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決戦

今回で素晴らしき空の第一章は終わりです。しばらく間を置いてから二章を始めたいと思っていますが、この二章からがらりと世界観が変わりますので、できれば一章を呼んでいない方は、二章から読んで頂けると嬉しいです。二章は龍平の娘が主人公で、現代を舞台に異能力学園バトルを展開します。なので天結はもう出ません

 龍平と葉太郎は老婆に別れを告げ、バイクで魔神殿を目指していた。そして途中で、何度か野宿し、ついに魔神殿の前へたどり着いた。

「葉太郎すまない。ここで待っててくれ」

「悪いが、それは聞けない。今回だけは・・・・」

 龍平は葉太郎を巻き込みたくはなかったが、それは彼にとっては寧ろ不遜だった。それに気が付いた龍平は、もう何も言わない。そのまま二人で、石柱に囲まれた禍々しい神殿に入って行った。


 神殿内部は松明の火を照明に使っているので、何とも薄暗くて不気味だった。さらに言えば、部屋のあちらこちらに設置されている、黄金でできた、虎の像も不気味で、居心地の悪い空間だった。

 二人は石造りの階段を上った。途中食糧庫に、小麦粉の入った袋が大量に保管されているのが見えたが、何に使うのか意味不明だった。途中、何体かのグールを発見したが、二人の敵ではなく、あっという間に断末魔を響かせることとなった。


「ここで最後だ」

 龍平は目の前の両開きの扉を両手で押した。扉は重苦しい音と共に二人を最後の部屋に案内した。

「・・・・」

 沈黙する二人、そこは小部屋になっており、奥には広いベランダが備えてあった。そしてベランダの手摺には、銀髪の髪と碧眼の、妖しい色気に包まれた男が、、昔と同じような笑みを浮かべて、二人を迎えた。 

「裕人」

 龍平は男の名を呼んだ。そして一歩ずつベランダの方に進んで行った。

「龍平」

 裕人もまた、龍平の元へ進んで行く。実に5年ぶりの再会だった。

「もう終わりにしよう裕人」

「ふふふ、何だわざわざ僕に会いに来てくれたんじゃないのか。僕の神話を聞きに来たんじゃないのか?」

 裕人はおどけたように笑った。だが龍平は彼を、氷のように冷たく鋭い眼差しで見つめていた。

「冗談さ。お前はいつか僕の元に来ると思っていた。そして最大の敵になるとね。それが的中したんで笑っただけさ」

「そうだ、そして君は僕に殺される」

「いや違うね。お前は神崎裕人によって惨殺される。そして裕人はこう思う。どうせ殺すんなら、あの時殺っておけばよかったとね・・・・」

 龍平は構えた。二人の間にもう会話は必要なかった。

「来い、龍平」

「おおう・・・・」

 龍平は裕人に向かって走った。その姿を葉太郎も固唾を飲んで見守る。

(行け龍平。終わらせてくれ)


 龍平の眼には裕人の急所、つまり点がはっきりと見えていた。そして彼の鳩尾に部分にくっきりと出現している。

「喰らえ」

「ん?」

 龍平の金色に光る拳が裕人の鳩尾を綺麗に貫いた。

「や、やった・・・・」

 確かな手応え、これほどまでに完璧に技が決まったことは今までない。今回が初めてだった。裕人は前を見たまま、そのまま立ち尽くしていた。

「おい、倒しやがったぜついに・・・・」

 葉太郎は龍平の元に駆け寄ろうとした。しかしすぐに立ち止まった。そして引き攣った顔で、二人の姿を見た。

「ふふふ、策にハマったてくれ礼を言うぞ」

「あっ・・・・」

 龍平は驚愕した。裕人の体がまるでスライムのように、緑色のヘドロ状になっているからだ。

「どういうことだ・・・・」

「説明してやろう。僕は黒水晶の力によって、究極の生命体となった。そしてその結果、自分の肉体を、髪の毛一本から、細胞の一つ一つまで、自由に操れるようになったのだ。細胞や遺伝子を少し操作してやれば、体を液状にすることなど造作もないのだ」

 葉太郎は二人の姿を冷静に分析していた。裕人の体は例えるなら水飴だ。ドロドロと流動性を持った、液体と固体の硲のような存在。

(そうだ・・・・)

 葉太郎は閃いた。そしていきなり龍平を置いて、部屋から出ると、何処かに向かって走り出した。

「おい、龍平よ。親友が一人だけ助かろうとしているぞ」

「ふ、葉太郎はそんな奴じゃない」

 龍平は拳に力を込めると、無理矢理裕人の肉体から、自分の腕を引き抜いた。

「そら」

 龍平の体が大きく仰け反る。彼の腕には緑色の裕人の肉塊が付着している。

「お前は終わりだ。僕の真の目的は肉片をお前の体に付着させることだったのさ」

「どういうことだ」

「見てみろよ」

 

 龍平は自分の腕を見た。なんと緑色の肉片は、命を持っているかのようにウネウネと動くと、龍平の腕の血管に吸収されていった。

「な、何だ」

 龍平は慌てて腕を押さえる。その瞬間、腕に激痛が走った。肉片は龍平の腕の中に侵入すると、徐々に腕から肩の方へと移動を始めた。

「驚いているな。その肉片は、お前の血管を傷つけながら脳へと向かって行く、そして最後には貴様の脳を食い破るのだ」

「うぐああああ」

 龍平は右腕を押さえて絶叫した。まるで腕の中に硫酸を流し込まれているかのように、熱く、そして痛い。何より未知の物体に体を蹂躙される恐怖が彼を襲っていた。

「このまま、僕はそこのソファで、優雅にくつろいでいたって、お前は死ぬんだぜ」

「そうか・・・・」

 龍平は何かを覚悟したように、一人で頷いた。それはこの状況に絶望し、あきらめたというような態度ではなかった。彼は自分の右腕に反対側の手を突き刺した。

 その瞬間、龍平の腕が金色の光を放ち、黒く変色した。そしてだらしなく垂れ下がり、動かなくなった。

「何をした・・・・?」

「腕の点を、自分で突いて破壊した」


 龍平は自らの腕の点を突き、殺した。点はその部位の寿命、どうしようもない急所であるため、一度破壊されれば、二度とは再生しない。どんなに医学が発達しようとも。

「龍平・・・・」

 葉太郎が丁度戻って来た。そして龍平の腕を見て驚愕した。

「どうしたんだ・・・・?」

「き、気にするな葉太郎。それよりどうして戻って来たんだ?」

「ああ、これを持ってきたぜ」

 葉太郎は食糧庫にあった小麦粉の袋を抱えていた。そしてそれを龍平の頭上目掛けて投げた。

「葉太郎、君の考えが分かった気がする」

 龍平は頭上の袋を左腕の拳で貫いた。同時袋の中身の小麦粉が、龍平と裕人の体を汚した。

「貴様ら何をしている」

「分からないのか。小麦粉を塗ったということは」

 龍平は拳を握りしめた。そして龍平の体目掛けて拳を突き出した「

「奥義百花」

「馬鹿が、反対の腕も破壊する気か・・・・」

 裕人は龍平の攻撃を避けなかった。だがそれこそが彼の最大のミスであり、彼の運命を決定づけた。

「ぐはあああああ」

 龍平の拳が裕人の体を捕え、彼の体が宙を舞った。そして床の上に背中から落ちた。

「ば、馬鹿なあああああああああ」

「小麦粉のおかげで君の肉片は付着しなかった」

「くそ、体が」

 龍平は立ち上がろうとするも、膝が上がらずその場で崩れ落ちた。

「終わりなんだ」

 龍平の眼に一筋の涙が浮かんだ。

「君の点を破壊した。君は死ぬ」

「う、ウソだあああああああああああああああ」

 裕人は床を這いずった。ナメクジのようにズルズルと龍平から離れていく。

「君との戦いは終わった・・・・」

「くそ、くそなぜだ・・・・」

 悶え苦しむ裕人の前に葉太郎が立ちはだかった。そして銃口を裕人の顔に向けた。

「正義は必ず勝つんだよ」

 葉太郎は言いながら引き金を引こうとした。だがそれを龍平が止める。

「正義が必ず勝つ。それは違うよ葉太郎。正義は勝たなくちゃあいけないんだ。正義を名乗ったからには必ず勝たなきゃ、それが正義を語るものの責任」

 裕人はベランダの手摺に寄り掛かった。

「悪いな。僕は生き延びるぞ。ここで死ぬような器じゃないんだ僕は・・・・」

 裕人は手摺ごと落下して行った。龍平と葉太郎は裕人の落ちて行く姿を、見えなくなるまで見守った。そして神崎裕人という、決して誰の記憶にも残らないであろう男の名を胸に刻んだ。


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