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普通の悪役令嬢に転生したと思ったら、バグまで一緒にくっついてきました。  作者: 逆立ちハムスター


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3/5

3̶͈͕̩̬̮̰͕̯̯̯̞̎̎̋͗̋̇̈́͐̃͐͌̈́̔͂̏̄̾̍̉́̄̍̊͌ͅ

「……あれ?」


 痛みがない。確かに鈍い音だったはず。

 顔を上げると、私が衝突した壁が、まるでスライムか豆腐のように「ふにゃふにゃ」になっており、私の体を優しく受け止めていた。

 私が離れると、壁は波打つような動きを見せた後、何事もなかったかのように元の硬い石壁に戻った。


「……もう分からない」


 私は壁に手をついたまま、魂が口から抜け出しかけていた。


「お嬢様、ご無事ですか!? ……その……お怪我がないようでよかったです」

「よくないわよ……心臓に悪すぎるわ……」


 フラフラになりながら、なんとか食堂にたどり着いた。

 父である公爵と母が、すでに席についていた。


「おはよう、リゼッテ。……なんだか、今日は妙に『賑やかな』雰囲気だな」


 父が私の頭上を見て、引きつった笑みを浮かべる。

 鏡を見ていないが、きっと【種別:悪役令嬢】の下に、【現在の状態:バグ暴走中】とか出ているに違いない。


「魔法で遊んでいるのかしら」

「君の若い頃にそっくりだな」

「まあ♪ あなたったら♡」


「……その……おはようございます、お父様、お母様」


 私は無表情を装い、席に着いた。

 朝食が運ばれてくる。最高級の……何かだ。

 私はスプーンを持つ手に全神経を集中させた。


落ち着け……餅つくのよ。感情を動かすな私。これはただの食事。私は無だ。私は虚無なのだ……。


 心の中で呪文のように唱え、感情を完全にフラットにする。

 スプーンを何かに差し入れる。……貫通しない。市松模様にもならない。

 口に運ぶ。……味がする! 砂の味じゃない!


「……っ!」


 あまりの美味しさと、普通に食事ができていることへの感動で、つい涙がこぼれそうになった。

 ――ガガッ。


 危ない! 感情が動いた瞬間に、高級な何かが紫色に変色しかけた。

 私は慌てて真顔に戻り、感情を殺す。食材は元の黄色に戻った。


そうか……。この世界で『普通』に過ごすためには、一切の感情を捨て、平常心を保ち続けなければならないんだわ……!


 それは、悪役令嬢として生きるよりも遥かに過酷な修業のように思えた。

 けれど、その執念が功を奏したのか、私はそれ以上のバグを起こすことなく、無事に朝食を完食することに成功したのだ。


よくやったわ、私……!


 心の中でガッツポーズを決めつつ、私は感情を出さないように注意しながら、学園へ向かうため、屋敷の玄関を出た。


 公爵家の紋章が入った立派な馬車が待機している。

 私は「何事も起きない」と信じるのではなく、「何が起きても動じない」という、悟りを開いた僧侶のような心境で馬車に乗り込んだ。


 ――……。


 馬車は静かに動き出した。

 ……バグらない。座席に体が埋まることも、馬車の車輪が四角くなることもない。

 どうやら、平常心を保つ作戦は成功しているようだ。


ふぅ……。これなら、学園に着くまでに少し心を休められそうね。


 私は安堵し、馬車の窓から外の景色を眺めた。

 王都の街並みは美しく、多くの人々が行き交っている。


「……?」


 何かがおかしい。

 街の人々が、皆一様に、こちらの馬車を見て、顔を引きつらせているのだ。

 それだけじゃない。彼らは私の顔を見るなり、怯えたように道を空け、あるいは指をさしてヒソヒソと囁き合っている。


いくら悪役令嬢だからって、ここまで、国中から嫌われているの……?


 いくらなんでも、登校前の令嬢に対して、街中の人間がここまで拒否反応を示すのはおかしい。

 私は不思議に思い、御者に声をかけようとして――窓に映った自分の姿を見て、凍りついた。


 窓ガラスに映る、私の頭上。

 そこには、これまで点滅していた【種別:悪役令嬢】の文字が、さらに巨大化し、赤黒く禍々しいフォントに変化して浮かんでいた。


 そして、その下には、電光掲示板のように流れる文字で、こう記されていた。


 【悪役令嬢・学園へ登校中】

 【災害(歩くシステムエラー)】


……これ、街の人全員に見えてるわね。

私は、自分自身がバグるだけでなく、周囲に「存在自体が災害」であることを知らせる、生きた警告ビーコンと化していたのだ。


……学園、行きたくない。


 私の(感情を殺したはずの)呟きと共に、馬車の天井がゆっくりと、静かに剥がれ始めた。

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