表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/32




「悪いことは言わない。その人、この町から出した方がいいよ。

 アタシ、見たんだ。昨日の帰り、本屋の裏側で――あの人、幽霊を消していたのよ!」


 この町は、霊の見える人が多い。ただ、時と場合によっては見えなかったりする。

 彼は常に見え、聞こえているらしい。

 その彼が霊を消したとなると、それは浄化――浄霊だ。

 知らない人が見たら、きっと消したように見えるのだろう。霊が成仏する光景なんて、目にしたことがないから。


「別に、害はなかった訳なんだよね?」


「まあ……そうだけど」


「何が不満、って言うか不安なワケ?」


「……女には、いろいろあるのよ」


 なんて、誤魔化すような言い方をするけど。少なくとも、彼に対して好印象を持っていないのは分かった。

 それも多分、信用できていないからだと思う。

 ――と、言える立場でもなかったりする。


「ただ、みんなは晴夏を守りたいだけなのよ」


「いや、そんなこと、さらりと言われてもさ。害はないワケだし」


「あってからじゃ、遅いから」


 友だちを守りたい気持ちは、『これでもか』と言うくらい分かっている。

 だけど、何かがおかしい。ほんの僅かだけど、僅かに『あれ?』と引っかかるような。


「……もしかして」


 もしかして彼女は、彼に宣戦布告をした友だち?


「ねぇ、この間」


 言いかけた時、邪魔するかのようにチャイムが鳴った。

 タイミングが良すぎる。


「ほ~ら、お前ら席に着け」


 同時に入って来る担任。これがなかったら、答えがなくてもいい、質問だけでも投げかけたかった。

 何故なら――

 授業の内容が耳に入らない。

 意識を黒板に向けても、ノートは白紙。考えは別の方向に行っていた。

 彼がこの町に来た理由。浄霊の力で、この町全ての霊を成仏させるため――な、ワケがない。

 お人好しにも見えない。

 誰かに会いに来たとかだろうか。失ってしまった、とても大切な人……とか。

 居るの、かな。


「(……って、何でこんなに気にしているんだろ)」


 ああ見えてイケメン(かは、分からないけど)、三人に一人くらいは振り返りそう。料理もできるし、ちょっと……少し……優しい。

 そう考えると、彼を好きな人はたくさん居るのかもしれない。好きな人が居なくて可哀想なんて、妙な心配は不要で無用だ。

 知りたいのは、目的。ただそれだけ。

 居候している以上、協力出来ることは協力してやろうという気持ちはある。

 悲しげな表情をばかりのせいか、心苦しいって部分もあったりした。

 なにより、


「(いつまでも、ダラダラと居候しているってのも、世間体に悪いのかも)」


 町の人の反応を見る限りでは、噂は悪い方向だろうし。

 その上、友だちに浄霊を見られている。

 彼女が心配する気持ちが、分かった気がした。

 多分、これが一番の不安の原因。


「(そろそろ、はっきりさせた方がいいのかも)」


 彼から話してくれるように、会話を進めてみよう。

 そして少しずつ、誤解や不安を解いていけば、きっと。


「よし! 決めた!」


「ほ~う。神城、この問題を解いてみるのか?」


「……へ?」


「決めたんだろう? この公式を解くことを」


「え、あー…………スミマセン、ワカリマセン」


 瞬間、笑いが沸く。

 先生も、クラス中も。みんなが笑う。

 恥ずかしい気持ちも、笑いに溶けて行く。

 ずっと考えていたことも、心のモヤモヤとした部分も、この時だけは消えてしまうほど。

 声に出して笑い、思った。


 この日常が、壊れないで欲しい。


 何故か、そう――


 ――と言うのが、今日の夕方までの流れである。

 意気込み、決心はしたものの……いざとなると、なかなか言えないものだ。

 帰ってからも、ご飯を食べても、言葉が切り出せなかった。

 弱い決心を急き立てても、仕方がなく。使い終わった食器を洗いながら、考える。


「はぁ~……」


 深い、ため息。

 同時に、何かが落ちた。


「――大皿、割ったら怪我をするぞ」


「へ? あ、あれ?」


「落ちる寸前で止めた」


 彼の手には、わたしが持っていたはずの大皿。

 それを何事もなかったかのように拭き、食器棚に戻したかれは、怒っているワケでも、呆れているワケでもなく。普通、だった。


「怪我をしたら、晴秋さんが悲しむ」


「…………アナタ、は?」


「心配はするさ」


 それは、居候している身としてなのか。

 それとも、もっと別のことなのか。

 なんて、彼がどう思っていようが、関係なんてないんだ。

 関係なんて……。


「キミの友だちに、何か言われたのか?」


「な、何で?!」


「……やっぱり、そうか」


 はっ、と気づく。

 彼の問いは、引っ掛けだった。

 こんなに簡単に引っ掛かってしまうほど、思考回路に余裕がなかったということだろう。

 普段は悩みたくなんて、ないのに。


「でも……まだ、全てを話せない。時間が、必要なんだ」


「誰、に?」


 彼は、困ったような笑顔を見せるだけで、答えは返って来なかった。

 はっきりさせたいけど、やっぱり待つしかない。

 友だちが好きな人に告白をするまで、何週間、いや何ヶ月も時間をかけた気持ちが分かった。

 足りないのはきっと、勇気。

 彼にもまだ、確実な勇気がないのだろう。

 居候をして、二週間。それでも『まだ』二週間なのだから。


「………………全ては、晴秋さんの心が……」


「え、何?」


「……いや、何でもない」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ