7
意味深な発言を気にしつつも、相変わらず普通の日常を過ごしている。
今日も変わらない夕暮れ。
友だちと並んで帰る道、あの公園の前で立ち止まった。
「じゃあ、晴夏。また明日」
「学校でね、晴夏」
「うん。じゃあ、バイバイ」
一人はその反対方向へ歩き出し。一人は塾へ行くと、この公園を通り町の外へ行く。
ここからは一人で帰る道だけど、足は動かなかった。
染まり行く、オレンジ色の世界。
胸が、苦しくなった。
苦しくて。
痛くて。
怖くて。
「……あ、か」
目の前に、見たことがない光景が広がった。
それは赤なのか、それとも紅なのか。
光景は、まるで古い映像のように途切れ。次に見えたのは、オレンジ色に染まる見慣れた景色だった。
「…………今の……」
今のは一体、何だったのだろう。
やっぱり、この公園には何か在るのだろうか。それとも、町の外へ向かった友だちに何か?
一部の記憶が飛んでから変わったのは、周りだけじゃなく、自分も含まれる。
変わらずに居られる自身があった。ずっと変わらないと思っていたのに。
「何も変わらない、普通だった世界が好きなのに」
何故か悲しくて、
「――世界は、変わっていくんだ。悲しみを、悲しみとしない所へ」
なのに、彼の言葉には、今度は驚かなかった。
何となく、言葉が返って来そうな予感が、心のどこかにあったのだろう。
振り向くと、彼が驚いた表情を見せた。
「いつも朝に会うと、驚くのにな」
「何となく、だよ」
「そうか」
「で、そう言うアナタも、変わった?」
「……どうだろうな」
目を伏せ、公園の方を向く。
どこか悲しそうなままなのが、いつもと変わらないと思った。
それは会ってから今日までの彼しか知らないから。
「オレは、『本当のオレ』を知らない――」
それは沢山の霊の、沢山の悲しみを紡いで来たからか。
彼の中にはある想いは、どれが彼だと言うのだろう。
「キミが気にすることはないさ。少なくとも、今ここ居るオレが、オレだ。
だいたい、人は自分も他人も完璧には知らない。まだ知らない部分が多い。疑問に思うことがあって当然なんだ」
何か、そう言われれば分かる気がする。
本当の自分を知らない。
いくら自分が自分であれば、それは自分と言っても。他人が何と言おうとも。誰も『本当』なんて分からないんだ。
きっと、答えなんてない。
だけど人は、正しい答えを求めてしまうんだ。短くも長くもない、人生のうちで。
意識していなくても、もしかしたら、知らないうちに。
「確かに、アナタを知らない部分が多すぎるよ。
言葉では、何も聞いていないのは別だし、別に強制はしないし。時間が必要だって言っていたから、待っていてあげようとは思うんだ」
わたしの言葉に、やっぱり悲しそうな顔をされる。そんな表情させたいんじゃない。
言葉は、時に凶器だ。
そして、
「……そんなキミを待たせておいて、オレがこんなことを言うのは筋違いだと思う。けど」
「けど?」
「オレは、キミを知りたいと思う。キミが知って欲しいこと、全てを――」
言葉は時に、驚きを与える。
けど、何故か嬉しいと思う気持ちが湧き上がった。
この気持ちは、不思議と嫌じゃない。嫌だなんて、思えなかった。
初めて会った頃からじゃ、考えられないほど。
変わっていた。