心配
夕暮れになった。続々と舞踏会の会場に集まってくる貴族や王族たち。
ディランは会場となる広間にて、壁の花のごとく警備のために立っていた。しかし、その心中やアッシュのことばかり気にかかっていた。
「はぁ……」
口からは知らずのうちにため息がこぼれる。
「ディラン、どうしたのだ」
ディランは驚いて声のしたほうを見た。そこには同じように軽鎧を身につけた同期の戦士であるエルビスがいた。彼はドレイル伯爵家の子息であり、それを誇りにし、さらに同期で部屋割りが一緒の農民出身のディランを顎で使っていた。
「あれっ?エルビスなんでここにいるんだ?」
きょとんとした顔で聞いてくるディランに、短気な彼は苛立ちを覚える。
「何でではない!私もここの警備に割り当てられたのだ!本来なら私もこの舞踏会に出席できる身分にはあるのだが、今は一介の戦士でしかないため、甘んじてここの警備をしているのだ!」
一気にまくし立てるエルビスをなだめる声がした。
「まぁまぁ、落ち着いてエルビス君」
今にもディランに食いつきそうなエルビスと何でそんなにも怒鳴られているのかわからないディランの間に割って入ってきたのは、二人と同期でさらに部屋が同じのクリス・ローレンスだった。
彼はローレンス公爵家の嫡男で、生まれつき少し体が弱かった。そんな彼はあるとき凱旋パレードでみたクロウに憧れ戦士に志願した。
「ええい!どくのだクリス。今日こそこいつを殴らんと私の気が治まらん!」
「なんで殴られないといけないのさ」
甲冑を着けているにもかかわらず、いつもの癖で頭を覆う。
そこへ、なんともいえない重たい気配を感じた。彼らはその気配に身に覚えがあった。そちらの方へ振り返ると、そこには口元に微笑を浮かべたクロウと、ニヤついたトリスタン、無表情のアールネがいた。
「あーあ、しらねぇぞテメェら」
「おや?どこかでうるさい虫が鳴いていますね」
「ぐひっ……」
クロウは履いていたピンヒールでトリスタンの足の甲をそっとだが、確実に踏んだ。
その姿を見て固まる三人。
「あなたたち、何を騒いでいるんですか?」
微笑んでいるが笑っていない目。
「すみません」
三人は同時に謝った。エルビスは怒りを押し殺し、ディランは叱られた子犬の眼差しでクロウを見つめ、クリスは本当に申し訳ないといった表情だった。
「いいえ、構いませんよ。ところでアッシュを見ませんでしたか?私宅が済んだら私の部屋に来るように言っておいたのですが」
「おい、なんだよ。俺もアイツに準備できたらくるように行ってたんだぜ?」
「俺、もだ」
三将軍は首をかしげた。その様子に新人戦士の三人も首をかしげる。
「将軍方はアッシュ……」
そういいかけて咳払いをし
「テルミドネ様に何の用があるのだ」
「御三方がそろって御用があったというのは、きっと大事なことなんだろうね」
「どうなんだろうな」
エルビスとクリスはディラン以外にアッシュがテルミドネであるということを知っている新人戦士だ。
なぜ、その事実を知ることになったのか。それは遡る事三ヶ月前のことになる。