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ステップ2

 俺こと|新庄 蓮≪しんじょう れん≫は、学園長室と書かれた部屋の扉をコンコンとノックし部屋の主の有無を確認する。 間を空けず部屋の中から「どうぞ」と返事が返ってくるので、「失礼します」と返事を返し部屋に入る。

 執務机の上に大量の書類の山があり、その向こうで黒い髪をポニーテールに纏めた女性が書類に目を通している姿が。


「相変わらず急がしそうでね」


「まぁな・・」


 俺の軽口に疲れたような声が返ってくる。

 俺は苦笑しながら「大変ですねお偉いさんは」と返してから、近くにあるソファーに腰を下ろす。 

 この女性の名前は|姫野苺≪ひめの いちご≫。 世界規模の天才を輩出し続け、世界有数の教育機関である未来学園の学園長だ。 ついでに、24歳独身ただいま婚活真っ最中のうら若き乙女さんでもある。


「お前今失礼なこと考えただろう」


 学園長が冷徹とも言える視線を俺に向けながら、対面にあるソファーに腰を下ろす。


「とんでもない。 苺さんは今日もかわいいなって思っただけですよ」


「ふん! どうせ私は、名前負けのちんちくりんな見てくれだからな!」


「そこまで言ってないでしょ? 俺はただかわいいって言っただけですよ」


「それが間違いだと言うのだ! 私は成人した大人だ、その私に向かってかわいいなどと・・・そこは普通綺麗だとか美人だとかだろうが!」


「無理です。 苺さんのその見てくれじゃどうあがいても綺麗だとは言えません」


 と、俺は苺さんを上から下まで見てから答える。

 苺さんの身長は140cmちょっとで、どう足掻いても小学生と同じくらいだ。 それに加え童顔でロリフェイス、まな板Aカップとくればかわいいとしか形容できない。 実際にその容姿は

整っていてそっちの趣味を持っている人からはお見合いの申し込みが引く手数多のようなのだが、本人としては断固としてロリではなく綺麗や美人に分類されるはずだと思っており、苺という名前もかわい過ぎて好きではないそうだ。 俺はむしろピッタリの名前だと思うんだけどなぁ・・。


「う、お前は本当に容赦ないなそこは嘘でもそうだと言うところだろうに・・」


「正直者なんですよ俺は」


「はぁ~ まぁよい。 それで、例の階層進行の報告に来たんだろう。 で、どうだったんだ豚の上位種かエロ鬼の上位種あたりがでたのか?」


「いえ、サイクロプスでした」


「なに?」


「ですからサイクロプスと下層域7階で戦闘になりました。 武器全損で辛うじて倒しましたけど、肋骨3本に全身打撲。 ついさっきまで医療カプセルで治療を受けてましたけどね」


 と腹を擦りながら答える。


「・・・」


 俺の報告を聴いて苺さんは、腕組みをして黙り込むと何かを考えるようにぶつぶつと小声で呟きだす。

 そもそも、何の話をしているのだとお思いだろう。

 けして俺と苺さんはアニメやゲームの話をしているわけではない。 何を隠そう、未来学園の地下には異世界と繋がった空間が存在するのだ。 今から20年前ふとした事からそれは発見され、防空壕のような竪穴の中に明らかに時代を凌駕する遺跡があった。 何時からそこにあったのか、誰が何のために作ったのか、その遺跡はまるで迷路のように入り組んでいて、地下へと続く階段が無数に存在、なによりこの遺跡は広く、地下にあるとはまるで思えない空間を無視して作られたかのように端という端に行き当たることはなかった。 また、遺跡に使われている技術は未知のものであり、何の目的でそこに作られたのかも不明であった。 が、この遺跡を異世界と決定づけるものが存在した。そう、魔物と呼ばれる異形の存在である。 調査して分かったのだが、この遺跡アニメやゲームで言うところの迷宮と呼ばれる代物で、下に下に行くに連れ魔物の種類が変化し強くなっていった。 また、迷宮の中には宝箱も存在し、魔物を倒せば稀に希少なアイテムも手に入ることが分かったこの辺はゲーム的要素が含まれていたことには流石に驚いた。 そして、日本政府はこの迷宮から採れる希少な資源を利用出来ないかと考えた。 そこで、迷宮を攻略する学校を作ろう、どうせなら優秀な人材を集め育成しよう...そうして造られたのが未来学園であり、都市一つを丸ごと改造し造られた学園は、表向きは天才と称される人材を育成する学校として、裏では日本各地から迷宮を攻略する人材を育成しその情報を隠すために存在する。 


「.....そうか。 このことは冒険者科の生徒と教師にも報告して、しばらくはソロでの迷宮攻略も控えるようにさせよう」


「待って下さいよどうしてそうなるんですか? 原因を取り除いたんだから警告文だけで十分でしょ?」


「これが単なる上位種発生ならそうだが、階層跨ぎ...それも、中層域の魔物が上がってきたとなると話が違う」


 階層跨ぎとは、本来魔物がテリトリーにしている階層を超え進行してくることを言う。 基本的に魔物はテリトリーとする階層から離れることはない。 だが、例外として魔物が上位種に進化した時にテリトリーの勢力が変化し階層を越えて来ることがある。 ただし、問題となる魔物を倒せば階層跨ぎは勝手に収まってくれる。 


「おそらくだが、今回の階層跨ぎの現況はサイクロプスではないだろう・・。 故に、元凶となる魔物は討伐されておらず階層跨ぎも収まっていない」


「サイクロプスが元凶じゃないんですか」


「考えても見ろ、階層跨ぎは上位種発生が原因で起こるのだサイクロプスは通常種であって上位種ではない。 さらに中層域からの進行と考えると・・」


「元凶は一体...」


「.....おそらくはサイクロプスの上位種.....ギガンテスだ」


「ギガンテス....Aランク級の魔物ですか..。 厄介ですねそれは」


 魔物につけるランクは魔物強さ危険度を表し、F→E→D→C→B→A→Sの順に変化する。

 ランクが上に成る程魔物の危険度は増し、Bランク以上の魔物はパーティ・レイドを組んでの討伐が必須である。

 ちなみにだが、サイクロプス自体は単体でCランク中位くらいなので、腕に自身のあるソロなら狩れないことはないくらいである。


「そうだ。 ギガンテスに関しては、上と話し合ってすぐに討伐隊を編成させる。 サイクロプス程度なら、冒険者科の生徒で対処できるだろうからパーティでの迷宮攻略は許可するが、ソロでの攻略は禁止する」


「そりゃないよ苺さん。 俺はソロ何だから迷宮で稼げなきゃ生活できないよ。 おまけに今回の戦闘で装備も壊れて修理代だって掛かるっていうのに」


「うむ、装備に関しては私のほうで手配して新しくしといてやろうちょうど、新型のガンソードが完成しているころだしな。 それと、ほれこいつがサイクロプス討伐の報酬+情報提供りょうじゃデバイスに送っておくぞ」


 苺さんは手に持った端末を操作する。

 程なくして、俺の携帯型デバイスに苺さんから電子マネーが送金されてくる。 予断だが、未来学園では生徒一人一人にこの携帯型デバイスが配られる。 このデバイスは生徒手帳・サイフ・携帯等の役割をこれ一つで果たしてくれる優れものだ。 使われている技術はもちろん迷宮から持ち出されたもので、ここ数年で日本の技術力は一気に50年は進歩したといわれている。 俺がさきに語った医療カプセルもその一つで、数ヶ月単位の時間のかかる怪我の治療を数時間に短縮してくれる。 文明の知己ってすばらしいよねw


「はぁ、しゃぁないですね。 問題が解決するまでは大人しく迷宮に潜るのはやめときますよ」


「何だ? やけに物分りがいいな」


「お金も貰いましたし、無理して迷宮で稼ぐ必要もないですからね」


 俺はそう告げるとソファーから腰をあげ部屋から出る。


「なんならパーティを組んで迷宮に入ってもいいじゃないか?」


「それこそまさかでしょ? 俺はいない者で壊れてますから...」


 蓮は笑って誤魔化そうとしているが、その瞳の奥にはあきらかに別の感情が見え隠れしていた。


「そんじゃ、早めに問題解決して迷宮に入れるようにしてくださいね~」


 蓮は後ろでに手を振って部屋から出ていってしまった...。


「蓮よお前の中にはお前意外にもちゃんと.......」


 苺は蓮の出て行った扉を見つめ呟くのだった...。

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