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十キロの米を二つ持たせた彼と、あちこちを回りながらの帰り道。
「本当に、この町は幽霊が多いんだな」
と、感想を言った。
「どのくらい見えたの?」
「残念ながら、全部だ」
何が残念なのか。
まあ、霊が視える体質もいいとは限らない。
この町の人たちは体性なのか、見える人が多いから、見えること事態に疑問もなかった。外の人から見れば、異質だったりするけど。
それにしても、全部とはどこからどこまでを『全部』と言うのか。
「見えるのは嫌なんだ?」
「嫌と言うか……見えない世界に憧れると言うか。家は、見えて当たり前の家系だから仕方ないと言うか」
「遺伝みたいなもの?」
「……だろうな」
霊能力者の一家、というヤツか。
普通じゃないから、普通に憧れる。その気持ちは逆もあるから、分からなくはない。
「この町じゃ見えるのは当たり前だけど、どうにもできない。救えないのは悲しいことかもね」
「…………救えたとしても、悲しいことはあるさ」
視線をやる方向。一人の俯いた幽霊が通り過ぎる。
その姿を目で、見えなくなるまで追いかけた彼には……どことなく、影があった。
見えるだけで救えない歯がゆさ……か。
そうしてしばらくの間、わたしは彼を見ていた。
――と言うか、もしかして米が重かったから……休んでいるだけ?
きっかけを幽霊にして。
なんて。
「あ……もぞもぞすると思ったら、ネコだったんだ。いつの間に……首輪があるってことは、どこかの飼い猫かな?」
足元に擦り寄っているネコは、凄く人懐っこい。
抱き上げると、舐められた。
「うーん……擦れて、住所が読めないな。交番かどこか、連れて行ったほうがいいのかな」
とりあえず、彼に意見を求めてみる。
一瞬だけ目が合い、
「…………無理だ、それは」
そう言って、腕の中のネコに手を伸ばした。
頭を撫でて、喉を撫でて。
「このネコはもう――」
光が、溢れた。
その光を見ていて、多分わたしは泣いていたと思う。
喉がヒリヒリ痛む。
何が起こったのか、記憶があやふや。
覚えているのは、光が暖かくて悲しすぎて、どうしようもなかった。
泣くしかないなんて、子どもかわたしは。
「落ち着いたか?」
「何が?」
「何がって……人を叩くだけ叩いて、縋って号泣したじゃないか」
「はあ? 叩くのは分かるけど、何で縋って泣かなきゃならないのよ」
よりにもよって彼に。
恥ずかしいと思う前に、自分に苛立つのは何故だろう。
「それより……さっきの光、アレは何?」
「…………浄化」
「って、霊媒師とかがやる?」
「似たようなものだ。
オレは浄霊――霊を力や強制的にではなく、自然や自発的に天へ送る能力だと認識している」
「違いが分かんないわ」
意味を理解しようと考えようとするが、難しすぎるのか、頭痛がする。
そんなわたしに、更に説明をくれた。
霊能力には二つあるらしい。
浄霊と、除霊。
前者は霊の意志を尊重し、後者は意思を無視して強制的に排除すること。
この町に来る霊能力者や霊媒師のほとんどが、後者の力だと言った。だから嫌がって逃げて、成仏せずにまだ居る。
逃げる理由が除霊だからとは、知らなかった。
だけど疑問。
テレビで見る霊能力者は霊と対話し、お願いし、祓っている。それは浄霊じゃないのか?
聞いてみると、いずれ違いが分かると返された。つまりは曖昧にさせられた。
「――気味が悪いか?」
「えーっと」
返答に戸惑うと、彼は少し俯いた。
正直、気味が悪いとか思う間もなかったし、改めて考えてみても、思えない。
大丈夫か、そうでないかの二択なら、
「あまりいいとは言えないけど……まあ、平気……かな?」
大丈夫である。
何も怖がることなんてない。
悲しいけど、良かったと思える部分がある。
意志を尊重して、送られるのだから。
「それより、アナタは悲しくないの?」
「…………思う気持ちはある。だけどオレの心は、悲しさに慣れてしまった」
「あ……ゴメン」
「いや、気にするな」
「気にするよ」
だって、人は慣れる生き物だ。慣れてしまえば、それが当たり前になってしまう。
悲しいことに慣れた彼は、そうしなければならないほど、その世界に居たのだろうか?
そこは、どんな世界なのか分からないから、彼の気持ちを察することも出来なかった。
「本当にいいんだ。オレは悲しさを受け入れなければならないために、慣れることを選んだ」
「受け入れて、どうするの?」
「紡いでいく。それが、オレの浄霊力になるから」
「だから――」
だからアナタの名前は、
「紡」
なんだ。