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「まったく! 今日は私の代わりに行ってらっしゃい。留守番は私がしとくわ」
深くため息をついてアスリーンはジャスティーに向かって言った。
「マジか!? レイスター!」
「……。あまりはしゃぐなよ」
レイスターも、ジャスティーの顔を見るとなぜかため息をつき、そう言った。ジャスティーにとって、「喜ぶな」ということは無理な話だった。
「ジャス、準備をしよう」
ミズがジャスティーの腕を引っ張った。ジャスティーは引っ張られるまま、ミズの後についていった。
「はい、ジャスの」
ミズはそう言って、赤いマントをジャスティーに羽織らせてやった。
「あれ? ちょっと大きいな」
ミズが言った。ちょっとどころではない。マントの裾が床につくほどだった。誰が見ても『変態』っぽい風貌になった。フードを被ればジャスティーの顔全体が隠れてしまう。
「絶対おさがりじゃんか!」
ジャスティーは叫んだ。
「アスリーンって、お前のことどんだけ成長すると思ってたんだろ」
「え?」
「いつかの日のために、アスリーンはお前の分もちゃんと作ってたんだ。防衛団のマント」
「……」
ジャスティーは黙りこんだ。
「でもこれは酷いな。作りなおして……」
「いいっ! 俺はこれで」
ジャスティーは勢いよくマントを翻した。大袈裟にふわりとひらめく。見た目の割に軽いマントだ。
「……だな。お前、まだ成長期だしな」
ニヤッと悪賢く笑ってミズは言った。そしてミズも自分のマントをはおった。ジャスティーはマントを纏ったミズの姿を見るのは初めてだった。もう貫禄が漂っている。着慣れた団服って感じだ。ジャスティーはその姿を見てそう思った。
「ほら」
ミズが銀色の金属製のペンのようなものをジャスティーに渡した。
「……ペン……ライト?」
二色ボールペンのように見えた。しかし先端はペンではなかった。黄色いボタンだ。そして、上部には二つのスイッチがある。赤と青。ジャスティーは何気なく赤色のスイッチに手をかけた。
「ダメだっ!!」
ドクンッ!! ミズのあまりの声のでかさにジャスティーは肩を震わせた。
「……え?」
「悪い、説明もなしに怒鳴ってしまった。でも勝手に触らないでくれ」
「う……うん」
「ジャス、『セーフティ』ってのは『青』だ」
ん?
「安全な色は青ってこと。だから、ジャスは今日、青のスイッチしか押しちゃダメだ」
ジャスティーは深く考えずに頷いた。細かいことはわからないけど、青しか押さなければいいことだ。
「じゃ、行こう」
「えっ!? 武器とかは?」
ジャスティーが渡されたのは青しか押してはいけないペンだけ。初陣には頼りなく感じた。
「……もう渡したよ?」
「こっ、これ?」、ジャスティーはペンを見た。「いや、ほら、鎌とかさー」
「ジャス……、そんなんじゃないよ武器ってのは。そのペン、大事にしろよ」
呆れたように笑いつつそう言うと、ミズは歩きだした。
「あっ! 待って」
ジャスティーはその背中を追う。案の定、マントの裾が物置に引っかかってジャスティーは頭からこけた。
「って……」、やっぱり裾上げしてくれ、アスリーン。
「レイスター、あれは何? とてもキレイに光ってるよ」
「……」
レイスターはジャスティーの質問に答えない。
ジャリ、ジャリ……。昼には感じられない静けさの中、ジャスティーは自分の一歩一歩がとても重みを持ったものに感じた。チラチラと光る星屑。ジャスティーは手を伸ばす。白く光る一際輝く丸い大きな星。手を伸ばした先には永遠がある気がした。
「宇宙は……一つ」
ジャスティーは呟いた。
「コウテン星っていうんだよ」
レイスターの代わりにミズがジャスティーの質問に答えた。
「コウテン……」
「向こうは昼かな」
「えっ!?」
「ミズ」
レイスターが止めるようにミズの名を呼んだ。
「?」、ジャスティーは首を傾げた。まぁいいか。夜に輝くあの大きな星は、『コウテン星』って言うんだ……。とてもキレイだ……。
暫く三人で歩き続けていると、ジャスティーはふと思った。『悪党たちは?』
「レイスター、お疲れさん」
「よ、ミズっ!」
顔見知りの人たちばかりにしか会わない。そして、やはり人は少なく、暗さは恐怖を煽るのかもしれないが、昼よりも神聖なる世界にジャスティーは思えた。
赤いマントの俺たち。ジャスティーは思う。俺たちのほうが悪党みたいだ。レイスターもミズも、周りを見渡すこともせずにただ歩いている。これは巡回じゃない。明らかにどこか目的地があって、そこへ向かっている。どういうことだ? 防衛団じゃないのか? なぜ俺は夜に外に出たらダメだったんだよ。
ジャスティーは夜の散歩の足を止めた。レイスターとミズはそれに気付くことなく歩いていく。
「なぁっ!」
ジャスティーのその声に、レイスターとミズは足を止めた。ミズが振り返ってジャスティーを見た。ミズとジャスティーの距離はだいぶ離れていた。
「あっ! ダメだって! そんなところで止まっちゃ……」
え? そう思った次の瞬間、ジャスティーの上から赤い閃光が降ってきた。