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 ジャスティーは産まれてすぐに、『青碧セイヘキの湖畔』に捨てられていた。そこは、ネス星で一番美しいと言われている場所。荒れ果てた地の多いネスで、奇跡的にきれいな水が溢れ出る、この星にとって神聖な場所だった。

 ジャスティーが自分の捨てられていた場所を知ったのは、ミズがこの家に来てからだった。ジャスティーが九つの時、レイスターはボロボロの服を着たミズを連れてきた。ミズは衰弱しきっていた。レイスターとアスリーンの必死の看病により、ミズは徐々に元気を取り戻していった。

 ジャスティーはずっと傍でミズを見ていた。ずっと、だけど、こっそりと。ジャスティーはなぜか怖かった。ミズのことが。


「ねぇ、レイスター。あの子は誰?」

「ミズだ」

「水?」

「水じゃない、ミ・ズ」

「ふーん、変な名前。ねぇ、レイスターがつけたんでしょ?」

 ジャスティーは少し悪戯っぽく笑ってレイスターに聞いた。

「いや、あいつは青碧の湖畔にいたから……」

 湖畔にいたから『ミズ』なわけ? 安直すぎる。その時のジャスティーは思った。

「あいつは、青碧の泉が生んだ希望の子どもだ。あいつは、このネスにとっての青碧の湖畔そのものなんだ。だから……、ミズだ」

 ジャスティーは、その時のレイスターの真剣な顔と強い眼光に恐れを抱いたことを今でも覚えている。ジャスティーが初めて見た表情だった。

「人は、泉から産まれるの?」

 ジャスティーがそう言うと、レイスターはジャスティーの頭を優しく撫でた。レイスターの表情も優しかった。

「……そうだな。お前らは、本当の兄弟だな」

「俺のがお兄ちゃん?」

「いや、それは違うんじゃないかな」、レイスターは顔をしかめた。「ジャス、ネスのみんなは家族だ。ネスは小さな星だ。色々な星から人が身を潜めに来たり、囚人が逃げ隠れする絶好の星かもしれない。だけど、みんな素行は悪くても、根はいい奴ばかりだ。みんなで助け合って、ネスの未来を守らなくちゃいけないよな」

 そこにはレイスターの確固たる意志があったけれど、当時のジャスティーにはわからなかった。


 ジャスティーがミズと初めて言葉を交わした頃には、ミズがここに来て丸一ヶ月は経っていた。

「おいでよ」

 戸口の柱から自分をじっと見つめるジャスティーにミズは言った。

「僕のこと、ずっと見てたよね? 君なりの看病?」

 ジャスティーはミズが何を言っているのかわからなかった。ジャスティーにとって、ミズは自分よりも随分大人に見えた。

「怖がらないでよ。それとも怒ってるの?」

 ジャスティーがその場から動こうとしないので、ミズはベッドの上でため息をつきながらそう言った。  怒ってる? ジャスティーは首を傾げた。

「君のお父さんとお母さんを取ったみたいになっちゃったよね」

 やっぱりミズが何を言っているのかジャスティーにはわからなかった。

「あ、ごめん」

 ジャスティーの様子を読み取ったミズが言った。

「確かに二人は僕の親だけど、僕と君は同じところで生まれたみたい」

 そのジャスティーの言葉にミズはきょとんとした。そして暫く黙りこんだ後、「そうだね」と言って笑った。

 ミズは華奢だったけれど、ジャスティーより背が随分高かった。やっぱり俺は弟みたいだ、とジャスティーは思った。

 肩までかかる少し長い髪。女みたいに白い肌。涼しげな目元と、笑うと消えてしまいそうな薄い唇が特徴的だった。



 あの頃の俺は、本当に泉から人が生まれてくると思ってた。俺はすごく無知だったから。でも、今はもちろんわかってるよ。俺とミズは一緒。

 捨てられた子ども。





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