第2章
その白い満月が寂光のようなむし暑い夏の晩、祖父の家に、戦死した二男をのぞく兄弟10人全員が集まった。 ──おそらくお盆だったのだろう、兄弟は女性の方が多いが── 祖父と祖母を真ん中にして酒盛りがはじまったが、それほど広くない茶の間に入り切れない兄弟やその配偶者や子どもたちは、天井電灯がやや薄暗い仏間などの別の部屋で、賑やかに宴をおこなった。オレは出前の握り寿司を頬張りながら、親戚の子どもたちとは遊ばずに持参した怪獣図鑑に夢中になっていた……
翌日の勤務のため、その日のうちに帰らなければならなかった父はすでにかなり酒に酔っていて、母が帰宅を促してもいっこうに帰る素振りをみせないばかりか激しく母を罵った。日頃はとても気丈な母ではあったがつい涙を溢すと、まわりの女兄弟たちが、タカちゃん大丈夫か、タカちゃんごめんな、 ──母の名前はタカコ── と母を気遣うように囲んで慰めていた。
家督の長男の伯父がそんな父を叱りつけ、ついには月明かりで妙に明るい庭で仁王立ちになると、父にかかってこいと気勢をあげたが、本来小心な父は小さくなってかしこまり、半袖の白い開襟シャツからのびた太い腕で目をこすりながらめそめそと泣きはじめてしまった。
するとやはり酒に酔っていた長男の伯父は仁王立ちのまま、開け放たれた縁側の奥の、仏間のやや薄暗い天井電灯に照らされた漆黒の肖像額縁の写真に向かって、兄弟たちも知らなかったであろう戦死した二男の遺書に書かれていた言葉を、舞台で口上するように涙ながらに叫んだ。 ──運命を呪いながら、おそらく暗記してしまうほど何度も何度も読み返したであろう弟の遺書を── 縁側で膝をついて見守っていた白い割烹着姿の二男の未亡人 ──婚姻後わずか半年で夫が出征した── や他の兄弟たちに、怒りをこえた祈りを込めて訴えかけるように……
──天皇陛下とか大日本帝国のためとかで行くんじゃない。
最愛のKA ──海軍用語で妻のこと── のために行くんだ。
命令とあればやむを得ない。
ぼくは彼女をまもるために死ぬんだ。
最愛の者のために死ぬ。
どうだ素晴らしいだろう。




