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 ミズが家族になって6年。ジャスティーは15歳になって、ミズは17歳になった。

 ジャスティーは、自分の知らないところで何かが動いていることは感じ取っていた。だけど、この星の存命がかかるようなことが起こっているとはてんで想像つくはずもなく、ジャスティーだけは違う世界を生きているみたいだった。想像力や頭のよさで片付く話ではない。

 ジャスティーは、青碧の湖畔の力を、素晴らしくも恐ろしく思うこととなる。



 お皿に盛られた、茶色いタレでつやつやに光る鶏肉の丸焼きを見て、ジャスティーは呟くように言った。「なんでごちそうなの?」

 三人が同時にジャスティーを見た。

「そりゃ、何かめでたいことがあったからでしょー」

 アスリーンがしれっとした表情で答えた。おめでたいこと? ジャスティーは思う。それってどんなこと?

「おめでたいのかなぁ?」

 ミズが困ったように笑いながら言った。

「めでたくはないんだよな」

 それに続いてレイスターが言った。

 知らないのは俺だけってことか。こういうのがいちばん気に食わない。ずっとそうだったから。ミズとレイスターはこそこそしてる。ずっと俺に何かを隠し続けている。ジャスティーはこの状況に少しの怒りを感じた。

「あら、みんな酷いわね。ま、そうかもしれないけどさ、ジャス、あんたにとってはおめでたいことだと思って、私、手間暇かけたのよ」

 ?

「ジャスにとってはめでたいか」

 意味深にミズが笑った。

「サンキュ、ジャス。お前のお祝いのおかげでごちそうが食べられる」

「ミズ……どういう……」

「バカ息子、そろそろ落ち着いて食べろ」

 レイスターが言った。

 レイスター……。俺にはさっぱりだよ。お祝いってなんだ? 主役であろう俺がこんなに戸惑ってるのはおかしいじゃないか。

「あっ!」

 ジャスティーは急に思い出したように叫んだ。みんなの食事の音が止む。

「俺の誕生日?」

 暫く無言を貫いた後にレイスターが呟く。「ほんとバカ……」

 ジャスティーは諦めて、アスリーンが切り分けてくれた肉を豪快に口に頬張った。ジャスティーの時が止まる。お、おいしすぎる。

「はっ! じゃあなんだっ!?」

 おいしさに気を取られそのまま食事に熱中するところだったが、やはりしつこくジャスティーは食い下がった。

「後のお楽しみー」

 アスリーンが薄ら笑みを浮かべて言う。祝ってんのかな、本当に。順序が逆ってもんじゃないの? ジャスティーは引きつった笑みをアスリーンに向けた。

「……ってかアスリーン! お前も知ってんのかよ!」

 ミズとレイスターだけの秘密があることは知ってたけど。

「当たり前じゃないの。大人だもん」

「てめっ!」

 ゴツッ……。ジャスティーの頭にニシンの酢漬けの瓶詰めが当たった。

「いっ……」、てぇ!!

「アスリーンに対する口のきき方がなってない」

「ご、ごめん」

 ジャスティーは素直に謝った。ひでぇな、レイスター。アスリーンのこと、愛してもやらないくせに、さりげなく庇いやがって。

 それでも、レイスターに庇われたアスリーンは嬉しそうだった。



 レイスターが時計を見る。時計の針が示す時刻は午後8時の10分前。もう窓の外は真っ暗だった。ネスの一日の大半は暗い。夜は長く、そして寒い。長い夜は、凶暴な獣や悪人たちが活動する。

 レイスターとアスリーンは、『ネス防衛団』をつくり、毎夜ネスの秩序を乱す奴らを裁いていく。ミズの発見も、防衛団の巡回中の時のことだった。ジャスティーは自分もそうだったのか聞きたいけれど、二人に聞くことはできなかった。ジャスティーは夜の外出を禁止されているのに、ミズはここに来た頃からレイスターたちの防衛団に入っていた。「10歳を過ぎたらいい」とごまかされ、その後も何かと理由をつけられ、ジャスティーは15歳になった。でも、レイスターがミズだけを特別に連れて行くことは、ジャスティーなりに納得していた。ミズだから、仕方ない。


 午後8時……。


「行くか」

 白いカップに入ったブラックコーヒーを飲み干すとレイスターは言った。ミズもブラックコーヒーを飲んでいる。それをテーブルの上に置くと、「はい」と言ってミズは立ち上がった。ジャスティーははちみつとミルクたっぷりのコーヒーを手に持ち、その様子を眺めていた。

「ほら、行くぞ」

 ミズはジャスティーの右肩に手を置いた。ジャスティーは反射的にミズの顔を見る。ミズは優しく微笑んでいた。

「え?」

「夜を知らないんだろ? 僕は早くお前と夜を歩いてみたかったんだ」

「……レイスターに言ってよ」

 ジャスティーは少し苛立ちミズから目を逸らした。

「ジャス、行くぞ」

 その次の瞬間、レイスターの声が聞こえた。

「……」

 ジャスティーは口をポカンとだらしなく開けたまま、はちみつとミルクたっぷりのコーヒーが入った白いマグカップを落とした。


「さいってー!!」

 アスリーンが叫んだ。しかしその声はジャスティーにはぼんやりとしか聞こえていなかった。



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