17.決断-開戦の狼煙-
17.決断 ―開戦の狼煙―
「……」
ミズはそのポッドを見るとなぜか全身に鳥肌が立った。
「どうする?」
ライラはそんなミズを横目に相変わらずの冷静さを漂わせながら問う。
「レイスターは何も知らないの?」
ミズはライラに聞く。
「何も知らない……って素振りではなかったが、理解不能って感じだったな」
『今よ、R』
「そうか……。Rってのは、誰かの頭文字? コウテン側の人間? それともネス側の人間?」
「Rのつくやつねぇ……。レイスターってのが手っ取り早いが、そんな感じでもなかった」
「……」
ミズは暫く考え込む。なんだ? このタイミングは。ちょうど、僕がここに来てから10年後の今、10年後、ネスがコウテンを侵略するとされた今、再びこんなものがネスの泉に落ちた。
「うっ……」
ミズは左目を押さえた。
「どうした?」
「いや……。目にゴミが入ったのかな」
ミズは左目に謎の痛みを感じたが気には止めなかった。そう、目にゴミが入っただけだ。
「……今だと思う……」
そしてミズは呟くように言った。
「え?」
「……レイスターにも伝えてくれ、各隊を緊急召集! 僕はこの情報を信じる」
ミズの強い口調を聞き、ライラは動いた。
「どうせ、もうすぐ出陣だったしな。予定がほんの少し早まっただけだ」
「ああ。やっぱりネスは何かに守られているよ」
「なんだそりゃ。そういうものは信じない」
ライラはそのミズの言葉を否定せずにはいられなかった。
「燃料は全て母艦に積みこめ! 急げ、ハート!」
「はっはいぃ!」
「何があったんだ、まったく」
急な召集。急な出撃準備。電気工は疑問を抱きつつも素早く動く。
「ほんとよ。完璧につくりあげたかったのにぃ!」
ダリアもまた珍しく真面目に手を動かしつつそう言った。
「ダリア、ハート。一緒にスペースシフターに乗ってくれ」
皆が慌ただしく動く中、機械班のところにミズがやって来た。
「えぇぇえ!」
ハートはいつも通り、なんともいえない変な声を出した。情けなさしか感じない。
「当初の計画から来てもらう予定だった。機械班は当然現場にも必要だ。僕1人じゃだめだ」
「ア……、アスレイとか、シスカとか、ルイだっているじゃないですか……」
ハートはおどおどしながらもミズに意見を述べる。行きたくない思いが強い。
「あいつらは♠だ。いつどうなるかなんてわからない。僕は君に非戦闘員として来いと言ってるだけだぞ」
ミズの目が鋭く光る。『本気』で厳しいことは珍しい。
「じゃ、じゃあ老体でも私が」
それを見た電気工が言った。
「ダメです。そりゃ、ネスにだって核となる人物に残ってもらいますよ。戦いが長引くかもしれない。常にここを稼働させておきたい。ネスに戻らなきゃいけない負傷兵や、負傷機だってでてくるんだから」
ミズはそう言葉を返す。電気工が返す言葉は何もない。
「あんたたち、戦争するってわかってここに来たんでしょ? ハート! 行くわよ! どうせここにいたって、母艦に乗ってたって、負けりゃどのみち死ぬんだから一緒なのよ」
ダリアがそう言った。実にその通りだ。ミズはダリアのその言葉に意表を突かれた。まともなことが言えるのか……。失礼なことを思っていた。
「そうでしょう? 副長さん。♠のクイーン。仰せのままに」
ダリアはウインクをした。
「……うん。よろしく頼みます」
ミズは引きつった笑みを隠せずそう言い、ハートは首を落とし、諦めた。
「ミズ―!!」
聞こえてきたその声にミズは素早く振り返る。
「ジャス!」
「すまねぇ、こんな時だけどちょっと機体のチェックがいる」
「どこ行ってたんだ! 心配したんだぞ!」
「あ……、ごめん」
暫くの間、不思議な空気が2人の間に流れた。なんと呼ぼう? それはあたたかいものだった。
「ポッド見ただろ? あれ、変な感じがするんだ」
ジャスティーは次にそう言葉を発した。
「変な感じ?」
「なんだろ……。わからない」
ジャスティーは正直にありのまま言う。
「じゃあ僕にわかるわけないだろ」
ミズはジャスティーと話すとなんだか力が抜けて優しく笑った。ジャスティーの相変わらずのバカさ加減はミズの緊張感をひも解く。
「確かに不可解かもしれないが、このままここにいるほうが危険な気がする。時は今なんだ。僕は、その予感を信じる」
「……じゃあ、俺も信じる!」
ジャスティーは思い切りそう言った。
「だって、ミズが言ったことは、俺、全部信じられる」
「え?」
「安心していいぞ、ミズ。お前がそう思うなら、それは正しい。だってさ、ミズ知ってた? お前ってな、一度も間違ったことなんてないんだぜ」
「そんなはずないだろ」
ミズの顔が赤くなる。
「本当だよ。ミズ」
ミズは顔を振って話題を変えた。ジャスティーに弱いことはわかってた。
「……ジャス、お前にかかってる。開戦の狼煙はお前のスピードのエネルギーだ」
「大丈夫! 任せとけ!」
返事だけはいい。が、いまいち心配だ。ミズの正直な感想はこれだった。
「あれ? れ?」
ジャスティーは何かに気付いた。
「なんだ?」
目線はミズの頭の上だ。
「ミズ、いつのまにか背ぇ高い。ずるい」
「……。お前たちの子守が大変で、急いで大人になっちゃったんだよ」
「ふぅーん」
ジャスティーはなんとなくその意味が理解できた。ミズは半分冗談で言ったつもりだろうが、ジャスティーはきっとその通りだと思っていた。
「ジャス! ライラが呼んでる! 召集!」
走りながらハルカナがジャスティーを呼んだ。
「行け!」
ミズがジャスティーの背中を押した。押されるまま、ジャスティーはハルカナの元へ走る。
「ミズ!」
が、立ち止まり叫んだ。
「?」
「俺のこと、信じてくれる?」
なんで疑問形なんだよ。ミズは思った。『俺のこと信じろ!』って、いつものジャスならそう豪語するはずなのに。
「当たり前だろ?」
当たり前のようにミズはそう言った。ジャスティーはそれを聞くと安心して駆けていった。
「はいはい、甘いねぇ」
「わっ!」
ミズは突然背後から聞こえた声に珍しく声をあげて驚いた。気が抜けていた。
「レ、レイスター?」
そこにはレイスターがいた。レイスターにだけは言われたくない、その言葉をミズは飲み込んだ。
「何やってるんですか。早く皆のところに行かないと」
「わかってるよ」
そう言うと、レイスターはミズの頭をぽん、と叩いた。
「ついに、動くか」
「はい」
「これは未来のための、正しい行いだよな」
レイスターは言った。
ミズは、すぐに返事をすることはできなかった。そのはず。そのために今まで皆で全ての生活をなげうってこの日のために頑張ってきたんだ。だけど、いざそう問われると、『正しさ』なんてものを問われると、どう返事をしていいのかわからなかった。
「すまない。お前に聞いてばかりで」
レイスターは笑ってそう言った。
「ア、アスリーンを守ることが正しい行いならば、これは正しい行いです!」
ミズははっきりとそう言った。
「それは……、正しい」
レイスターは納得した。
「おい、下らないことで遅れるなよな。正しさなんて求めるな」
もちろんこれはライラの言葉だ。
「もー、ライラはいいよね。でもレイスターは繊細なの!」
ミズはライラに対してそう言った。
「ふん」
冷たいライラの合槌。
「行こう、レイスター。皆集まってる。ちょっと……、問題があるが」
ライラは呟くようにそう言った。




