11.それぞれの夜明け(1)
11.それぞれの夜明け(1)
マナシーは固めた土で出来た土蔵とよばれる砂漠の民の家で暮らしている。砂漠の民、その歴史は古く、ネスの先住民と言われている。砂漠の民の繁栄は遥か昔のことで、今なおそれを語り継ぐ人々は多くない。いずれすたれていく民族だと砂漠の民の末裔ですら思っている。しかし、ネスの砂漠を歩く時、その地は神聖な気を放つ。何かの力をネスの住民に知らしめるように。多くの人は砂漠には近寄らない。訪れる者といえば、無邪気な子ども。もしくは強い精神力を持った者。修行という名の下で己と闘う者。そんな感じだ。
だからこそ、ネスの住民は砂漠の民を軽視しない。あの地で平然と暮らす砂漠の民は、何かしら得体のしれない神秘性を持っているから。
それは、地に眠る土騎士が本当にいるかのようにも思えた。
マナシーは自分が砂漠の民の末裔ということを大したことだとは思っていない。自分にさして興味が持てなかった。自分にだけではない。周りにも。
「お兄ちゃん……、また行っちゃうの?」
「……また帰ってくるよ」
ただ唯一、マナシーが大切にしているもの。それはたった1人の家族。妹のリリだった。
「でも、この間もそう言ってたけど、リリがね、お風邪をひいててもね、帰ってきてくれなかったの」
リリはピンクのタオルケットをギュっと握りしめ、リリの小さなベッドに腰を下ろすマナシーにさみしそうにそう言った。
「うん、ごめんな。お兄ちゃん、今大事なことしてんだ。多分」
「多分?」
リリは首をかわいらしく傾げた。その様子をマナシーは愛しい目で見つめる。
「いや、大事なことしてんだ」
「大変?」
「心配しなくていい。リリ、今度帰ってきたらさ、砂漠を出て、いろんなところに一緒に行こう」
優しい目をしてマナシーはそう言うとリリの頭を撫でた。
「本当っ!?」
病弱なリリは一度も砂漠から出たことがない。
「本当だよ」
「……約束ね」
マナシーとリリの小指が結ばれた。
「ママたちみたいにいなくならないでね」
守りたい大切な命が1つある。この世で大事にしているものなんてそれしかない。マナシーは思う。だけど、戦う理由はそれだけで十分だった。
「大丈夫。約束は破らない」
マナシーはリリの眠りを確認すると外に出た。
どこまでも永遠に続くような砂の湖。その景色は嫌いじゃなかった。無駄なものが何一つない。それは美、そのもののように思えた。
「ネネおば、リリのこと頼むね」
マナシーは砂漠の民の長であるネネにリリのことを頼んだ。
「当たり前だ。お前のすることは唯一」
ネネぐらいだ。砂漠の民としての自覚と信仰心があるのは。
マナシーはしゃがみ込んで砂漠の土を握りしめた。手を放すと金色に見える砂がさらさらと風に吹かれる。
少しだけ、この場所を離れることがさみしいと、マナシーはその時初めて思った。