ステップ9
~~未来学園地下迷宮3階層~~
パン! パン! パン!
少し離れた距離から、緑色の肌をして腰をぼろ布で巻いたエロ鬼さんことゴブリンの群れに向かって、俺は二双銃をむけ弾丸の雨を浴びせている。
「ギャフ!」
また一体、エロ鬼さんが天に召されていく。
あいつらは知能が低く、数に任せ正面から突っ込んでくることしかしない。 あいつらの頭の中にはあっち系のことしかないからな・・・。
「まったくいい的だな」
「この分だと俺の仕事はないな」
俺の横では、おっさんが重厚な鎧で身を固め両腕にタワーシールドを装備して守りを固めているが、ゴブリン程度の相手ではおっさんのでる幕はないだろう・・。
その間も俺は、引き金を引き続けゴブリンを仕留める。 普通なら、弾込めの間は無防備になったりするのだが、万里さん作のこの新型装備に関してはポーチに弾薬を入れておくだけで弾薬自動装填なので、実質引き金を引いているだけで弾薬のストックだけ気にすればいいという何とも楽チンな仕様である。 というか、こんなに凄いもの作れるのに何であの人は俺しか契約してないんだろうな・・・・・・・・あ、ヘンタイだからか・・。 一人で自己完結するおれであった。
「終わったみたいだな」
「あぁ、ゴブリンは無駄に数が多くてめんどい。 それに実入りが少なすぎ」
俺はゴブリンの戦利品である2cm程度の宝石を袋にしまっていく。
ゴブリンは倒すと必ずドロップを落とすが、これ一個で10円程度の価値にしかならない。 粗悪品もいいところだ。 高位魔物から稀に手に入る宝石は、一個で数十万からの価値がでるというのに・・・ゴブリンはエロイだけでまったく役に立たない魔物だ。
「全部で200個・・・2000円しかないとはな」
「俺は今回武器の慣らしだからいいが・・・どうするおっさん、もっと下の階層行ってみるか? バーストシステムも試しときたいから10層あたりまでなら付き合うぞ」
「マジか! そいつはありがたいぜ。 何せ俺のスキルは防御一辺倒で攻撃できないから、パーティの組んでる時に稼いどかないといけねけんだよ」
おっさんは身体強化系の中でもレアな、【守護聖騎士】っていうジョブスキルを持っている。
ジョブスキルっていうのは、それ単体で複数の効果を持つレアスキルのことで、おっさんの【守護聖騎士】でいうと相手から受けるダメージの50カット、斬撃・衝撃・刺突・各種状態異常耐性スキルが【守護聖騎士】のスキルの中に組み込まれている。 つまり、おっさんは最大で6割相手の攻撃を軽減できる盾として優秀な冒険者なのだ。
ただ、ジョブスキルは強力であるがマイナススキルの効果も同時に持っていて、守護聖騎士で言うと相手に一切の攻撃が出来ないという制約がかけられている。 そのせいでおっさんは、一人では魔物を狩って稼ぐことが出来ず、もっぱら迷宮で採取と採掘で資源集めがメインの活動をしている。 魔物討伐や迷宮散策は金になるが、資源集めは微々たる稼ぎにしかならないので、こないだの臨時パーティ募集や今回の俺との迷宮散策はおっさんからしたら稼ぎ時というわけだ。 だったらパーティ組んで迷宮入ればいいだろって思うだろ? 甘いな見かけどおりおっさんは友達が少ないんだよ。 たまに臨時でパーティに参加してるのでぼっちとまでは言わないがね・・・俺と一緒にいようとするんだから・・・・・・どんまいおっさん。
ちなみにおっさんのステータスはこんな感じだ。
須黒京介 Age 39
体力 A (780/1000)
腕力 B (450/1000)
俊敏 E (100/1000)
スキル
守護聖騎士
中級盾術
体力強化
盾をしては本当に優秀である。
精精弾除けに使ってやろうじゃないか。
「んじゃ、10層を目標にマップで埋まってないエリア進んで行こうぜ」
「未踏破エリアは準備してないと危ないぞ」
「心配すんなって、魔物は全部俺が受け止めるからよ」
と言って、おっさんは腕に着けていた機械を操作しマップを表示させる。
この腕の機械は、センサーになっていてリアルタイムで迷宮の情報と冒険者の位置が把握できるようになって、いざという時は救難信号を出したりも出来るようになっている。 また、マップも随時自動更新されるので迷宮内で迷うことはほぼない。
俺はおっさんの後ろを歩きながら、自らもマップで位置を確認し周りに気を配る。
この迷宮はどういう造りになっているのか、端という端に行き当たらない。 下へ続く階段は無数にあるので迷宮散策自体は進んでいるはずなのだが、未だどの階層でも端は発見されていないのだ。 ちなみに、現在の最下層は32階層で10階層以降を中層、20階層以降を上層域と現在は呼んでいる。 探索が進めばまたそれも変ってくるだろう。 何せ最下層もまた発見されていないからだ。
現在俺たちは、3階層から東の未踏破エリアを進みながら5階層まで来ている。
「これといって変わったところは無いみたいだな」
「あぁ、ここまで出てきた魔物もゴブリン・ウルフ・スライム・ベアー・バットと、どれも下層域じゃお馴染みの魔物ばかりだ。 途中、鉄の採掘ポイントあって採掘してはいるが、武器の慣らしにはなっても使った弾薬何かのことを考えると赤字もいいところだな。 どうせなら変異種なり上位種なり出てくれると経験値になるんだがな」
下層域の魔物のドロップや素材は、どれも捨て値程度にしかならない。 途中未発見の鉱床を発見したが、採掘できる鉱石は鉄のみだった。 現在の鉄のレートはKあたり数千円程度だったと思うので今日の稼ぎとしては微妙。 あれが金や銀、もっと言えばミスリルやオリハルコンなんかだったら大もうけだったんだけどな・・・。
あとは、未踏破エリアのマップ作成でこれまた微々たる報酬が得られるくらいだろうか。
「おいおい、そんなこと言ってるとフラグになんぞ・・・って言ってる側から魔物の反応だ」
「・・・反応がデカイな下層域の魔物じゃないぞこれ」
「つうと、変異か上位種、あるいは新種って可能性もあるな。 新種だとすると情報持ち帰るだけで儲けになるがどうするよ?」
「・・・反応はこの先の角を曲がった小部屋か・・なら、魔物の姿を確認してから可能なら戦闘でいいじゃないか」
「だな。 どの道、変異だろうが上位種だろうが下層域の魔物に違いはないしな。 新種だったらラッキーにくらいは思うがな」
「よし、おっさん先行してくれ。 くれぐれも見つかるなよ」
「分かってるよ」
おっさんはいつでも戦闘に入れるように、盾を構え慎重に進んでいる。
突き当たりの角を曲がり、程なくして一つの小部屋の前に辿り着く。 扉で遮られた小部屋の中にその反応はあった。 俺とおっさんは、扉を少し開け中の様子を確認する。
そこにいたのは・・・
「まさかあれがここまで来ているとはな」
「残党狩りから逃げ延びていたのか、またはそれよりも早く階を越えてきていたか・・・」
扉の向こうにいたのは、一つ目で体長は3mほどの巨人。 そう、サイクロプスであった。
「この迷宮はとにかく広いからな、残党狩りにあわずにここまで来てもおかしくはないだろうが、見つけちまった以上は討伐しとかねぇとな」
「おっさん、笑顔が不気味だぞ。 それに本音が顔に出てるぞ」
おっさんは気持ち悪いくらいいい笑顔をしていた。
その理由は、サイクロプスのいる部屋の奥にあった。
金で作られた扉にはレリーフのように何かの模様が彫られている。
人目で何かありそうだと分かるその部屋は、
「当たり前だろうが宝部屋が目の前にあるんだぞ。 興奮しないわけないだろうが」
宝部屋。
冒険者の間でそう呼ばれるその部屋には、金銀財宝お宝の山が眠っているとされて冒険者の間では一番の稼ぎどころとされている。 ただ、この広い迷宮にあってめったにそれは見つけられない。 それだけ価値のある部屋であるのだ。
「言わんとすることは分かるぞ。 宝部屋に入れれば今日の赤字分を差し引いてもお釣りが来るぐらいの儲けになるからな。 だがな、そう考えると宝部屋を守護しているのがサイクロプスだけって言うのはなぁ・・・」
実話、宝部屋が中々発見されないのには見つかりにくい他にもう一つ理由がある。 それが、|迷宮の番人≪メイズガーディアン≫の存在だ。
迷宮の番人とは、下の階層に続くフロアや迷宮内の重要施設やポイントに配置されている通常の魔物より数倍強いボス魔物のことだ。 特に、稀少鉱石や素材などが取れる重要ポイントには必ずといっていいほど迷宮の番人が配置されているのだ。 宝部屋もその例外ではなく、欲に駈られた冒険者が迷宮の番人に挑んで帰らなくなるのもしばしばで、発見された宝部屋の情報を独占しようとする者が多いのだ。 それだけ、宝部屋は財が眠る魅力的な部屋なのだがその分ハイリスクハイリターンで、宝部屋に挑むなら覚悟が求められる。
「何言ってんだよ宝部屋目の前にして引き返すってのか・・・俺はやだぞそんなの」
「じゃぁおっさん一人で行けよ、俺は情報も準備もなしに危険に飛び込むなんて嫌だぞ」
「ぐっ・・・俺が一人じゃ魔物倒せないの知ってるだろが。 じゃぁどうすんだよ、このまま地上に戻ってマップデータと共にここのこと上に報告するってのか? そんな事したら、俺たちより先に誰かに財宝奪われちまうぞ」
「だろうな。 だから、地上に戻っても直ぐにはマップデータは提供しない」
「だけどお前、俺たちの端末データは他の冒険者にも分かんだぞ? 俺たちが、未踏破エリアのマップデータ提供してないってバレたら、それこそここに何かあると教えるようなもんだぞ」
「マップ提供はあくまで最初に未確認エリアを散策した冒険者の特典みたいなもので義務じゃないからな。 時間が経てばばれるだろうが、黙ってれば2,3日は行けるさ。 それにな、ここはまだ5階層のマップの中でもわりと端の方だ、この広い迷宮でそうそうここを通る奴はいないはずだ。 だからこそ、その間に準備を整えて俺たちが宝部屋を攻略すれば問題ない」
「成るほど、猶予は3日。 その間にあそこを攻略してマップデータを提供すれば万事OK、うまくいけば俺たちが宝部屋を見つけて攻略したことまで隠せるとそう言うこったろ」
「宝部屋の情報を隠せるか隠せないかは分からんが、少なくとも誰かに先を越されることはないだろうな。 俺たちが攻略に失敗したら情報もパーになるわけだし」
「いいさ、冒険して死ねるなら男の本望だっての」
「俺はおっさんと一緒なんて嫌だぞ、いざとなればおっさん置いて逃げて宝部屋の情報を上に教えるしな。 おっさんが俺を脅して情報を隠そうとしたって密告付で」
「鬼かお前は! それだとどう動いても俺が破滅すんじゃねぇか!」
「成功させれば問題ないだろ」
「・・・はぁ~お前はー、無表情で落としたり上げたりすんなよな・・・」
何を今更、俺に感情があるわけないだろうがよ。
俺の不利益になるならおっさんでも切るのは当然のことだろうに・・。
「で、どうするよおっさん。 やるの? やらないの? 」
「やるに決まってるだろうが」
「あそう、ならさっさと地上に戻って準備するぞ。 3日しか時間がないんだからな」
「おうよ! めざせ一攫千金だぜ」
こうして、俺とおっさんの二人で宝部屋を攻略することに決まった。
この後面倒事に巻き込まれるとも知らずに・・。
作戦決行まで後3日。




