第4章
結局、その晩は帰ることができなかったため、翌朝早く帰ることになった。男兄弟たちはまだ酒を酌み交わしている。人数が多いので時間短縮のため、オレは母と二男のお嫁さんの3人で、母屋の玄関の向かいにある赤いトタン屋根の風呂場で入浴することになった。オレと母がお風呂に入る番になると、二男のお嫁さんの伯母さんはいつもの笑顔で、ワタシも一緒でいいかしら、と立ちあがったのだ。 ──オレは母とお風呂に入るのがもうあまり嬉しくなかったけれど、伯母さんも一緒だとやはり恥ずかしくて少し緊張した──
やはり風呂場も豆電球のため薄暗く、母と伯母さんの細身の裸体がほのかに褐色に色づいて見えた。もちろん伯母さんには子どもがいなかったため、以前からオレのことを自分の子どものように可愛がってくれていた。
母と伯母さんは、血が滲んだ足裏やかかとを確認しなが女学生のように無邪気に笑い合った。
──久しぶりに走りました。
しかも裸足でなんて自分でもびっくりです。
伯母さんは嗚咽したのがまるで嘘のように明るかった。それでも伯母さんの琥珀色に色づいた横顔が、ときおり深淵な寂寥感を湛えるのが気になった。
──ユウちゃんは勉強がよくできると聞いています。大人になったら何になりたいの?
──うーん、まだわからないけど。
でも動物や鳥や昆虫たちと話しができるようになりたい。星たちとも話しがしてみたい。
なんで宇宙が生まれたのか聞いてみたいから。
すぐに母がオレの背中をゴシゴシ洗いながら、またこの子は変なことばかりいって、と首を横に軽く振りながら苦笑した。しかし伯母さんはいっさい笑うことなく思いつめたような真剣な表情で、オレの肩にいくぶん濡れた細い手を置き、オレの目をそのやや切長の美しいひとみでじっと見つめながら、胸に秘めていたとても大切なことを話しはじめた。
──この世界は、くもりのないまなこで見なければなりません。
ユウちゃんなら必ずできるはずですから。
実はね、死んだあの人が残した詩集があるんです。
ユウちゃんにぜひ読んでほしいの。
お風呂からあがったらお渡ししますね。




