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12.作戦という名のカオス


12.作戦という名のカオス



「……って作戦でいいな」




 沈黙が会議室を包む。

「絶対嫌です」

 その沈黙を破るのは、

「こいつに全てがかかってるも同然じゃないですか」

 バインズだった。

「単純明快な作戦だろ。うってつけだと思うがな」

 ライラはそう答えた。

「だいたい、これの何が作戦だって言うんですか! 何も決まっていないのと同じじゃないか!」

「決まってる。それぞれの初動は言った通りだ。それからは俺に続けばいい。ジャスティー、お前は単独になるがな。♠のJといえば、♠のAである俺の次だ。これくらいの仕事はしてもらうぞ」

 ライラはジャスティーの血走る目を見ながら言った。

「当たり前だ」

 ジャスティーはギラッとした目をライラに向けた。興奮が伝わる。

「……俺は……、そもそも認めてねぇぞ! こいつがJなんて」

 バインズはジャスティーを睨みつけ叫ぶ。

「なんだよ、バインズ。やっと堂々と俺に喧嘩売ってきたな。いつもこそこそ嫌がらせご苦労だったな」

 ジャスティーはいつになく好戦的だった。どんなに嫌なことをされても、嫌なやつだと思っていても、仲間だということで許してきたジャスティーの珍しい反応だった。

「てめぇ、やっと本性だしたか……」

 バインズの拳にも力が入る。それを嘲るようにジャスティーは笑みを浮かべていた。

「ジャ……ジャス?」

 隣に座るルイが心配するように小声でジャスの名を呼ぶ。

「おい、バインズ!」

 そしてバインズを止めるのは当然ランドバーグだった。

「なんだよ、やっとあいつが俺たちの喧嘩を買ってくれるってんだ……」

 頭に血が上ったバインズはランドバーグの話を聞かない。

「おい、喧嘩なら外でしろ」

 ライラは呆れたように言った。特別に怒った様子もない。

「外だ。外」

 続けて言った。

「いいか? この星の外でして来い。そんなに気に食わないなら、バインズ、お前がジャスティーを撃ち落とせばいいんじゃないか?」

 ライラは上目づかいで品定めをするようにバインズを見た。

「望むところだぜ」

 それに乗っかってくるのは相変わらず憎たらしい笑みを浮かべたままのジャスティーだった。

「ちっ……」

「ちょっと、ジャス! いい加減にしなさいよね!」

 ハルカナが耐えきれずに言った。

「あんた、今がどれだけ大事な時期かわかってないでしょ!?」

 そう、決戦は、もう近づいてきていた。

 すぐそこまで。

「わかってないのはそっちだろ」

「……アスレイ! お前は異論ないのかよ!」

 バインズはアスレイに問う。ライラの次に実力があるのはアスレイだとずっと思っていた。それは他の♠も同じ。

「ないね。この作戦でいけば、ジャスティーが適任だと思う」

 しれっと即答した。

「わっ、私は反対です!」

 そこで異を唱えるのは意外な人物だった。

「アッ、アリス! やっぱりお前なら……」

 バインズは頬を赤く染めてまで嬉しく思った。

「危険です! 危険だわ! この作戦自体が! ジャスティーの置かれてる位置が! 絶対にアスレイの方が適任よ!」

 なんとなくバインズの居場所はなくなったように思えた。

「悪いけど、俺はあまり得意じゃない。こういう……結果の見えない特攻はね」

「アスレイならなんとかなるわよ!」

「アリス、俺だってなんとかするぜ?」

 少し落ち着いた様子でジャスティーはその話の中に入った。アリスは少し失礼だとも思った。ミズの言葉も思い出された。『ジャスじゃ不安だ』。

「みっ、認めてるけど……ジャスティーの能力は……。でも……」

 アリスは言葉をつまらせつつ言う。

「頭悪いじゃない!!」


「あっはは!」

 ミレーがそれに笑った。アリスはいたって真面目な顔をしていた。

「ごめん、ごめん。アリスってばジャスティーが心配なのね」

「そっ、そんなんじゃないけど!」

 ジャスティーは少し落ち込んだ。少なからずショックだった。なんで? と自分でも少し不思議に思う。

「まぁ、確かに、失礼ですけど隊長。隊長が行かれてはどうなんですか? 確実でしょう?」

 ミレーはライラに言った。

「……これに確実性はない。実際、俺だって死ぬ確率がある。俺が死ぬってことは、あまりよくない。だから……、お前がやれ」

「もち……」、ろん……

「そんな! そんな危険な作戦はもはや作戦とは言えません!」

 ジャスティーの気持ちとは裏腹にみんなが止める。ジャスティーに役目を負わせてくれない。ハルカナまでもが異議を申し立てた。

「明らかな不利は承知での戦いだということはわかってるだろうな? これはだいぶ前から言っていることだが。勝機のある作戦なんざないも同然なんだよ。奇跡の中を俺たちはくぐりぬける。それくらいわかるだろ。未知なる戦いなんだ。安全な作戦なんて練れるか」

 ライラの機嫌がだんだんと悪くなっていく。


「あー!! もうお前らうるさいんだよ! 黙ってライラに従えよ! 俺はもう抜けるぞ!」


 ジャスティーはそう言うと席を立った。

「ちょ、ジャス!!」

 ハルカナの声がむなしく響く。


 どいつもこいつも相変わらずバカにしやがって……。







「おい、散歩でもしようぜ」

 そこで聞こえてきたのは、ジャスティーが今もっとも耳に入れたくない声だった。

「あ?」

 戦いを前にして、ジャスティーの気はいつになく立っている。

「言ってただろ?ライラ隊長様が。宇宙遊泳で仲直りしようぜ」

 バインズは手をくいっと動かした。それは格納庫の方向を指している。

「俺たちの今後のためにも、仲良くしようぜ、な?」

 バインズはにっこりと笑う。それはなんとも歪なものだった。

「ああ、いいな、それ。俺たちの今後の為に……」


 ジャスティーもまた、冷めたような満弁の笑みでそれに答えた。



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