14.コウテンからの使者
14.コウテンからの使者
ズズン……。何かを感じ取るネスの大地。
「……?」
アスリーンは何気なく外に出た。
「何か、来た」
そしてそう呟く。あの日と同じ。いや、あの日と同じ? アスリーンは言いようのない不安に襲われた。レイスター……。そしてその名を呼んだ。
基地では慌ただしく皆が動きだしていた。
「レイスター! 僕も向かうけど、先に行って下さい! ジャスが戻ってない!」
ミズは少し冷静さを欠いていた。レイスターに叫ぶように言う。
「ああ。場所はあそこなんだな?」
「ええ、座標はあそこです。常に、あそこな気がするけど」
「……また希望ならいいけどな」
レイスターは皮肉ったように笑う。そうではない予感がするから。
「おい、俺も行くぞ。ここからなら車の方が速い。乗れ」
ライラがレイスターを呼んだ。
「ライラ!」
ミズが怒ったようにライラの名を呼んだ。
「ん?」
なんともない素振りでライラは答える。
「ちゃんと自分の♠隊を管理してくれ! ジャスとバインズが戻ってない!」
「……甘いんだよ、お前は。俺はちゃんと管理してる。♠なら宇宙で迷子になるはずない」
ライラはそう冷たく言うと一足早く外に出た。
「まったく……」
ミズはため息をつく。
「大丈夫か?」
レイスターがミズに言葉をかけた。
「え? ええ。すみません。行って下さい」
ミズは今では落ち着きを取り戻していた。レイスターはそれを確認するとライラの後を追った。ジャスティーのことはミズに任せることにした。
―青碧の湖畔から500m東―
ジャスティーはポッドの後を素直に追跡していた。軌道から推測して、墜ちる場所もまさかとは思いながらも予測がついた。
「……」
スピードからジャスティーは降りると、煙幕を漂わせる丸いポッドに近づいた。隕石? いや、違う。これはエネルギーを発して飛んでいた。赤子が1人入るような、そのくらいの大きさ。
ジャスティーはなぜか、それを見ていると不思議な気持ちになった。何か、懐かしいような……。
「ジャス?」
佇むジャスティーの後ろから声が聞こえた。
「レイスター!」
「ジャス、お前、ミズが心配して……」
レイスターは振り向いたジャスティーの足元にある物体を見て反射的に心臓がドクン、と大きな音をたてた。言葉を失う。
「レイスター? あ、これ、これだよ、見てくれ」
ジャスティーはポッドを指さす。
「ジャス! 離れろ!」
「はぁ? なんで。爆弾でもないぜ、ポッドだよ、これ」
レイスターの反応にジャスティーは眉を潜めた。それは、レイスターの後ろに隠れるように立っていたライラも同じだった。
「なんだ? レイスター。これに見覚えでもあるのか?」
げ、ライラだ。ジャスティーは反射的に思う。
「い、いや」
なんだ? この状況は? レイスターは1人思いを巡らす。
プシュー…… ポッドから音がした。
「あ、ポッドが開く」
そう言ったジャスティーの腕を、レイスターは無意識のうちに掴み、ある程度の距離をポッドからとらせた。「?」、不思議に思いながらも素直にレイスターの位置まで素直にジャスティーは下がる。
ライラもまた、なんとなく胸ポケットにさしてあるペンライトに手を添えていた。
カシャン
完全に扉が開いた。3人は身構えるが、その後物音ひとつしなかった。なんの変化も起きない。
そのまま数分間、何も起きなかった。
「……レイスター、どっかから墜ちてきたゴミかもよ? それか他の星から送られてきた囚人とか?」
「バカ、ちっちゃすぎだろ、囚人にしては。捨て子か?」
ライラはペンライトを手にもち、ポッドに近づいていく。
「あ、俺も!」
ジャスティーもレイスターから離れてポッドに寄った。危険な匂いはしない。
「……何も……」
ない、とライラは言おうとしたが、その時あるものが目に入った。
「……んだ? これは」
「ライラ?」
ジャスティーはライラの様子を見て、ポッドの中を見た。暗くて、見にくい。でも……、何もないじゃないか。
「ライラ? 空じゃんか」
そう言ったジャスティーに知らしめるようにライラはペンライトを点けた。「うっ!」、一瞬だけ情けない声を出すジャスティー。ライラとペンライトは嫌いだ。初対面の赤い閃光が目に浮かぶ。そうそう、普通のペンライトにもなるんだった。
ライラが映し出すポッドの中。
「……」
「レイスター……、どういう意味だ?」
ライラはレイスターに聞く。
ポッドの内側全体に直接書かれてある文字。どこか損傷しても必ず伝わるように、同じ文字が繰り返されてポッド全体を覆い潰していた。
『今よ。R』
「スパイでも送ってたのか? それとも相手の罠か?」
ライラは少し楽しそうに笑ってそう言った。ジャスティーにはその意味がわからない。
「レイスター?」
今よ、R。R? レイスターは考え込んだままだ。
「しらねぇってわけね」
ライラはレイスターの表情を読み取ってそう言った。
「今だ」
そこにアスレイの声が聞こえた。
「今ですよ。攻め込むのは今だって、コウテンが言ってるんですよ。やっぱりコウテンのものだったんだ」
アスレイにはそのポッドに見覚えがあった。スペースシフターの脱出ポッドのオリジナル。
「コウテンが言ってきてるんなら、絶対罠じゃんかよ!」
ジャスティーはアスレイに言う。アスレイに続き、話を聞きつけた仲間たちが集まってきていた。
「いや、そもそも、コウテンが攻めてくるって情報をネスが持っている時点で、あっちにはネス側と繋がっている人間がいる。まぁ、それはこちらも然り、という話にはなりますが」
そう言うとアスレイはちらりとレイスターを見た。
「残念、俺じゃない」
「そうみたいですね」
「?」「?」、ジャスティーにはちんぷんかんぷんだった。
「ふーん、ま、憶測の域はでないが、早々に決断は下さなきゃいけないみたいだな。このRからの伝言を信じるならば、時は今だってことだ」
ドクン、皆の鼓動が同時に聞こえた気がした。「今」?
「どうする? ネスのキング、レイスター?」
ライラだけは楽しそうだ。