豪自慢してどうする。彼女は飲み会ですぐ席を立ってしまうような御仁だぞ。そんな人が大酒飲みにいい印象を持つはずがないじゃないか。

「良かったら、これから一緒に飲まない?」

「え?」

「皆からは誤解されてるみたいだけど……あたし、本当はお酒、大好きなの」

 思わず、口を開けてしまっていた。

 まさしく意外であった。第一印象からして酒豪のイメージがないのもさることながら、それ以降の飲み会を早めに抜けるという繰り返しで、すっかり酒は苦手なものと決め込んでしまっていた。

「あたし、お酒は静かに飲みたいたちなの。今までは飲み会の空気についていけなくて、途中で抜けて一人で飲み直してたんだけど。話し相手がいないっていうのも、それなりに寂しいからさ」

 舌をちろっと出して恥ずかしそうに笑う彼女。

「ね、飲まない?」

 他者の抱くイメージなんて、往々にしてあてにならない。本人に問い合わせれば、いとも簡単に打ち砕かれてしまうのがほとんどなのだから。

 とりあえず、今、確実にわかっていることは一つ。

「いいよ」

「本当?」

「ああ、俺も酒は大好きだからね」

 ここで嘘をついておけば、彼女とふたりきりになれるという重大なチャンスを掴めるのである。

 このチャンスはとても重大だ。ここでうまく飲み友達になれれば、まだ半分も残っている夏休みをどれだけ色づいたものにできることか。

「良かった。君もお酒好きそうだったから、いつか誘ってみようって思ってたんだ」

「そうなの?」

 まさか、自分の忌み嫌っている部分に勝利への鍵が隠されていたとは。

 この時点で、せっかくの機会だからアンケートの真相を突き止めようという発想は完全に頭から消えていた。先輩も言っていたように、あくまでも推論なのだ。むやみやたらに口外するようなものでもない。

 それよりも向かい合うべきは、今この状況だ。

「えっと……じゃあ、とりあえずワインでも」

 そう提案すると、彼女は可愛く膨れる。

「女だと思ってバカにしてない?」

 確かに、「ワインは女性向け」というイメージが先行していたからこそのチョイスだったのだが。

「あたし、結構飲むよ。今日はせっかく相方がいるんだから、キツめのお酒がいいなあ……何なら飲み比べやってみる?」

 ううむ、先輩がたかりに来るのと似たような文句だが、人が違うとここまで可愛く思えるものなのか。

 もしかして、私はまた溺れかけているのか。

 一瞬、疑念が過ぎり踏みとどまろうとしたのだが、この重大なチャンスの前ではなす術もなかった。

「あの……本当に、俺でいいの?」

「うん。お酒強いんでしょ? だったら、あたしが潰れるまで飲んでも面倒見てもらえるかなー、って」

 重大なチャンスだ。

個人的にはミステリを意識して書いたつもりですが、いかがでしたでしょうか(不安)

この頃の私が誰にかぶれていたか、わかる人にはわかってしまうと思います……。

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