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7.レイ兄弟(2)

7.レイ兄弟(2)



 戦略訓練。

「ま、訓練と言っても主に戦略を考えるのは俺たち絵札だ」

 ライラは基地の中にある真っ白い会議室で真っ白のできたてほやほやのホワイトボードに向かって黒いペンを意味もなくコツコツ当てながらそう言った。

「つまりは、別にお前らにいい作戦を練ってほしいなんて思っていないが、俺たちの指示を理解する能力は身につけてもらいたい。何を言っているのか、短い言葉でわかれ」

 そう言うとそのペンをやっと机の上に戻してくれた。

「コウテンのもつ兵力に対抗できる武器をつくるに、完璧なものはせいぜい俺たちの分ぐらいなんだよ。後はできあいのものにならざるを得ない。それほどまでに科学ってのはあっちじゃ発達しちまってるようだ。だから俺たちだけが、コウテンの本陣を叩ける、と覚えておけ。今までは、主に基礎体力をつくる訓練をしてもらったが、これからは実践にうつる。俺たちのコウテン襲撃は、いわゆる『奇襲』というものだ。なんせ、数には勝てっこないからな。奇襲でいくしかない。そして本陣のみ、を狙うんだ。ああいう大国は、頭を切られたらもう動けなくなるんだ。足や手が残っててもな」

 ジャスティーはうとうととしていた。ぼやっとする頭の中。ライラの声は遠ざかる。

「本陣に行くにあたって、二つの道がある。これは実際に特攻する皆の意見を聞きたい。簡潔に言う。堂々と真正面からいくか、こそこそと隠れていくか、だ」

 皆は静まり返る。まともな学校もない星だ。星一個の作戦を決める土台など、すぐに判断のつくことではない。

「こそこそと、隠れていくべきではありませんか?」

 ランドバーグがその沈黙をまず破った。

「なぜ?」

「だって、コウテンとネスっていうと、蟻と鯨みたいなものじゃないですか」

「そのたとえは好きじゃない」

 ライラは意味もないところで不機嫌になった。

「……えと」、少し調子の崩れるランドバーグ。「つまり、真正面から行けるのがおかしいってことです。そもそもの選択肢としてそれを提示するのなら、それ相応のものが、こちらにもあるということですか?」

「それ……」、ライラが言いかけた。

「こそこそとってのが俺は気に食わないな」

 ジャスティーの目が覚めた。覚めてほしくなかったとなぜか皆が思っていた。

「……寝てたやつの発言は聞きたくないな」

「寝てません。うとうとしてたんです」

 確かに間違ってはいない。

「こそこそと行けるほうが戦力差があるなら難しいんだ。隠密に動くってことは時間がかかる。本陣だけを叩くというのなら、時間はかからないほうがいい。コウテンに長くいないほうがいい。下手な細道をつくるより、真っ直ぐな道をつくったほうがいい」

 一見まともなことを言っているように見えた。もちろん、ジャスティーは大まじめだ。

「ジャス……。真っ直ぐな道をどうつくれるかって話だよ。隠密に動く方が道は多い」

「多いのは関係ねぇ、つくるって言ってるんだ!」

 ルイの言葉にも自信満々で答える。

「つくる……ねぇ」、そこにシスカも加わる。「まぁ、つくるのは得意な気がします」

「だろっ?」

 ジャスは嬉しそうにシスカの顔をのぞいた。

「バカ2人はつくれると言ってるが、つくれるか? ルイ」

「えっ?」

 突然の指名にルイは驚いた。ライラの鋭い目がルイを見ている。そして、ただの呑気な熱い目をしたジャスの目もルイへと向かっていた。

「い……いや……、可能性がないとはいえないけど、よく、知らないから、コウテンのことは」

 ライラがルイを指名したことで、ランドバーグに嫉妬心が生まれた。

「……コウテンの地図みたいなものがあるんですか? 僕に見せて頂いたら必ずやお役に立ててみせますよ」

 ランドバーグは目を暗くさせて、睨みつけるような眼とうまく笑えていない口でそう言った。

「……アリス、お前はどう思う?」

 その目を無視して次にライラが指名したのはアリスだった。

「話は変わるかもしれませんが、宇宙にでている時間は短い方がいい。星の外での戦いはきっと私たちには不利でしょう。多少見つかったとしても、コウテンの中での戦いにもつれこみたいです。なぜなら、あそこにはきっと、守らなければならない人間がたくさんいるから。裕福な国はうまく動けないと思います。いい国ならば……の話ですが」

「……そういうと、コウテンの外部の防衛線はどのくらいの兵力があるんですか?まず、コウテンに入るために時間がかかる。そうすれば、きっと本陣の守りはより固まり、僕たちが中に入った時点で地上から迎撃されるのがオチかもしれない」

 ルイがアリスに後押しされてすらすらと言った。

「出オチは勘弁してほしいとこだなー」

 ミレーが呑気にそう言った。

「私たち以外のカードに囮になってもらうことは前提として……」と、アリスが言った時、ジャスティーの目がピクンと動いた。

「おい、それが前提なのかよ」

 ジャスティーは眉を潜めてアリスを見た。

「……じゃなければ彼らは一体何をするの?」

 アリスは一度ひるんだが冷静にジャスティーの言葉に質問で答えた。

「一緒に闘うんだろ」

「囮も戦うわよ」

 2人の間に何か不穏な空気が流れた。

「ジャスティー。アリスの言うことの何が不満かが俺にはわからない」

 バインズが間に入ってそう言った。

「なんだと?」

「俺たちが敵を叩く。その援護を他のカードがする。俺たちがまずコウテンの中に入るために、何も犠牲にしないつもりなのか? なぁ、そんなことができるのか? ルイ」

 バインズもルイへと答えを求める。ジャスティーの予想と反してルイは下を向いたまま答えなかった。

「ルイ?」

 すぐに反論してくれると思ったジャスティーは戸惑う。

「お子ちゃまはお前だけのようだな」

 バインズは嫌らしく笑った。

「そんなことない」

 シスカだ。

「今すぐに決めなくていい話だ。囮とか、他のカードたちの役目なんて。2つの選択肢のうちの1つを選ぶんだよ。あとは兄さんやミズさんや隊長たちが作戦をたてるんだ。それが前提にあることを忘れてるんじゃないか?」

 凛々しいシスカにバインズは舌打ちするように口を歪め、つまらなさそうに座りなおした。ルイはそんなシスカを見て自分を恥ずかしく思った。

「囮が必要なのは前提だろ」

 独り言のようにライラが言った。


「囮の役を出るのなら、お前はこの隊から外れろ」


 ジャスティーの次の言葉を待たずにライラは言った。ジャスティーは飲み込んだ。言いたかった言葉を。



「アスレイ、入れ」

 そしてライラはそう言った。

「失礼します」

 するとアスレイが部屋へ入ってきた。

「なんだ? ミズのところじゃないのか?」

「ミズさんが、バカの手本になるやつがいるからって、言われまして……。僕の言葉じゃありませんよ」

 ミズ……。ジャスティーは心の中で思った。絶対俺のこと言ってる!!

「アスレイ、しばらく外で聞いてたろ。どう思う?」

 アスレイは一瞬シスカの方を見た。シスカはドキっとする。一瞬の間だけだが。

「……、外部防衛線の穴をねらって強行突破です。各カードにそれぞれの役目をあて、できるかぎり正面から行きましょう。もちろん、我々の囮になるのは、他のカードですが、我々の中にも囮役はいるでしょう。敵のキングを取るために、駒は少なくなるものですから」

「なっ……」

 ジャスティーはカッとなる。が、反論をする言葉が出て来ない。

「兄さん……」

「シスカ、甘っちょろい奴と一緒にいるからだぞ。お前にだってわかってるだろ。変な正義感は捨てろ」

 シスカは一瞬で元気をなくす。

「甘くない!」

 ジャスティーはシスカとは似ても似つかぬ雰囲気を纏ったアスレイに食ってかかる。

「……なんでお前なんだろ」

 アスレイは一言呟いた。

「?」

「穴はわかるのか?」

「ええ」

「なぜ?」

「……そこ、聞くんですか?」

 アスレイは笑った。珍しく。




「おい、シスカ」

 その日、皆が帰った後、シスカは1人そのまま会議室に残っていた。そこへバインズが入ってくる。

「何? まだいたの?」

「こっちの台詞でもあるぜ。なかなかこねぇから」

「珍しい。僕に何か用?」

 シスカはふっと笑った。

「お前の兄貴の言う通りだぜ。バカとつるむなよ。うるつぜ」

 バインズはシスカに手を差し出した。

「あはは。いやいや、バカじゃないってあいつ。いや……バカかな。ま、いいや。面白い奴だし、僕は基本兄さんと一緒だからバカはうつんないって」

 シスカは軽快に椅子から立ち上がった。

「じゃ、僕も今日から手伝いにいかなきゃいけないから。兄さんの」

 そう言うとシスカはその場から去った。


 残るバインズは大袈裟に舌打ちした。

「ちっ!」


「シスカって、バカだね」

 影からランドバーグの声がする。

「ああ、だけど、アスレイはすげぇ。きっとアスレイの一声でバカの追放もできるのに」

「……ミズがいても?」

「アスレイのがすげぇよ」

 バインズはアスレイに陶酔するように言った。気持ち悪……、なぜかランドバーグはそう思った。

「アスレイだってジャスティーのことバカだって言ってたし、大丈夫だろ、そのうちあいつは落第だって。だって、見た? まだあいつ墜落すんだぜ、テスト用のスペースシフターから」





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