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15.対極からの眺め

15.対極からの眺め



 高い城の窓から見る景色は、整えられすぎた作りもののオブジェのように見えた。無機質な白を基調としたまちのつくりは、人間味を失っている。ここに住んでいるのは、機械、ロボット。そんなもの。

 きっと私も、そんなもの。イリスは窓を開け、そんな景色を眺めていた。

「イリス」

 そこに背後からイリスの名を呼ぶ優しい声が聞こえる。イリスは振り向くことはしなかった。

「最近ずっと、落ち込んでるように思える」

 その優しい声の主は、イリスを後ろから抱き寄せると、顔をイリスの肩にうずめて耳元でそう囁いた。

「嫌な夢ばかり見るわ」

 イリスは前を向いたまま言う。

「……イリスの夢の中まで入って、俺が斬りつけることができたらいいのに」

「だめよ!」

 イリスはやっと相手の顔を見た。抱き寄せられた手を振り払って。

「戦ってはだめよ」

「イリス……」

「私の見る世界は、こんなにも整えられた偽物の平和。だけど、この城の反対側では、枯れた緑と土にまみれた荒野が広がっている。どうして……、彼らと殺し合わなくちゃいけないの」

 イリスはベッドに腰かけ、ふるふると震える声で訴える。

「またか……。イリス、奴らがしかけたことだ。種族が違うから、しょうがないことなんだ」

「わかりあえるわよ!」

「……。イリス、戦争ってのは、そういうキレイ事じゃないから起こるんだ。今、こうやってイリスがせつなく泣くことだって、俺たちが手を汚さなけりゃできないことなんだ」

 そうなの? イリスはそう言われると返す言葉が見つからなかった。

「守るために戦うことは、悪いことじゃないと思うんだけど、イリス、蛮族から乱暴を受ける女たちをこれ以上増やしたくない」

「そうよね、私は、何もわかってないのに……」

「その純粋な心を俺が守るから、イリスは何も心配しなくていい」

 男は優しくそっとイリスの頬を触る。

「ありがとう、アザナル」




 そこはコウテンの中心、キングとクイーンの城。高い丘の上に高い塔がおびただしく並んでいる。その城壁は金で塗られている。ところどころがダイヤで光る。そんな装飾は余計なお世話だが、現クイーンの意向だった。「全てのものに美しさを」。

 その城壁の上に設置されているのは、虹色に光るレンズをもった対空砲なのに。城は多種多様な迎撃システムが備わっていた。コウテンでは科学の発達が著しく早い。昔、ある時点から急速に進んだらしい。詳しくそのことを知る者はいない。科学の発展。それは研究者と権力者を虜にした。

 必要のないものまでつくりだす。その代表が、まさしく多すぎる軍事的な設備だった。コウテンでは、毎日「蛮族」とよばれるコウテンの南に住む種族と戦っている。しかし、科学が発達してしまったコウテンはもはや蛮族など簡単に掃討できる武器を開発している。だが、その代償として、コウテンは汚染化学物質を大気中に、水中にばら撒き、そのせいで森の木々たちは枯れ、蛮族のエネルギーとなる大気は聖なる力を失い、コウテンを憎む蛮族の力が増していく。

 敵わないとわかっていながらも、蛮族は怒りに震え、大地を震わせ己の力でコウテンの人間と闘う。そして時に、女子どもを襲う。武器なしでは、蛮族の力に人間は敵わない。

 コウテンの秩序は乱れていた。




「おい、アザナル!」

 アザナルは後ろを振り向く。白い廊下には絨毯がひかれ、あまり足音が響かない。

「またイリスのところか?」

「なんだよ、いいだろ。俺はのちのちの王かもしれねぇぜ、コーネル。ちゃんと恩うっと

けよ」

 アザナルは嫌らしく笑うとそう言った。

「ふざけるな。お前が王なんて考えただけでもぞっとする」

 無表情にさらりとコーネルは返す。アザナルも沈黙した。

「……で?」

「召集だ。軍会議が開かれるぞ」

「なんで? めんどくさいな。ちゃんとやってんだろ? 白のナイトさんよ」

「ああ。やってくるよ」

 コーネルはトーンを落とす。

「?」

 アザナルもその変化に気付く。

「どうした?」


「蛮族が本気を出した。あいつら、集団で森の境界線を抜けてくるらしい。今までは協調性に欠けたチンピラみたいな蛮族を殺ればいいだけだったが、今回は蛮族の王が指揮をとるという警備してたポーンからの伝達だ。ちと厄介になるかもしれん」

 コーネルはアザナルと共に軍事塔へ向かう。

「なんで今ごろ……」

 最もひどい汚染時期は終わったはずじゃないか?

「さぁな。誰か焚きつけた奴でもいるかもな」

 コーネルは真剣な顔を崩さずにそう言った。

「……ふん。ま、死に急ぐだけだがな」

 アザナルは言った。

「……蛮族にも、誇りというものがあるんだよ」

「おい、その言葉、キングの前で言ったら殺されるぞ」

 アザナルは怪訝な顔をしてコーネルにそう忠告した。

「表向きは優しいが、蛮族に対しては特別なねちっこさを感じるんだよなぁ」

「おい、その言葉もキングの前で言ったら殺されるぞ」

 コーネルもまた、同じようにアザナルに忠告した。


「ふん、いいさ。キングの望みは叶えてやる。アヴァンネル騎士団のナイト。俺とお前でな」

 アザナルはキリっとした表情でそう言うと、コーネルの胸をコツン、と叩いた。

「お前たち、黒の騎士団の出番はないぞ」

 薄ら笑みを浮かべ、言葉を返すコーネル。

「ふん」

 アザナルはそれを鼻で笑う。



「早く来なさいよ。遅れてるわよ2人とも」

 そこに会議室から冷やかな声が聞こえた。美しいけれど、冷たい声。何を考えているのかわからない、黒く長い髪を携えた女。


「リア」

「……。アザナル、あなたの出番はないわよ」

 そう言うと、リアはスッと部屋の中へ入っていった。

「なんだよ。白の騎士団ってほんと陰険だよな」

「あの人は誰にだってそうだよ」

 コーネルもまたそう言って会議室の中へと入っていった。アザナルは「はぁ」とため息をついてその後に続いて入っていった。






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