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第十八章 ずっと待っていた

ロイ=ウェルの第十八章です。

ラススヴェートの死を目にしたマーシャルとエリーは絶望。しかも、見たこともない謎の子供が現れて…。

物語完結まで、あと残すは2話です!お楽しみ頂ければ幸いです☆

 マーシャルとエリーが両手で顔を覆っていると、名前のない女王の甲高い声が空き地に響いた。

「さぁ、皆の者!残りの連中を片付けにいくぞ。この情に流されて戦況を読めなかった間抜けが死んだことで、仕事はやりやすくなったはずだ。鏖殺だ、ロイ=ウェルは永遠に我々のものだ!行け!」

 名前のない女王の号令を聞き、化け物達は一斉に丘を下り始めた。その際、大変危険なことに、マーシャルやエリーがいる茂みの真横を通っていった。二人は、化け物達の冷気や、血に飢えた者特有の呼吸と息を感じた。真上には空を飛ぶ者が飛行しており、その羽ばたきの音は離れていても聞こえた。

 化け物達が真横や真上を通ったにも関わらず、二人は何もそのことについて感じなかった。今、目の前でラススヴェートが死んだことに対する悲しみや悔しさが、完全に恐怖を凌駕していた。

 喧騒がなくなり、再び辺りが静まりかえると、マーシャルとエリーは茂みから飛び出して丘の上へ駆けて行った。今ではもう月が低く、暗くなっていたが、胸を刺されて死んだ絶対王の姿が見えた。マーシャルとエリーは王の近くに跪き、その冷たく、ぐちゃぐちゃになった顔にキスをし、身体をーまるで温めて彼を生き返らせるようにー撫でながら、涙が枯れるまで泣いた。そして二人で顔を見合わせ、互いに手を取り合い、悲しさからまた泣いた。そうして、やがて二人は泣き疲れて何も言えなくなり、辺りはしんと静まり返った。しばらくして、マーシャルが口を開いた。

「ねぇ、名前のない女王が刺した剣を抜かない?ラススヴェートの身体に、あいつの者がずっと触れてるなんて、耐えられないよ」

 二人はやってみた。指がかじかみ、重みもあった為、上手く動かせず時間がかかったが、なんとか二人は抜くことが出来た。抜いた剣は目が届かない所に捨てた。剣を抜いたラススヴェートを見ると二人はまた急に泣き始めた。泣き続ける二人の頭には、自分達の声でずっと同じ言葉が響いていた。これは夢じゃない、現実なんだとー。それは動かない事実で、やがてまた本当に泣き尽くした二人は、それに絶望しながら、ほんとうの静寂に包まれていた。

 静寂の中で、何時間も時間が過ぎたような気がした。二人は、自分の体が冷えていくことに何の気を止めなかった。だが、しばらくしてマーシャルは少し空が明るくなっていることに気がついた。夜が明け始めたのである。太陽の光はラススヴェートを包み込み、ラススヴェートの金色の髪は、美しく輝いていた。明るくになるにつれて、ラススヴェートの死に顔はますます気高さを増していった。

「…綺麗だね」と、マーシャルが言った。「もう朝になった。あいつらはきっと、今日決着をつけに来るよ。ラススヴェートがいない僕らなら、自分が負ける訳ないと思ってね」マーシャルは、持っていたハンカチで、出来る限りラススヴェートの血を拭き取った。そして、手で空き地の地面を掘り始めた。エリーはそれをしばらく見ていたが、やがてそれを手伝い始めた。二人はラススヴェートの墓を作ろうと、一心不乱に穴を掘り続けて、大きな穴を掘った。やがて、鳥が鳴き声が聞こえ出し、それに呼応した鳥が返事をするように鳴き始めた。あちこちから鳥の囀りが聞こえ、とうとうロイ=ウェルは朝を迎えた。

 二人は、穴から離れて丘の端まで歩き、眼下に広がる景色を見た。月や星は消えていた。ロイ=ウェル全体が朝靄に包まれていたが、その先にはラススヴェートが渡ってきた海が朧げに見えた。空が赤くなり始めており、マーシャルとエリーは、ラススヴェートが死んでも朝は来るのかと思いながら、太陽を眺めていた。海を眺めていると、海と空が溶け合う地平線に沿って赤が金色に変わり、太陽がゆっくりと姿を現した。

 ちょうどその時、背後から大きな音が聞こえたーまるで巨大生物の巨大な卵が割れたような、何かが生まれたように思える音だった。

「何の音?」マーシャルはエリーの腕を掴んで言った。「私…怖くて振り向けないわ」とエリーが言った。「大好きな王様が死んだ上に、また何か恐ろしいことが起きているんだわ」

「あいつらが、ラススヴェートにまた何かしているのかもしれない」とマーシャルが言った。「なら、守らないと!」そしてエリーを引っ張り、二人は一緒に振り返った。

 昇る太陽に照らされ、何もかもが違っているように見えた。あらゆる光と影の変化があったが、2人はすぐにもっと重要な変化に気がついたーラススヴェートの体が粉々になっており、その近くに見たこともない黒髪の子どもが、二人に背を向けて立っていたのである。

「ああ、なんてことをするんだ!」子ども達は叫びながら、ラススヴェートの元に駆け寄った。「ひどいよ!」とマーシャルが泣いて言った。「亡骸まで傷つけることないだろう!」

「あなた、私達を殺す為に残った化け物でしょう!」

と、エリーが剣を男に向けて言った。「いいわ、来なさい。死んだってラススヴェートに会えるなら怖くないわ」

「だーれが化け物だって?」背を向けた子どもはそう言ってゆっくりと振り向いた。その顔は、完璧に形作られ、非常に美しく、幼さはあるものの、雄々しいものだった。海のように青い目は、深淵をのぞいて来た濃さをしていた。二人は、その顔を、目を、声を知っていた。あぁ…!あぁ…彼は!

「ラススヴェート!」子ども達は叫び声をあげてラススヴェートを見上げたが、喜びと同時に恐ろしさを感じていた。「ラススヴェート、あなたは子どもになっただけで、亡くなったんじゃないんですね?」とマーシャルが尋ねた。

「いや、ラススヴェートは死んだよ?」と、ラススヴェートは言った。「じゃあなたは…もしかして…?」とエリーは震える声で尋ねた。幽霊という言葉を口に出す勇気がエリーには無かったのだ。ラススヴェートは二人の頭に手をやり、ゆっくりと撫でた。

「安心して、死人だとか幽霊って訳でもないよ」とラススヴェートは言った。前までの話し方と異なり、砕けた幼いような話し方だった。

「ああ、ラススヴェートなんですね!よかった、本当によかった!」マーシャルが叫ぶと、エリーもラススヴェートに飛びついて、たくさんのキスをした。

 少し落ち着きを取り戻した二人は、「それにしても、これは一体どういうことなんです?」とラススヴェートに尋ねた。

「連続した死と復活だよ。僕の本当の名前は、エルキヴァード。オルガノンノさんの遺言に従って、ロイ=ウェルが名前のない女王を倒す為に選んだ、最初の子さ。警戒していた名前のない女王の命令で、僕は一度殺された。けれど、死ぬより前にロイ=ウェルと契約したんだ。ロイ=ウェルは僕の命を救う代わりに、僕を人間を超えた絶対的な伝説にする。時が来て、残りの人間が揃った時に、名前のない女王が恐れる伝説はもう全て無くなったと、完璧に油断するように派手にまた死ぬ。二回目の死を迎えた時に、人間として蘇り、今度は人間として四人と戦うようにってね。僕がエルフに殺されたのも、人間が死んだと思わせて油断させる為の罠としてロイ=ウェルは利用したんだよ」

「それじゃぁ…!」と、マーシャル達は叫んだ。ラススヴェート、いや、エルキヴァードは微笑んで言った。「ああ、僕達は負けてない。伝説は終わってなんかないのさ!」

 三人は、飛び跳ねて喜んだ。人間は、五人揃っている。勝つための条件がやっと揃ったのである。三人は歓声を上げて踊り回った。そして、エルキヴァードは言った。「さぁ、決着をつけにいこう!目指すは、名前のない女王のいる所だ!」

 そう言うエルキヴァードに対して、マーシャルは言った。「待ってよ、エルキヴァード。先にスーやマリー達と合流しようよ。名前のない女王達の行方もまだ分からないし…」それを聞いたエルキヴァードは、言った。「場所なら、ロイ=ウェルからもう聞いた。名前のない女王は、リュフナで戦うつもりだ。急いでリュフナに戻ろう。はは、分かったよ、ロイ=ウェル。もう、ロイ=ウェルも待ちきれないみたいだ。二人とも、僕と手を繋いで」そう言われた二人は、エルキヴァードと手を繋いだ。しっかりと二人の手を握ったエルキヴァードは、「僕の合図に合わせて、ぼくと一緒にジャンプして?」と言い、3から数を刻み始めた。やがてゼロを迎え、三人は思い切り高くジャンプした。すると、風が三人を包み込んだ。

 それは、マーシャルとエリーがロイ=ウェルに来てから体験したことの中でも、とりわけ最高な体験だったかもしれない。マーシャルとエリーは、風に乗り、風と一体となって空を飛んだのだ。何かを誘導したり、運転したりする必要もなく、疲れもしない。少し冷たさを感じるものの、宙に浮いた体が風に合わせて上下したりするのは、愉快でたまらなかった。しかも飛んでいるのはただの空ではなく、光を取り戻したロイ=ウェルの空。妖精や精霊が飛び交い、彼らの羽から落ちたフェアリーパウダーが光を反射して、キラキラと空を輝かせた。三人を乗せた風は丘を下っていき、

 やがて三人はリュフナの浅瀬の近くまでやって来た。すると、すでに戦いの火蓋が切られ、剣の音や弓の音などが空まで聞こえてきた。やがて、三人は戦場の真上に到着した。戦場では、マリーとリリー、スー達が懸命に戦っていた。「絶対に勝つぞ!」と、エルキヴァードは言った。それにマーシャルとエリーは雄叫びで返した。風は無くなり、三人は戦場に舞い落ちた。さぁ、決着をつけようか。


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