愛に縛られた魂は重いから
本来魂は軽い。
空気より軽いのだ。
だから人は死んで肉体を脱ぎ捨てると、魂は天界に昇るものと決まっている。
天界に辿り着けないのは、魂が悪徳や執着に染まって重くなっている場合に限られる。
最近人間界で、空気にも重さがあることが知られ始めた。
魔道で空気を成分に分けた時、重いものと軽いものがあるとわかったのだ。
軽い空気を選り分け袋に詰めたものを風船と呼び、祭りなどのイベントや子供の玩具として用いられるようになった。
◇
セラフィ・ラッカム男爵令嬢はアラン・モーペス男爵令息の幼馴染だった。
アランはモーペス男爵家の跡取りで、『わたしはアランのお嫁さんになるのよ』と子供の頃からセラフィは言っていた。
それくらい二人は仲がよかったのだ。
後に二人が婚約したのはごく自然な流れだった。
しかしアランは事故で命を落としてしまった。
セラフィは嘆き悲しんだ。
が、それは建設的でないと思い始めた。
下界であったこと、わたしの周りであったことをアランに伝えたいと考えたのだ。
セラフィは風船でアラン宛ての手紙を飛ばした。
今年のプラムはおいしかったこと、テストの成績、公園の大道芸など。
内容はたわいもないことだった。
天界にいるアランに、わたしが日々の生活を楽しんでいることが届きますように、と。
ところがアランの魂は天界にいなかった。
セラフィとの愛に捉われてしまい、天界に昇れなかったのだ。
アランの魂はセラフィの近辺にいたのだが、セラフィは気付かなかった。
セラフィは時折手紙風船を飛ばしていたが、もちろんアランの元に届くことはなかった。
天帝がアランとセラフィの状況を知り、哀れに思った。
元々身体の強くないセラフィに寿命が近付いていることを、天帝は知っていたから。
セラフィの魂は天に召されるだろう。
アランと天界で再会できることを楽しみにしているだろう。
しかしアランの魂は下界での愛に縛られてしまった。
このままでは天に昇れないのだ。
アランは下界の愛を脱ぎ捨て、魂の愛に昇華すべきであった。
下界にいてはなかなかその境地に至れないのも現実ではあったが。
天帝は迷った。
自分が力を貸すのは簡単だが、天界に昇りたい魂はアランだけではない。
天界を統べる者の行いとして不公平ではないかと。
しかしここで閃いた。
自分の寿命を悟ったセラフィが最後の手紙を書いていたからだ。
わたしもそちらに行きます、楽しみにしていてくださいねと。
これまでのよりもうんと大きな風船に手紙を括りつけて。
天帝はアランに言った。
アランよ、セラフィの風船はそなたが天界に来るための乗り物であると。
理解したアランの魂はセラフィの風船に捕まって天界に到達した。
アランの魂は聖気で浄化されて軽くなり、天界の住民として相応しいものになった。
ほどなくしてセラフィの魂も天界に着いた。
二人は天界で仲睦まじく暮らしたのだった。
いつまでもいつまでも。
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