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夕方前の不思議な時間

作者: additional motor

ふと目が覚めた。折角良い夢をみていたのに。


夢の中で彼女と付き合ってたんだ。


昔は良く遊んだりしたけれど、今は顔さえ合わない彼女と。


高校生になってから、何となくお互い距離が離れてしまったんだ。


それを寂しく思っているし、今すぐ会いたいくらい想っているのだけれど。


ベッドから起き上がれる気がしない。


まだ夢をみていたい。


だが、どうやら眠気は何処かへ消えてしまったようだ。


無理矢理体を起こす、首が痛い。


辟易としながら閉めてあったカーテンを開く。




そこは不思議な世界だった。



夏の夕方前、なんとも言えない世界。


空はまだほとんどが青く、西の空が少しだけ赤みがかっているだけだ。


だけど、不思議だ。


色が少し、ほんの少しだけ赤くなって、いや、赤と言えるほどではない。


何か感傷的になるというか、妙に懐かしい気持ちになってしまう。


そこには寂しさも、不安も混じっている。


だけど、夕焼けを見たとき程じゃない。


あれはとても感動的で、もっと昔を思い出させて、もっと不安にさせられる。


そして、それを見たらいつも自分が嫌になる。



だけど、今は自分を嫌になることよりも、自分のことなんかよりも、彼女のことが気になった。


いつの間にか離れてしまったんだろう。


どっちが悪かったとかじゃなくて、そうなる運命だったのかな。




そんなことを考えていると、空はいつの間にか半分以上赤に染まり、不思議な世界はもう無かった。


不安が襲ってくる。


自分が嫌になる。



カーテンを締めよう。


諦めに近い何かが、自分を覆い尽くそうとした。






彼女だ。






彼女がいる。


上着を取って部屋からとびだす。


階段を転びそうになりながら降りて、靴をはく。


後ろで声が聞こえるが、今はそれどころじゃな


家からでて、彼女に向かって走る。


もう空はほとんど赤だ。


不安が襲ってくる。


彼女に会ってどうするんだ?


自分が嫌になる。


彼女に嫌われてるんじゃないか?


お前は駄目な男なんだよ、と




だけど、あの世界は彼女のことを自分に思いださせてくれた。


彼女とつながりを今この一瞬だけ繋いでくれた。


あのはっきりとしない、全く不思議な世界に出会えたことは、ラストチャンスなんだ。


これを逃せば、彼女との繋がりはもうないん

走れ!


空が完全に赤くなってしまう前に!




彼女はもうすぐそこだ。


名前をよぶと、彼女は振り向いた。


少し驚いているようだ。


空を見ると、ほんの少し青が残っている。


時間がない。


もう息は切れて、呼吸も滅茶苦茶だけど、急がなくちゃならない。




彼女が、心配しながら近づいてくる。


大丈夫?と。


そう言えば昔は良く気に掛けてくれたな、なんて思ったりして。




覚悟を決めろ!


膝が震える、腹が痛い、気持ち悪い。


泣いてしまう。


伝えた後、俺のそらは真っ赤に染まってしまうかも知れない。

そんなのは嫌だけど、

だけど俺は全てを、全てを振り絞って





「好きだ―――」




空は真っ赤に染まっている。



だけど、そらはまたあのなんとも言えない世界の色をしていた。


そこに不安は無く、その代わりに、暖かさが生まれていた。

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