【思考実験】究極の三択
いらっしゃい。
私はこの実験室の案内人「チトセ」です。
ここは、あらゆる人が思考実験の餌食……いえ、被験者となっていただき、一緒に考えて頂く場所です。
今回の実験は、「トロッコ問題」よ。
有名ね。
――ブレーキが壊れたトロッコの進む先にはら、作業員5人がいます。線路を切り替えれば5人は助かります。ですが、切り替えれば、その線路の先にいる1人が犠牲になります。
ねえ、どっちを殺しても、あなたの魂には一生消えない泥がつくわよ。……ふふ、その泥の色、私に見せてくれる?
え? 私ですか?
わたしなら……迷わず全員始末……。
いえ、黙って静観しているかもしれません。
だって、余計なことに関わらないのが、1番ですからね。
さぁ、はじめましょう。はじめましょう。
アサヒは、汗ばむ手でレバーを握りしめていた。
レバーを持つ手が震える。
今にも勝手倒してしまいそうだ。
どうする!?
どうすればいいっ!?
心臓が早鐘のように打ち、身体中から汗が吹き出る。
ハァハァと呼吸もままならず、止まりそうな程に荒い。
アサヒの目に、二つの選択が転がっている。
一つは、何もしなければ、このまま鉄骨が落ち下の通行人が数人死ぬだろう。
そしてもう一つは、レバーを倒し、タワークレーンを旋回させれば、隣のビルに鉄骨が激突して、ビルは倒壊してしまうかもしれない。
だが、下の人達を助けるという意思は、認められるだろう。
ゆっくり回せば問題無いだろうが、ワイヤーが今にも切れそうだ。ゆっくりなんて、してられない。
時間が無い。
このまま何もしなければ、下にいる人たちは死ぬかもしれないが、ただの事故として終われる。
自分が殺した事には、ならないのではないか?
だが、ワイヤーが今にも切れそうな事を知っている。
しかも、ワイヤーの点検をしたのは、他でもない自分だ。
どうする!!?
ワイヤーは、今まさに切れようとしていた。
アサヒさん。
どうやっても、あなたに逃げ場なんかないわね。
諦めて「事故」として、最小限に留めるのが1番いいかもしれないわね。
私が予言したとおり、やっぱりあなたの魂には一生消えない泥がついたわね。
二択なら、まだマシだったわね。
三つ目の選択肢――『自分の罪を自覚しながら、ただ立ち尽くす』
それが、一番汚い泥の色をしているのよ。……ふふ、素敵だわ。
何事も、事を行う時には、点検確認は必要ってことよ?
無難に事を終わらせるには、それが一番安全かもしれないわね。
さぁ、あなたは、どの選択をする?




