5-(2)
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「おいっ! おいっ! おぉいっ!」
「はっ! はっ!はっ!はいっ!」
バシィィン!! ドサリ。
「ジャスティー!?」
砂の上に倒れ込んだジャスティーには強い星の光とハルカナの顔が見えた。「はぁ……」とため息をつくと、ライラの顔が視界の中に加わった。
「おい、女とか関係ないぞ。何やってんだ」
「……わかってる。でもフラニーは強いよ」
ジャスティーは、首にフラニーから回し蹴りを食らい倒れた体を起こした。
「フラニー、首ってのはあまりよくないな」
ライラはジャスティーの組み手相手のフラニーに言った。
「……こ、こ、こいつが、な、何もしない。わるい」
フラニーはバッチリとメイクしたアイラインを滲ませ、悪魔を連想させる涙化粧でそう言った。
「それはわかってる」
ライラは冷たくそう言った。
「おい、なんでガードしない?」
「……首はだめなのか?」
「は?」
「首は、だめなんですか?」
ライラはジャスティーの言葉にしばらくの間固まった。何を意味している?
「そうか……、だから俺、倒れたのか」
何も答えないライラにジャスティーはジャスティーなりに納得したようだった。
「ちゃんと闘え。闘いに女も男も関係ないんだからな」
「……でも」
ジャスティーが呟くとライラは鋭い視線をジャスティーに向けた。
「フラニーは体力がないんじゃないかな。圧倒的に体力差があると……」
ブンッ!
「わッ!」
ジャスティーは反射的に避けた。フラニーからの前蹴りがジャスティーの脇腹を狙っていた。
「なんですって? 私が強いのか弱いのかハッキリしてくれないかしら」
驚くほどすらすらとフラニーは言った。
「……あぁ」
渋々といった様子でジャスティーは今一度フラニーと向かい合った。真剣に向き合うか。真剣になりゃ、こいつはすらすら喋れるわけだ。
「ふっ!」
「ふんっ!」
「はっ!」
フラニーの足がジャスティーの顔や体をかする。ギリギリのところでジャスティーは避ける。でも、フラニーの身体能力は高かった。長い髪を振り乱し、ジャスティーは必死に自分を倒そうとするフラニーにセクシーさを感じた。
体の線がキレイだ。まともに食らったらふっ飛ばされるわけだ。
「っ……!」
ん?
「はぁ……、はぁ……」
次にフラニーはてろんてろんのパンチを繰り出した。
ぺちん。
ジャスティーは避けなかった。フラニーの拳はジャスティーの左頬を確かに捕らえた。そしてそのままフラニーは倒れ込んだ。
「あぁ、そういうことね」
ジャスティーは呟いた。
「おい、お前には持久力ってもんが全然ないんだな」
ジャスティーはしゃがみ込んでフラニーに顔を近づけそう言った。フラニーはジャスティーに向かって噛みつこうとする素振りを見せた。
「うぇ!?」
ジャスティーはのけぞる。獣だ……。
「フラニー!」
そこでお約束、ハルカナの声が聞こえた。
「あんた何やってんのよ! だいたい、ジャスティーに助けられたこと忘れてるんじゃないでしょうね! あの砂漠で死んでたかもしれないのよ!」
「……え」
フラニーに一瞬の動揺が見られたがそれは言葉の通り一瞬だった。
「た、たのんで、ない」
「はぁ!?」
ハルカナは今にも殴りかかりそうだった。本当にこの2人の仲は悪い。
「フラニーが正しい。生きる気のない奴は助けなくていい」
フラニーはライラの言葉に顔を赤くした。
「ライラ!」
ジャスティーは反射的に叫んでいた。
「……なんだ」
2人の間にもまた、重く冷たい空気が流れていた。
「ジャスティーが正しい」
そこに場の空気を一瞬で柔らかいものに変える優しい声がした。
「あ、ミズ!」
ハルカナが言った。他のメンバーたちも手を止めミズを見た。
「ミズ?」
ジャスティーも正気に戻った。
「助けなくちゃ、仲間は。ライラ、ネスを救うという大義のもと、僕たちは戦争をするんだ。ネスを見捨てない。ネスの住人を見捨てない。それは、彼ら仲間を見捨てないことと同じだよ」
ミズはそう言いながらライラの肩に手を置いた。
「……」、ライラは暫く沈黙していた。
「違う?」
ミズはそんなライラに聞いた。
「……。ネスを救うための仲間として、俺はまだお前たちを信用してないんだろう」
ライラはそう言うとその場から去った。
「んー、やっぱりライラって難しい」
能天気にミズは言った。
「ミズ……」
「ジャス、お前、なんで本気を出さないんだ?」
ジャスティーには、ミズは少し怒っているように見えた。
「いや……、!?」
ジャスティーの顔色が変わった。
「ん?」
ミズは首を傾げる。ミズが首を左に少し傾ける。その時、右にスペースが生まれる。そこからジャスティーはミズの目にも止まらないスピードで蹴りを入れた。ミズの髪がその蹴りによる風になびいた。
みんながぽかんとしている中、ズザザザザザァ……。
「ん?」
ミズは後ろを振り向いた。後方で、フラニーがジャスティーの蹴りを正面から思い切りくらい、地面に大の字に倒れていた。
「あ……」
ミズはそれでも相変わらずの能天気な声だった。
「げぇっっ!」
当の本人のジャスティーが焦った。
「ジャスティー! 酷いわ! そんな人だと思わなかった!」
え? そこには初めてまともに口をひらいた女の子がいた。その顔を見た瞬間、かわいい、と純粋にジャスティーは思ったが、そのかわいい女の子は明らかにジャスティーを侮蔑の目で見ていた。ショックだ……。
「いっ、いや……」
「アリスの言う通りよ!」
そこに加わるハルカナの声。
みんなが倒れ込んだフラニーを取り囲んで騒ぎだした。フラニーは気を失ってしまったようだ。
「……」、ジャスティーの手はアリスへと伸びたまま固まっていた。
そんなジャスティーをミズはじっと見た。
「どしたの? ジャス」
「……はっ!」
ジャスティーは気付いた。
「おっ、お前のせいだぞ!」
「え?」
「お前の後ろからフラニーが猛ダッシュで走ってて、お前に飛びついてきてたから思わず……」
「っはは」
ミズは笑った。
「なっ、なんだよ!」
「いや、なんでもない。フラニーって僕のこと気に入ってるよねぇ」
呑気なこと言いやがってぇ! 気に入ってるどころじゃねぇだろうが! ジャスティーは握り拳をふるふると震わせた。
「ま、いいや。なんか邪魔しちゃったみたいだから帰るよ。ライラによろしく言っといて」
清々しくミズは片手をあげて去っていった。ライラによろしくなんて言えるか……。
「おい、よくやるじゃねぇか」
ライラ……。そっちから来たか。
「すみませんでした」
ジャスティーは言った。
「なんだ? 謝ることなんざないだろう。ああやって、コウテンの女を吹っ飛ばせよ」
……。
ジャスティーはその時、心にツン、とした痛みを感じた。あれ? なんだろこの感じ。
「……はい」
コウテンの女を、殴る。
「あ、フラニー……」
ジャスティーは気付いたようにフラニーに駆け寄った。
ドゴン!!
ライラの目には、宙に舞うジャスティーの姿が見えた。
「ふ……。いい眺め」
「フッ……」、ジャスティーは腹を押さえた。「フラニー……」、その声は震えていた。
「いい加減にしろ!!」
ドゴン!!
ライラの目には宙に舞うフラニーの姿が見えた。
「……お前もな」
「たっだいま」
ミズは基地へと戻ってきた。
「お帰りなさい―」
機械班のみんなが迎え入れる。
コンコン、
ミズはレイスターの部屋へ入る。そこには図面を真剣な目で見つめるレイスターがいた。
「ジャスはどうだった?」
「……問題ない!」
にっこりとミズは笑ってそう言った。
「そうか……」
満弁の笑顔のその言葉。いまいち信用できない、とレイスターは思った。