第三章 リリーと名前のない女王
ロイ=ウェルの第三章です。
今回の章では、リリーがマーシャルを追いかけて、ロイ=ウェルへ行きます。そこでリリーは名前のない女王と出会い…。物語はどんどん加速していきます!
お楽しみ頂ければ幸いです☆
空き部屋から出たマーシャルは、廊下で三姉妹を見つけた。
「ごめんね、長い間いなくて。」とマーシャルは謝った。「でも、戻って来られたから」
「なんのことを言ってるの、マーシャル?」とマリーが言った。
「え?」とびっくりしてマーシャルは尋ねた。「もしかして、僕が居なくなってから、そんなに時間経っていないの?」
「さっきの部屋の本を少し読んでから来たんでしょう?」とエリー。「大丈夫、心配するくらいには、居なくなってなかったわよ」
「そうか、向こうとこっちじゃ時間の流れが違うんだ」とマーシャルは言った。
それを聞いた三姉妹は、顔を見合わせた。
「変なことを言うのね、あなた」とリリーが、自分の頭を指で叩いて言った。「気が狂ってるの?それとも、自分は私達とは違う存在ってアピールしたいわけ?」
「どういうことなの?マーシャル」とエリーが尋ねた。
「実はね、さっきの空き部屋の本棚を開けてみたら、中がこことは別の世界に繋がってたんだ。そして、その世界で何時間も僕は過ごして帰ってきたんだ。色んなことがあったけど、なんとか無事にね」
「でも、あなたが居なくなってからなんて、何秒かしか経ってないわよ」とマリーは言った。「時間の流れが違う、異世界の話は面白いと思うけど」
「あなたが読んでたお話の話?」とエリーが尋ねた。
「僕は何の本も読んでないよ」マーシャルは答えた。「僕が開けた本棚が…異世界の国に繋がったんだ。その国は扉を開けた先にあって、暗闇に閉ざされて、エルフがいて、名前のない女王がいて、そこはロイ=ウェルっていう意思を持った国で…来て欲しい子しか入れないんだ」
三姉妹はわけが分からなかったが、マーシャルがとても興奮しているので、本棚のある部屋に戻ることにした。マーシャルは先頭を歩き、本棚に手をかけた。
「じゃあ、開けてみるね」とマーシャルは扉を開けた。しかし、そこには暗闇はなく、本がぎっしりと詰められていた。
「マーシャル、あなたって想像力があるのね」とマリーが言った。「本棚を見て、それが別の世界につながるってお話を思いついて、私達に話してくれたのね?」
マーシャルはもう一度扉を閉めて開けてみた。が、やはり繋がることはなく、本が現れるだけだった。マーシャルが通った道は、もう本棚を開けても繋がらないようだった。
「あなた、作家になれるんじゃないかしら?」と、エリーは言った。「私達の家業を継いで、その才能が活かせないのはもったいないわね」
「作り話ではないんだよ」とマーシャルは言った。「絶対に行ったんだ。ロイ=ウェルはお決まりの場所からいつでも行けるわけじゃないんだよ。でも、僕はロイ=ウェルに選ばれて行けた人間だから、またどこか開けたら行けるはずさ。選ばれた人間だけが行ける国なんだよ」
「よく出来た言い訳ね。あなた気が狂ってるわけじゃなくて嘘つきのペテン師だったのね」とリリーが言った。「作り話をこさえてまで、自分は特別な人間だって思わせたいなんて、やな奴ね」
「やめなさいよ、リリー」と、エリーとマリーはリリーを嗜めた。マーシャルは顔を赤くし、言い返そうとしたが、何をどう言っても無駄だと感じて黙りこくってしまった。ロイ=ウェルがあると証明するには、もうマーシャルには何も材料が残されていなかった。
それからの数日間、マーシャルは惨めな気持ちで過ごした。あの話は自分が作り出した話だと言えば、みんな納得して仲直りできるかもしれない。ただ、マーシャルは嘘がつけない誠実な子だったため、自分が体験したものを作り話とは言えなかった。何より、エルフェルさんがいないなんてことを言いたくなかった。けれどやはり、姉妹たちに自分が作り話を上手に話す、嘘つきな自分を特別な人間だと思わせたがっているペテン師だと思われるのは嫌だった。エリーとマリーは、何の気なしにマーシャルを傷つけたが、意地悪なところがあるリリーは、ことあるごとにマーシャルをあざけって笑い、マーシャルが屋敷の開けられるものを全部開けてみようとする度にからかってきた。おかげでマーシャルは、試すことが出来なかった。
雨の日の屋敷探索以降、マーシャルと三姉妹たちはぎくしゃくした関係になってしまい、せっかく雨が止んでお天気の日が続いても、森や小川に行くことは無かった。マーシャルは気まずい空気になるのが嫌で、三姉妹たちといることを避けるようになり、図書室になどに籠り切るようになってしまった。そうして日々が過ぎ、また雨が降り出すようになった。
その日はずっと雨が降っていて、外に出ることが出来なかった。子供達はそれぞれ好きに過ごしていた。その日、マーシャルはリリーに隠れながら、屋敷内の開けられるものを全て開けては閉め始めた。エリーやマリーにも内緒で始めた。話を蒸し返されて傷つきたくなかったから。マーシャルはどうしても、ロイ=ウェルに行きたかった。エルフェルさんやロイ=ウェルが心配ということもあったが、この時にはもうマーシャルですら、自分は本当にロイ=ウェルに行ったのか、自信を持てなくなっていたのも大きかった。
マーシャルは、手当たり次第になんでも開けて行った。そして、倉庫にたどり着いた。倉庫には使っていない、色々な大きさの鍋が多数あった。
マーシャルが自分が入れそうな大きな鍋に手を伸ばた途端、倉庫の外の廊下を誰かが歩いてくる音が聞こえた。その音は、三姉妹がお揃いで履いている靴の音で、三姉妹に会いたくないマーシャルは、やむを得ず鍋を開けて、その中に入って蓋を閉めた。蓋を閉めるのは、身を隠すためでもあったが、何よりこの屋敷のルールでもあったため、マーシャルは忘れずにピタッと閉めた。
足音の正体はリリーだった。リリーが廊下を歩いている時、ちょうどマーシャルが倉庫に入るところだった。それを見てリリーは自分も倉庫に入ろうと決めたー特に用事があったわけではなく、嘘つきなマーシャルのことをまた責めようと考えたからだった。リリーが倉庫に入ると、中には鍋しかなく、マーシャルの姿は見えなかった。
「鍋の中に隠れてるんだわ」とリリーは心の中で思った。「マーシャルが入りそうなサイズなんて、この鍋一つだけだわ。観念することね」コツコツと鍋を叩き、リリーは鍋の蓋を開けた。すると、そこには暗闇が広がっていた。リリーは驚いた。まさか、本当に違う世界へと繋がることがあるの?
「とにかく入ってみるしか確かめようがないわ」リリーはそう言って鍋に入り、ゆっくりと蓋を閉めた。暗闇は穴のようになっているわけではなく、すぐ地面に足がついた。リリーはゆっくりと、マーシャルを手で探し始めた。ほんの数秒で見つかるかと思ったが、マーシャルはもう居なかった。手で辺りを探ると壁があるようで、リリーは右手で壁を触りながら、左手を前にして歩き出した。行けども行けども何も見えず、どこにも行けず、リリーは急に不安になって、叫んだ。「マーシャル!どこにいるの!ここに居るのは分かってるのよ」
返事は無く、リリーの声が響くだけだった。やがて、左手が何か硬いものに触れた感触がした。触って確かめると、それは大きな扉のようだった。
「ここが、マーシャルが言ってた扉ね」とリリーは言った。「ふん、私もロイ=ウェルに選ばれたんだわ。マーシャルだけが特別なわけないものね」そして、扉を開けて中に入り、扉を閉めた。
扉の先は、暗闇が広がっていた。足元はどうやら土のようだが全く見えず、頭上の空も夜のように暗く、星や月一つ無かった。何も見えないだけでなく、あたりはしんと静まり返っていて、この国に今自分だけしかいないと思えるくらいだった。生き物の気配は何も無く、どの方角を見ても同じ黒が待っていた。リリーは思わず身震いした。
怖くなったリリーは、マーシャルが先に来ているはずなのを思い出した。それに、マーシャルの話を信じずに嘘つきの嫌なやつだと言ったこともーマーシャルは嘘を言ってなんかいないと分かったから。きっとマーシャルはどこかにいるに違いない。そう思ったリリーは、大声で叫んだ。「マーシャル!私よ、リリーよ!私もロイ=ウェルに選ばれたの!」
だが、返事は無かった。
「私がこれまで言ったことを許してないんだわ」とリリーは思った。自分が間違っていたことを認めるのは嫌だったが、この暗闇に包まれた見慣れない場所で一人でいることの方がもっと嫌だった。そこで、もう一度叫んだ。
「ねぇ、マーシャル!信じなくてごめんなさい。謝るから出てきてよ。仲直りしましょう」
それでも、返事は無かった。
「そうなの、そういう態度取るわけね」とリリーはぶつぶつ言った。「ちゃんと謝ろうとしてるのに、そのチャンスをくれないわけね」リリーはもう一度あたりを見渡し、こんな国にいても楽しくないし帰ろうかしら、と思い始めた。だが、ちょうどその時に、暗闇の奥から何か音が聞こえてきたー馬車の車輪の音だ。耳を傾けると音は段々近づいてきて、やがて二頭の馬が引く馬車が、リリーの前に姿を現した。
馬はボニーくらいの大きさで、雪のように真っ白な毛をしていた。額には黄金に輝く角が生えており、その光が辺りを照らしていた。その馬たちを操縦していたのは、立っても100センチにも満たないほど小さな、梟人間だった。首から上が梟で、首から下は人間のような体をしており、首をぐるぐる回し続けていたが、リリーを見ると回転をやめた。
そして梟人間の後ろの、車両の中には、梟人間とはまた異なる人物が座っていたーリリーが今まで出会ったどんな女性よりも背が高く、厳かなオーラを纏う貴婦人だった。彼女はダイヤモンドを散りばめた紫色のドレスを身に纏い、右手には長く真っ直ぐな黄金の杖を持ち、金髪の長い髪に紫水晶の縄を巻いていた。顔は真っ白で、瞳と唇が、まるで血のように赤かった。美しい容姿をしていたが、傲慢で冷酷そうで、プライドが高そうだった。
「とまれ」と貴婦人が言うと、梟人間は馬車をリリーの目の前で止めた。
「お前は何者だ?」と、貴婦人はリリーを見つめながら言った。その視線はするどく、リリーはどもりながら答えた。「わ、わたしは、あの…リリーといいます」
貴婦人は顔をしかめ、「なぜ、私の前で跪かぬ?」と尋ねた。「名前のない女王を目の前にして」表情はさらに険しくなっていった。
「すみません、名前のない女王さま。あなたが女王さまだと知らなくて。私は外から来たんです」
「外からだと?」と名前のない女王は叫んだ。「お前、まさか人間なのか?」
「はい、人間の女の子です」リリーは答えた。「ロイ=ウェルに選ばれて参りました…おそらく、先に弟も来ているはずです…」




