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11.それぞれの夜明け(2)


11.それぞれの夜明け(2)



 スペースシフターに取りつけられた緊急時の脱出ポッドを見ていると、ミズは少し変な気分になった。

「どうかしましたか?」

 格納庫に最近はいつもいるような気がする。その声はアスレイだ。

「いや……、このポッドってさ、誰の発案だっけ?」

「俺です」

「えっ!?」

 ミズは驚きの声を上げた。

「このポッドの元となったものは、工業地区に出向いた商人がガラクタのように持っていたんですよ。俺は絶対にこれは高価なものだと思って父さんに言ったんだ。買うように。ま、こういう形で役に立つとは思わなかったですけど」

 アスレイはそう言うと少し目線をずらして俯くように顔を背けた。

「さすがアスレイだね。当然、これには価値がある。なんだかここだけ近未来だ」

 ミズは感心するようにそう言った。そんなミズをアスレイはじっと見つめる。その視線に気付いたミズはアスレイと目を合わせた。

「……これ、コウテンのものだとは思いませんか?」

 目が合うとアスレイはミズにそう言った。

「え?」

「いえ……、いいんです」

 アスレイは再び目を逸らす。

「……」、ミズは考え込む。確かに……、この技術はどこから来たんだろう。あの丸みを帯びた近未来型の丸いカプセルポッド。想像上の産物であり、自然の力との融合を主体とするネスの技術でこの形状が生まれるとは考えにくい。

「アスレイのデザインではなくて、そもそもあったものをアスレイが持ってきたってことだよね」

「もちろん。俺にこの発想力はありませんよ」

 アスレイにないなら、ネスにないも同然だ。

「そう……」

 ミズの呟くような合槌。でも、考えたところで答えなど出ない。よくわからないが、これを拾ってきた商人と、このものの価値がわかったアスレイがいたことに感謝だな、とミズは思った。

「さて、アスレイ。君はここにいすぎるな。今日はもう帰りなよ」

「……いえ、僕は好きなんですよ。昔から、こういう機械をいじるのことが。気にしないで下さい」

「いやいや、シスカがさみしがってるんじゃないの?」

「はっ、そんな歳でもないですよ」

 アスレイはバカにしたように笑った。ミズは少しむっとする。

「シスカはさみしいって言ってる」

 ミズは真剣な顔をしてアスレイに言った。

「……嘘でしょ?」

「嘘」

 ミズは即答した。

「……どうしたんですか? ミズさん」

 アスレイは今度は優しく笑ってミズに言った。

「やっぱり帰れ」

 ミズは今度は冷たくそう言い放った。アスレイの手は止まる。

「お前らたった2人の兄弟なんだろ? 少しぐらい兄貴面してやれよ」

「ミズさんって……ほんと弱いですよね、そういうのに」

 アスレイはため息をつくと手に持っていた工具を静かにボックスに戻した。

「うちはそちらさんみたいに仲良しこよしじゃないんだけどな」

 アスレイは面倒くさくなって大人しくミズの言うことを聞くことにした。

「……」

 無言のままミズはアスレイを見送った。




 カタン……

 少しの物音でシスカの目は覚めた。

「兄さん!」

 シスカの部屋の前を通るアスレイに向かってシスカは叫んだ。

「……」

 アスレイは驚いた。

「……起したか?」

「ううん。今日は帰ってこれたんだね! 兄さんが手を入れてるだけあって機械も武器もとても使いやすいよ」

「……俺は少し手伝うぐらいだよ」

「そんなことない! 僕も手伝いたいんだけどなぁ……。訓練の方で手いっぱいだよ」

「……そう……か」

 アスレイは久しくシスカについて何も考えていなかったことに気付く。そして、シスカの嬉しそうな顔を見るとなんともいたたまれない気分になった。

「兄さん……、兄さんを尊敬するよ」

 シスカは声のトーンを落としてそう言った。

「え?」

「……実戦の訓練に入ってから思うんだ。きっと無事じゃ済まないだろうなって……。兄さんはネスに必要な人間だ。だから……、僕は兄さんを守りたいと思う。ずっと、憧れてたよ……」

「そっ、そんなこと言わなくていい!」

 アスレイは話を遮った。

「シスカ、お前も俺と変わらない。俺の弟なんだからな」

「兄さん……」

「あと……、守られるわけないだろ俺が。守ってやるから俺の傍から離れるな」

 アスレイはそう言うと、逃げるようにしてシスカの部屋の前から去っていった。

 アスレイは弟思いだし、仲間思いだった。一見して冷たく見えるのは綺麗な顔立ちと表情が乏しいシャイな性格のせいだ。シスカにはそれがわかっているつもりだったが、実際はやはり不安だった。だけど、今はっきりとわかった。

「……はぁ……、まだまだガキだよなぁ」

 シスカは少し顔を赤らめて再びベッドに横になる。

 アスレイからの言葉がとてつもく嬉しかった。


「……ちっ」

 アスレイもまた自分の部屋に入った後、顔を赤くした。

「ミズさんのせいだ……」

 俺があんなこと言うなんて……。





「ねぇ、ジャス」

「うおっ!!」

 当然のように暗い夜。暗い部屋。耳元で囁かれた声に、大きな声でジャスティーは答えた。

「ミズ? なんだよ、びっくりした」

「お前、ジャックになったってほんと?」

「……あぁ」

「……なんで」

「なんで? うれしくないのかよっ!」

「しっ、2人が起きる」

「あの作戦を考えたのはミズだろ? 俺が適任だってライラも言ってたし。有力候補だったアスレイも最近は機械班って言っても過言じゃないしな。バインズにしたって俺のがもう強いぜ!」

 ジャスティーは嬉しそうに答える。

「はぁ……、やっぱりアスレイに頼むんじゃなかったな。まさかあそこまでの機械オタクだとも思わなかったし」

 ミズはがっかりしてそう呟いた。

「なんだよそれ!」

「ジャスじゃ不安だ」

『はぁっ!?』、ジャスティーは心の中でそう大きな声を出したが、実際には口を大きく開けただけだった。





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