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第二章 招きたくない客

ロイ=ウェルの第二章です。

意思を持つ国ロイ=ウェルに導かれたマーシャルは、エルフのエルフェルさんと出逢います。エルフェルさんには、秘密があり…。ロイ=ウェルの世界について、マーシャルは知っていきます。お楽しみ頂ければ幸いです!

 「おじゃましています」とマーシャルは頭を下げた。それに対してエルフは割ってしまった水晶の片付けを大忙しでしており、返事を返せなかった。マーシャルが手伝おうと近づきしゃがみ込むと、それに驚いたのかエルフはつい魔力を使ってしまい、水晶は欠片も無くなって消えた。やることが無くなったエルフは、やっと「いえいえ、そんな」と返事を返した。「失礼ですがー答えたくないならそれでも良いのですが、あなたは人間ですか?」

「ええ。そうだと思います」エルフの質問に対し、マーシャルは答えた。

「確認ですが…ご家族もみんな人間でしょうか?」

「ええ。隠されてるわけでないなら、人間で合ってると思います」

「ええ、そうですよね」とエルフは答えた。「ここに、外から来られたんなら人間に決まってますよね。随分前にも外から来た方が居ましたが、その方も人間でした。やっぱり、あなたは…」そこまで言うとエルフは口をつぐんだ。何か言わなくてはならないが、それを躊躇っているようだった。「すみません、会ったばかりで名乗りもせずに」とエルフは続けた。「私はエルフェルという者です。水晶で占い師をしているエルフです」

「エルフ!お会い出来て嬉しいです。僕はマーシャルと言います」

「マーシャルさんは、どこからロイ=ウェルの扉まで来たのですか?」

「ロイ=ウェルって?」マーシャルは尋ねた。

「この国の名前です。僕たちが今いる場所、つまりこの扉から東に見えるあの塔までがロイ=ウェルの領土です。この国は、たまに外の世界と繋がるのです。マーシャルさんはどこを通って来たのですか?」

「僕は…空き部屋にあった扉付きの本棚を通って来ました。扉をあけたら暗闇が広がっていました」とマーシャルは思い出しながら答えた。

「はぁ」とエルフェルさんは物悲しそうにため息をついた。「あける、という行為がロイ=ウェルへと繋がる行為なんです。ロイ=ウェルは意思のある国で、来て欲しいと思った外の世界の方を、こちらに来れるように何かあけられる物を通して導くのです。何が繋がるものかはその時々で変わるのですが…しかし、よく来ようと思いましたね。危険だと思わなかったんですか?」

「すみません、なんだかワクワクして…」マーシャルはどもりながら答えた。エルフェルさんの言葉が、まるでマーシャルが来たことを責めているように聞こえたからだ。「暗闇で怖くないことは無かったんですけど…人間が来るのはご迷惑でしたか?」

「いいえ!迷惑なんて失礼なことを思いませんよ。暗闇が魅力的だという気持ちも分かります。もっとも、ずっと暗闇の中で過ごすのは良い気持ちにはなりませんが。ロイ=ウェルはずっと暗闇なんですよ、たぶん永久にね。こんな暗い中でいつまでも立ち話もなんですね。人間のマーシャルさん、うちに来てご一緒にお茶しませんか?」

「ありがとうございます、エルフェルさん」ほっとしたマーシャルは答えた。「でも、悪いですよ」

「我が家はすぐ近くなんです。実は昨日、美味しいチョコレートのお菓子をたくさんこさえたばかりなんで、一緒に食べてくれる誰かを探してたんですよ。向こうの世界の話も聞きたいです」

「ご親切にありがとうございます。僕がうまく教えられるか分かりませんが。僕も色々聞いても良いですか?」

「もちろんですよ。さあ、マーシャルさん。私の手を取ってください」とエルフェルさんは言った。「この暗闇の中、ランプ無しで一人で歩くのは危ないですからね。手を繋いで一緒に行きましょう」

 そうして、マーシャルは初めて出会ったエルフと一緒に、まるで長年の親友かのように色々と話しながら暗闇の中を歩いていった。

 それほど経たないうちに、でこぼこだらけの道になり、短い坂を上がったり下がったりするようになった。小さな丘を超えた先に、エルフェルさんの家はあった。岩で出来た、大きな家だった。

 中に入ると、部屋の真ん中にある暖炉の暖かさと眩しさがマーシャルを歓迎した。エルフェルさんは暖炉前に椅子を運んで、マーシャルに座って暖まるよう促し、手に持っていたランプを天井にかけた後にお茶の準備を始めた。

 こんなに素敵なお家に来られたなんて嬉しいなと、マーシャルは明るくなった部屋を見ながら考えた。エルフェルさんの家はよく乾いた清潔な家で、床には絨毯が引かれ、台所が広かった。台所とダイニングが繋がっていて、ダイニングにはテーブルと椅子二脚、それから占いに使う品物が入った棚があった。部屋の一角に扉があり、そこはおそらく寝室だろうなとマーシャルは推理した。

「どうぞ!マーシャルさん」とエルフェルさんが声をかけた。

 ダイニングのテーブルには、実に見事なお茶の用意がしてあった。昨日作ったというチョコレートのカップケーキが山積みになったお皿、焼きたてのこんがりとしたトーストが何枚も入れてある籠、トースト用の発酵バターとハチミツ、バジルバター、リエット、苺のジャムがテーブルいっぱいに置かれていた。

 マーシャルは、それらを食べながら、エルフェルさんの話を聞いた。エルフェルさんはロイ=ウェルの住人や暮らしについての素敵な話を聞かせてくれた。森の小さな緑の小鬼はお茶目で、苔に化けて驚かせてくることがあったこと。人目みたら幸せになれるという伝説の真っ白な鹿を探すためにみんなで森に行って何日も探索したこと。地下鉱脈に住む、宝石の体を持つ生き物たちと一緒に宴会をしたこと。明るい日差しの中で、光の精霊が水の精霊と一緒になって、光る水の美しいショーを見せてくれたこと。

「でも、今ではずっとこの国は暗闇なんです」とエルフェルさんは暗い声で言った。そして気を取り直すように、占いで使用する棚からカードを持って来て、テーブルの上に並べ始め、マーシャルのことを占いはじめた。占いに夢中になったマーシャルがはっと我に帰ったところ、暖炉の火は随分と小さくなっており、随分長い時間が経ってしまったようだった。

「ああ、エルフェルさん。占い中にすみません。本当はもっと見てほしかったんですが、もう帰らないといけません」

「帰れると思ってるんですか?」エルフェルさんはカードを並べながら、とても悲しそうに俯きながら言った。

「え?」マーシャルは驚いた。「どういう意味ですか?あっ。ロイ=ウェルは来て欲しい人を呼ぶために向こうとこちらを繋ぐって言ってましたね。もしかして、ロイ=ウェルが帰って欲しいとなるまで帰れないんですか?」聞いた次の瞬間、マーシャルは叫んだ。「エルフェルさん、どうしたんですか!」というのも、エルフェルさんの目に涙が溢れ出して、それが頬を伝って垂れ、テーブルが濡れ始めたからだった。涙は止まらず、ついにはエルフェルさんは両手で顔を覆って、声を漏らしながら泣き始めた。

「エルフェルさん!どうして泣いてるの?僕になにかできるなら教えてください。なんでもやりますから」それを聞いたエルフェルさんは、叫び声をあげて、さらに泣き出してしまった。マーシャルはエルフェルさんの隣に移動して持っていたハンカチを渡そうとしたが、エルフェルさんは首を振って受け取らなかった。せめて落ち着くようにと、マーシャルはエルフェルさんの背中をさすった。

「エルフェルさん。話せるようになってからでいいので泣いてるわけを教えてください。僕、気に触るようなことを言ってしまいましたか?」

「あなたは何も悪くないんです!」とエルフェルさんは泣きながら叫んだ。「そんな子が、ロイ=ウェルに呼ばれたから、これからひどい目にあうんです。だから泣いてるんです」

「そんなに思ってもらえて嬉しいです。」とマーシャルは答えた。「ひどい目にあうのは嫌ですけど。でも、ロイ=ウェルが僕を選んでくれて嬉しくもあります。こんな親切なエルフに会えたんですもの」

「私は親切なんかじゃないんです。エルフの中において、私や、私の一族ほど罪深いエルフは居ないんです」

「罪って?」マーシャルは尋ねた。

「私が今していることです。私は、名前のない女王に仕えているんです」

「名前のない女王?この国の女王ですか?」

「はい。この国を支配してしまった女王です。この国を光がささない暗闇にしてしまったのも女王です。彼女がいる限り、この世界はずっと暗闇なんです。想像してみてください!」

「ひどい話だ!」とマーシャルは答えた。「そんな女王に、エルフェルさんは何をさせられてるんです?」

「ほんとうは、しなくても良いことなんです」と、エルフェルさんは呻くように言った。「私の正体は人殺しなんです。ロイ=ウェルに導かれて来た人間を見つけ次第、私は親切なエルフを装って、家に招待して、すっかり安心させてから殺すんです。そんなことを私がしそうに見えますか?」

「見えません」とマーシャルは言った。「あなたは、そんなこと出来ないと思います」

「でも、才能はあるんです。私の両親は、以前外から来た人間の子どもを殺してます。やり方を、私は両親から習ったんです」

「そうだとしても」とマーシャルは慎重に言葉を紡いだ。本当は言いたいことが沢山あったが、きつい言葉を苦しんでいるエルフェルさんに言いたくなかった。

「しないことを選ぶことは出来ます。あなたは後悔してて、もう二度としたくなくて苦しいんでしょう?」

「マーシャルさん」とエルフェルさんは言った。「私はまだ誰も殺してはないんです。今から私が殺さなきゃいけないのは、あなたなんです」

「え?」マーシャルの顔は真っ青になった。

「あなたが、私の最初のターゲットなんです」とマーシャルさんは言った。「名前のない女王から命令が来たんですよ。水晶で扉が開かれないか観察し、もし人間が来たら捕まえて殺すようにと。そして、あなたが私が両親の後を継いでから初めて来た人間なんです。だから私は友達のようなフリをしてあなたを家に誘ったんです」

「でも、あなたはそんなことしませんよ」とマーシャルは言った。「あなたも、そんなことしなくないんでしょう?そうじゃなかったら、僕を思って泣いたり、正体を話したりするわけない。あなたは優しいんです。そんなことしたら、ずっとあなたは苦しみます」

「もし、殺さなかったら」と言うと、エルフェルさんはまた泣き始めた。「必ず女王に見つかってしまいます。そうしたら、私は耳を切られて、指をノコギリで切り落とされ、喉に穴を開けられるでしょう。私は不老不死なので、死ぬことはない。ただ、死ねないから楽になることも出来ず、あらゆる苦痛を与え続けられる。ロイ=ウェルが選んだ5人の人間が揃い、女王が倒されるまでね。ただ、もう揃うことは無いんです。私の両親がもう選ばれた一人を殺してるんですから。なのに、女王は人間を怖がり続けてる…」

「エルフェルさん、お願いです」とマーシャルは言った。「僕を見逃してくれませんか?僕はロイ=ウェルに選ばれて、ここに来られた。意味がないのに導くことは無いと思うんです。もしかしたら、あなたがこだわってる5人じゃなくても人間なら出来ることがあるのかもしれない。女王のところに行って、力を試してみます」

「とんでもない!」とエルフェルさんは言った。「いいですか、悪の支配が終わるには5人揃わなければならない。この国に伝わる言い伝えの一つです。それほど女王は強いということです。そんなやつに1人で立ち向かっても意味なんてありません。ようやく、私がすべきことが、わかりました。私はあなたを殺せない。こうしてあなたを知り、好きになってしまいましたから。さぁ、あなたの世界に帰りましょう。私が扉までお送りします。もう叶わない言い伝えのために、好きな子を犠牲になんて出来ません。もし、帰したのがバレても、好きな子を守ったことを誇りに、どんな仕打ちにだって耐えられますよ。さぁ、出ましょう」

「ありがとう、エルフェルさん」とマーシャルは言った。

「いいえ。出来るだけ静かに行きましょう」とエルフェルさんは言った。「暗闇に紛れて女王のスパイがあちこちにいるんです。ランプも消して行きましょう。光は目立ちます」

 二人は、お茶の片付けもしないまま、家を出た。エルフェルさんはマーシャルの手を取り、二人は暗闇の中に出て行った。暗闇の中を、二人は息を潜めて出来るだけ早くこそこそ歩き、一言も話さなかった。そうして再び扉の前まで来ると、マーシャルはほっと息を吐いた。「ここから先は道を通って帰れます」とエルフェルさんは扉を開けて言った。

「さぁ、お別れです。急いでお帰りなさい。また来て、ロイ=ウェルのために無茶をしてはいけませんよ。もう言い伝えは終わったんです。私のことは気にしないで。なんとかあなたのことを誤魔化してみせますし、仮に捕まって辛い目にあっても、大好きなあなたが死ぬよりは決して辛くないんですから」

「ありがとう、エルフェルさん」

「私がしようとしたことを許してくれますか?」

「もちろんです」マーシャルはエルフェルさんに抱きついて言った。「もし、またこの世界に来られたら、エルフェルさんの家に行きます。無事か確かめに」

「ありがとう。ただ、会ったら直ぐに帰るんですよ。居なくても気にしないこと!さようなら、マーシャルさん」

「さようなら!」マーシャルはそう言うと、扉の中に入り、入り口を目指して全速力で走りました。するとやがて、ロイ=ウェルの扉とは違う扉にたどり着いた。その扉を開けると、マーシャルは本棚から飛び出して、冒険が始まる前にいた空き部屋に戻った。マーシャルは息を整えてから、すぐに本棚の扉を閉め、あたりを見渡した。窓の外はまだ雨が降っていて、廊下からは三姉妹の声がしていた。

「エリー、マリー、リリー!」とマーシャルは叫んだ。「僕はここだよ!戻ってきたんだ!」

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