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2-(2)

2-(2)



 その大きな音を聞くと、ミズは苦い顔をした。

「うーん、修理が必要だな」とミズは呟いた。「ハート!」

「はいっ!」

 すぐさま返事は返ってきた。

「作りなおしだ。開くのに時間がかかりすぎだし、あと音も」

「仕組みがよくわかりませんで……」

 ハートはしどろもどろといった様子で答えた。ミズは、そう答えたハートという名の女の子を睨んだ。

「ボス、ちゃんとやっときますから」

 ハートが泣きだす前に、体格のいい中年の男がハートを庇うように前に出てきた。

「あれ?」

 ジャスティーはその男をまじまじと見た。「ハゲ電工!」

「んんっ!?」

 ハゲ電工はジャスティーを見返した。そして、「ジャスティー!?」と驚いたように叫んだ。

『ハゲ電工』はこの星の電気屋と溶接工と大工をやっているマジックハンドのおじさんだ。ジャスティーたちもよく世話になっていた。名の通りの間抜けな見た目の割に腕だけは確かだった。機械は、寿命ぎりぎりまで生きられる。

「よぉ……」

 ジャスティーがそう言って手をあげた瞬間、ジャスティーの視界は天を仰ぎ、背中から地面に落ちた。

「いっ……てぇ!」

 ジャスティーは首根っこを掴まれ地面に落ちた。落とされた。

「ミ……ミズにおんぶ……って」

 見知らぬ女の子がジャスティーを見下ろしていた。ジャスティーと同じくらいの歳だった。

「ミ……ミズに……」

 うーん、ミミズって言ってるな……。

「ちょっと! 何やってんのよフラニー」

 なんだなんだ!? ジャスティーは混乱した。ここには人がたくさんいるぞ。こんなところに。

「あー……?」

 ジャスティーは間抜けな声を出した。今度はよく知ってる顔が目に入った。

「ハルカナ……?」

「ジャス! やあっとここで会えたね!」

 ハルカナに続いてまたもう一人。

「どこにいてもうるさいねぇ」

「ルイ?」

 ぼーっとする、頭打ったのかな、俺。ジャスティーは深くものを考えることができなかった。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ…………

 再び扉の音が響いた。

「ん?」とレイスターが言った。「お前らの方が早いのか?」

 その扉からレイスターとライラが現れた。ジャスティーはレイスターの顔を見るとなぜかホッとした。

「ジャス……、また騒動か?」

 レイスターが場の空気を読み取ってジャスティーに問う。

「違うっつーの!」、……多分。

「おい、ここではレイスターに向かってそんな口効くな」

 ライラがジャスティーに詰め寄った。会ってまだ数分しか経ってないのに……、なんで俺はこんなめにあってるんだろう。ジャスティーはそう思わざるを得なかった。

「ジャスがいると賑やかでいいな」

 ミズが呑気にそう言った。ジャスティーは全ての原因はミズにある気がしてきた。

「ふん」と一つ鼻で息をした後、レイスターは冷静でいて、燃える青い炎を目に宿し、鋭い声で言った。「集!!」

 その声に、足音が響き出し、虫が湧くように人が集まりだした。

「うわ、うわっ……」

 ジャスティーは人にぶつかりまくっていた。ジャスティーだけが、レイスターの掛け声にどう行動していいのかわかっていなかった。ミズもいつのまにか消えている。

「ジャス、こっち」

 ハルカナがそんなジャスティーの腕を引っ張った。

「列!!」

 集まったと思った瞬間に、レイスターがまた号令をかけた。

「ジャス、こっちだよ」

 今度はルイがジャスティーを導いた。束の間の錯雑。その後、きれいに隊列が出来上がっていた。ジャスティーの前にハルカナ。後ろにルイ。この二人は、ミズを含め、ジャスティーと兄弟のように仲良く育った仲間だ。未知の世界に放り出されたと言ってもいいが、この二人に守られるように挟まれているジャスティーの不安はだいぶ軽減された。ここを仕切っているらしいレイスターは、ジャスティーにとってはもう別人のように見える。眉は常につり上がり、生まれてこのかた笑ったことなど一度もないと言っても驚かない、そんな雰囲気を纏っていた。


「遂に、君たちに動いてもらう時が来た」

 レイスターは強く、はっきりとした声で話し出した。ジャスティーが周りを見渡すと、みんながギラギラした目と真剣な顔をしていて、レイスターの言葉をありがたく聞いているように思えた。

「前向いて聞かないとまた怒られちゃうよ」

 ルイが後ろから耳打ちした。

「この雰囲気はなんだ?」

「しっ! 総長様のお言葉だよ」

 総長?

「6年という歳月を費やして、やっと形になった。運命の日まであと4年。万全の態勢でこの星の未来を守るため、これから君たちには訓練に入ってもらう」

 運命の日?

「ネスは4年後、叡知の星と呼ばれていた輝く光、このネスの地に、美しさと世界の広大さ、そして何よりも希望を与えてくれていたコウテンから、侵略を受ける!」

「えっ!!」

 声を上げて驚いたのは不思議なことにジャスティー一人だけだった。そんなジャスティーは周りから一斉に注目をあびた。

「はぁ……」

 そしてジャスティーの後ろからルイのため息が聞こえてきた。だ、だって……とジャスティーは思う。なんだよそれ。

「……続ける!」

 レイスターがそう叫ぶと、みんなの視線は一斉にジャスティーからレイスターへと戻った。

みんなの反応を見る限り、知らないのは俺だけか……。ジャスティーはレイスターを睨みつけるように見た。一瞬だけ、二人の目が合った。しかしレイスターは素知らぬ素振りで話を続けた。

「君たちは我が大切なカードだ」

 カード? そういえば、『ジャス、カードの一枚』。たしか機械に向かってミズが言ってた。

「命を掛けてネス存続の危機を脱しよう。この星の希望はまだ輝いている。寝込みを襲うような邪悪な力に罰を! そしてその罰を与えるのは我々……」

 そこでレイスターが一呼吸の間をおいた。

「SpaceShifterスペースシフターだ」

 

ガガガガガガ…………


 地鳴りのように音が響いた。コンクリートのような灰色の地面が縦に裂けていく。ジャスティーはその光景に見惚れていた。

 地に開いたゲートから出てきたのは、巨大な、巨大で強大な戦艦だった。ジャスティーが一目で戦艦だとわかったのは、むき出しになった銀色の砲台が目に飛び込んできたからだ。

「まだ途中だけど」

 ボソとミズが呟いた。

「選ばれし優秀なカードがこれに乗り、勇敢なる誇りを掲げ敵地へと向かう。正義は必ず勝つと、我々の手で証明しよう。各々訓練に励んでくれ。後は各隊に任せる」

 レイスターはそう言うとその場を離れた。

「じゃあ後は各隊でよろしく」

 ミズが爽やかにそう言うと、レイスターの後ろに続き、ここではないどこかへゲートを出て消えてしまった。

「第一部隊、集まれ」

「?」

「私たちのこと」

 ハルカナがジャスティーの手を引いた。誰かに手を引かれなくては、ジャスティーはどこにも行くことができない。


「げっ……」

「なんだ?」

「いえ……」

 ライラだ……。よりによってライラだ。俺苦手なんだけどこの人。ジャスティーの口元はふるふると歪に震えた。

「ライラ隊長は私たちカードの中でいちばん強いの。つまり、その隊に属する私たちは……、今、いちばんスペードに近いのよ」

 ハルカナがこそっと耳打ちした。ジャスティーにはやはり理解できなかった。カード? スペード? 恨むぞ、レイスター、そしてミズ!!





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