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夜半の蛍は砕月也  作者: 白谷 衣介
五章 血族
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殺人鬼の素顔

 四天王選出戦の熱が冷め始めてきた十月初頭は、すっかり夏の気配も抜け落ち、陽が落ちるのも早くなっていた。鳳戦の関係で学園に遅くまで残っていた遊歌と桜下は、陽が半分落ちた道を歩いていた。


 先日の決闘の結果は誰にも知らせないまま、二人だけの秘密だ。あの決闘はきっと、誰も、匠でさえも知らない。本当に二人だけの秘密。

 桜下はそれが嬉しいようで、あれからずっと上機嫌だった。


「六時半だけど、もう暗いね」

「季節ってのは思ったよりも早く進んでくからな。僕なんて真貴ちゃんの転校が昨日のことのように思い出せるぜ」


 中年の親父のようなことを言う遊歌に苦笑する。そんな遊歌を見ているだけで、とても楽しい桜下は日常のありがたみを噛み締めた。


 ふと、遊歌が立ち止まった。


「あ、携帯学校に忘れた」

「ここまで来てそれ?」

「悪い悪い。先帰っててくれ」

「むう、気を付けてね」

「おうよ」


 日常とは少し違う、しかし日常の一部である会話を終えて、遊歌は踵を返した。


 空には、半分の月が昇っていた。





 遊歌がも一度同じ道を通る頃には辺りは真っ暗になっていた。

 空腹だった遊歌は早く帰ろうと、普段は通らない人気のない道に入って行った。


「……?」


 普段ならば人など通らないような細く暗い道に、フードを目深に被った人影がある。不気味なその人影を視界に入れないようにしながら、遊歌は半身になって彼か彼女かすら分からない者の隣を通る。


 遊歌が通り過ぎ、背を向けたその時、その影が口を開いた。


「藤原 桜下を知ってますかあ?」

「っ!?」


 桜下の名を出されて思わず振り返る。男はその反応で目の前の少年が桜下を知っていると確信し、フードを取る。


 中性的な顔立ちに月の光に照らされた銀の髪、機嫌がいいのか歪んだ口元、何より深紅の瞳。遊歌はその顔を知っていた。


「藤原 桜雅っ」

「おうおう、僕の名前まで知ってましたか、こりゃあ光栄光栄。で、君は桜下を知っているようですけどお? お名前教えてもらっていいですかなあ?」

「坂上 遊歌だ」

「おっとお! こいつはいきなり一石二鳥ってやつじゃあないですかあ! じゃあ、ちょっとうちの住所を教えてもらえませんかね、何分どうでもいいことは忘れちゃうので、この辺りだということは覚えているんですけど、詳しい場所を忘れちゃいましてえ」


 間延びした話し方が耳につく。この男の声など聞きたくもないが、桜下が絡んでしまう以上は聞き届けなければならない。幸い、桜下から桜雅の術具の詳細は聞いている。遊歌のLv3であれば、この男を完封することすらできるはずだ。


 遊歌は桜雅がどんな行動を取っても対応できるように、砕月を月下蛍で発動し、握りしめた。


「ああ、怖いですねえ。そう睨まないで、そう殺気を飛ばさないで。僕、更生したとは言いませんが、家族には手を出さない主義なんです。将来家族になるであろう遊歌君にも手は出しませんのでご安心を」

「そういう問題じぇねえだろうが、指名手配中の大量殺人鬼……!」

「お盆に帰省できなかったから帰省しに来ただけじゃないですかあ。ていうか、マジキチヤンデレメンヘラな姉を持ってるクセによく言えますねえ」


 姉と言われると、真貴の家を襲撃したあの女が脳裏に過ぎる。あの女は確かに危険だ。直接はそう言っていないが、文言からそう言っている桜雅も、彼女には近付きたくないという意思が感じられた。


「姉ってのが何のことかは分からねえが、お前は本当に帰省に来ただけなのか?」

「もちろんですとも。顔見知りとか殺したくないですしい。僕ぁそこまでイっちゃあいませんよ」


 この男は嘘を言っていない。そういった確信があった。

 危険人物には変わりない。だが、家族が、妹が葬式に参列するような事態は決して作らない。この男はあくまでも家族思いであるという、他人の心情を読み取ることに長けた遊歌だからこそ分かる確信があった。


 握った砕月を解除し、思考を巡らせる。

 この男が身内に危害を加えるつもりがないと言っても、桜下は桜雅を見るだけで精神が参る。この男と桜下は絶対に会わせてはいけない。その前提を元にして、遊歌はひとつの案を提示した。


「桜下に会わないのなら案内してやってもいい」

「えー。可愛い妹に会えないんですかあ?」

「お前、自分がどれぐらい桜下のトラウマになってるか分かってねえだろ」

「まあ、確かに、酷いことはしましたけどお、僕、これでもシスコンなんですよ? 妹に会いに来たようなものなんですよ?」

「知ったことか」


 殺人鬼のクセして、妙に人間味の溢れる桜雅に呑まれそうになる遊歌は桜雅の頼みを突っぱねることでそれを回避する。


「しょうがないですねえ。じゃあ、写真、写真だけでも! 十年前から見てないんですよう、妹がどれぐらい可愛くなったのか、お義兄さんに見せてください!」


 両手を合わせて頼み込んでくる桜雅の姿を見て、遊歌の中の桜雅像が崩れていく。あくまで想像でしかなかったがここまで普通の人間だと、逆に何故殺人鬼になったのかという疑問すら生じる。


 桜雅の近所迷惑すら考えない必死さに呆れ果てた遊歌は先程取りに帰ったばかりの携帯から、桜下の写真を選んで表示した。


「ほらよ」


 遊歌が携帯を桜雅に見せると、身体能力強化でも使ったのかと錯覚するほどの動きで遊歌の手から携帯を奪い取った。


「……プリントアウト、できます?」


 大真面目な声音で、大真面目な視線で、シスコンは問うた。


 ドン引きして声も出せない遊歌にシスコンは詰め寄り、胸倉を掴んで言った。


「プリントアウトできますか?」

「送ってやるから自分でやれ」

「恩に着ます」


 一瞬殺されるかと思ったが、シスコンはどこまで行ってもシスコンのようだった。

 そして、たった数分程度の付き合いだが、遊歌はこの殺人鬼の人となりを理解した。





「いやあ、遊歌君はいい人ですねえ」


 殺人鬼は、何故か坂上家に上がり込んでいた。


「何か不穏な動きをしてみろ、すぐさま殺す」

「リアルチートの前でそんなことしませんよお、僕だってまだ死にたくないですしい」


 桜下に会わせるわけにはいかない。勝手に行動しないように見張りが必要。この二つの状況に当てはまるのが、人類最強の匠を擁する坂上家だった。


 遊七はニュースで見た殺人鬼が遊歌にやたらと絡んでいるところを見て絶句していたが、会話の内容、そして匠の存在から少しの期間だけ居候させることを許した。


「えっと、ここが遊歌君の部屋で、あっちが桜下の部屋ですか」

「覗いても殺す」

「そんな殺生な!」


 先が思いやられると、遊歌は特大のため息を吐いた。


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