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 意味深な発言を気にしつつも、相変わらず普通の日常を過ごしている。

 今日も変わらない夕暮れ。

 友だちと並んで帰る道、あの公園の前で立ち止まった。


「じゃあ、晴夏。また明日」


「学校でね、晴夏」


「うん。じゃあ、バイバイ」


 一人はその反対方向へ歩き出し。一人は塾へ行くと、この公園を通り町の外へ行く。

 ここからは一人で帰る道だけど、足は動かなかった。

 染まり行く、オレンジ色の世界。

 胸が、苦しくなった。


 苦しくて。


 痛くて。


 怖くて。


「……あ、か」


 目の前に、見たことがない光景が広がった。

 それは赤なのか、それとも紅なのか。

 光景は、まるで古い映像のように途切れ。次に見えたのは、オレンジ色に染まる見慣れた景色だった。


「…………今の……」


 今のは一体、何だったのだろう。

 やっぱり、この公園には何か在るのだろうか。それとも、町の外へ向かった友だちに何か?

 一部の記憶が飛んでから変わったのは、周りだけじゃなく、自分も含まれる。

 変わらずに居られる自身があった。ずっと変わらないと思っていたのに。


「何も変わらない、普通だった世界が好きなのに」


 何故か悲しくて、


「――世界は、変わっていくんだ。悲しみを、悲しみとしない所へ」


 なのに、彼の言葉には、今度は驚かなかった。

 何となく、言葉が返って来そうな予感が、心のどこかにあったのだろう。

 振り向くと、彼が驚いた表情を見せた。


「いつも朝に会うと、驚くのにな」


「何となく、だよ」


「そうか」


「で、そう言うアナタも、変わった?」


「……どうだろうな」


 目を伏せ、公園の方を向く。

 どこか悲しそうなままなのが、いつもと変わらないと思った。

 それは会ってから今日までの彼しか知らないから。


「オレは、『本当のオレ』を知らない――」


 それは沢山の霊の、沢山の悲しみを紡いで来たからか。

 彼の中にはある想いは、どれが彼だと言うのだろう。


「キミが気にすることはないさ。少なくとも、今ここ居るオレが、オレだ。

 だいたい、人は自分も他人も完璧には知らない。まだ知らない部分が多い。疑問に思うことがあって当然なんだ」


 何か、そう言われれば分かる気がする。

 本当の自分を知らない。

 いくら自分が自分であれば、それは自分と言っても。他人が何と言おうとも。誰も『本当』なんて分からないんだ。

 きっと、答えなんてない。

 だけど人は、正しい答えを求めてしまうんだ。短くも長くもない、人生のうちで。

 意識していなくても、もしかしたら、知らないうちに。


「確かに、アナタを知らない部分が多すぎるよ。

 言葉では、何も聞いていないのは別だし、別に強制はしないし。時間が必要だって言っていたから、待っていてあげようとは思うんだ」


 わたしの言葉に、やっぱり悲しそうな顔をされる。そんな表情させたいんじゃない。

 言葉は、時に凶器だ。

 そして、


「……そんなキミを待たせておいて、オレがこんなことを言うのは筋違いだと思う。けど」


「けど?」




「オレは、キミを知りたいと思う。キミが知って欲しいこと、全てを――」




 言葉は時に、驚きを与える。

 けど、何故か嬉しいと思う気持ちが湧き上がった。

 この気持ちは、不思議と嫌じゃない。嫌だなんて、思えなかった。

 初めて会った頃からじゃ、考えられないほど。

 変わっていた。



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