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第十五章 血の剣

ロイ=ウェルの第十五章です。

マーシャル達は、ついにラススヴェートと出会います。

ラススヴェートとの出会いによって、また物語は加速していきます!お楽しみ頂ければ幸いです☆

 名前のない女王の城で行われていることを知らず、何キロも先では、スーとマーシャル達が素敵な夢の中を歩いているような気分で何時間も歩き続けていた。暗闇がなく、光に照らされたロイ=ウェルは、マーシャル達の世界とは異なる自然や生き物がある、非常に美しくて楽しい場所だった。歩きながらスーは、「この世界の花は話せるんですよ」とか「あの音色を立てているのは牧神のパンです」とか「木の実は中にお酒が入っていて宴会に使ったりします」などと、マーシャル達に教えてくれた。

 まわりの風景に見惚れながら、マーシャル達はスーに続いて歩き続け、暖かい日当たりの場所を抜けて涼しい茂みへと入り、また苔が生えた広い場所や、シロツメクサが咲き誇った草原の中を進んだ。

 この数時間で暗闇が晴れ、ロイ=ウェルに光が戻ったのを目の当たりにしたマーシャル達の気持ちは非常に晴れやかだった。これが、ラススヴェートがロイ=ウェルに来たことによっての変化だということは明白だった。終わりのない暗闇をもたらした名前のない女王の力は、ラススヴェートには敵わない。きっと、ロイ=ウェルの変化に気づいた名前のない女王も、それを自覚し、きっと敗北を認めるだろう。

 光が戻り、ラススヴェートが近くにいるのが分かってからは、一同はそこまで急ぐことはなく、休憩を挟みながら進んだ。暗闇に紛れていない敵などは見つけやすため前よりは用心する必要もなく、もし何かあってもラススヴェートの加護があるからである。なにより、疲れが溜まっているのも大きかった。一同は、数時間も歩いているのだ。

 もう太陽は低くなり、光は赤みを増して影が濃くなるような時間になった。「もうすぐラススヴェートに会えそうですよ」とスーは言うと、一同を率いて苔に覆われた険しい丘を登った。マーシャル達は、やっとラススヴェートと会えるのだと嬉しく思いながら、後に続いた。疲れはあったが、もう直ぐラススヴェートに会えると思うと、不思議と力が湧き、一同は元気よく丘を登り切って頂上に着いた。

 頂上は、緑に溢れた広い空き地で、どの方向を見下ろしても森が広がっていた。ただし、正面だけは異なり、はるか先にキラキラと光っているものが見えた。

「なんてことでしょう」と、エリーは囁いた。「ラススヴェートは海を超えて来てくれたのね」

 丘の上には、小さなテントが何個も張られていた。どれもが立派なテントで、側面はシルクで、ロープを止める杭は美しい象牙で出来ていた。それぞれのテントの中にはロイ=ウェルの住人達がいて、武器の確認や食事の用意をしていた。テントの上には点高くポールが立ち、そこには太陽が昇る絵が描かれた旗がつけられ、それが風によって美しく靡かれていた。旗は夜明けーラススヴェートの名前の意味であるーを示していた。テントの先には石で作られた祭壇があり、目を向けてみると、はるばるここまで会いにやってきた目的の姿があった。ロイ=ウェルの住人達のもてなしを受けている、ラススヴェートがそこにいたのだ。

 ラススヴェートは、この世界の住人達の誰とも似ていなかった。造形だけを見れば、彼は人間のような姿をしていた。だが、人間だとはスーやマーシャル達は少しも思わなかった。誰がラススヴェートをお造りになったのかは分からないが、ラススヴェートを見たスーやマーシャル達は、その者がラススヴェートを「完璧に形作った」と感じた。彼は非常に美しく、雄々しかった。肌は美しい陶器のようで、髪は糖蜜を思わせる金色だった。海のように青い目をしており、その青は全てのものを国の果てまで見通し、深淵をのぞいて来た濃さをしていた。

 ようやくラススヴェートの姿が見られたのに、スーもマーシャル達も、どうしたらいいか、何を話せば良いか分からなかった。ラススヴェートは、善良であり、かつ恐ろしくもあった。とても自分達は彼の前に行けない、彼の目に触れたくないと、マーシャル達は震え慄いた。

「さぁ、ラススヴェートの元へ」とスーが促すと、マリーは「いえ、スーさんが間に入って私達を紹介してください」と頼んだ。それに対してスーは「いえいえ。私よりロイ=ウェルに選ばれたあなた達が行くべきです」と返した。それを聞いたマリーはマーシャルに「あなた行ったらどう?うちの跡継ぎだし」と言った。それを聞いたマーシャルは、「いやいや、ここはレディファーストで行こう。エリー、君行っておいでよ、僕ら姉弟で1番の年長者だしさ」と言った。 

 こうして、中々決まらずに時間だけが過ぎて行った。そして時間が経つにつれて、段々と気まずくなっていった。とうとう、マーシャルがここは自分が行こうと腹を括った。マーシャルは一同の先頭に立って進み、ラススヴェートの前で立ち止まり、お辞儀をしてこう言った。

「お初にお目にかかります、ラススヴェート」

「よく来たな、マーシャル」とラススヴェートは言った。「よく来たな、エリーにマリー。それにギリー・ドゥのスーも」

 ラススヴェートの落ち着いた声を聞くと、みんなのソワソワとした気持ちも落ち着いてきた。そして嬉しさや穏やかな気持ちで満たされていき、ラススヴェートの前で話したり、立っていたりするのが平気になった。

「四人目はどこへ?」とラススヴェートは尋ねた。

「ああ、ラススヴェート。リリーは、名前のない女王の元へ向かったのです。彼女は女王の味方なんですよ」と、スーは言った。それを聞いたエリーは、重わずこう口走った。「でも、それは私が悪いんです、ラススヴェート。私はリリーに、あんたは名前のない女王のように悪党だと言ってしまいました。その時、あの子は泣き出して…きっとあの子は本当は苦しんでるんです。なのに私は何も聞かずに責めて…あの子が帰れる場所であるべきなのに拒絶してしまったんです」

 それを聞いたラススヴェートは、エリーを慰めたり責めることもせずに、ただエリーを見つめ続けた。みんな、もうこれ以上言わなくても、ラススヴェートは全てを分かっているのだと感じた。

「お願いです、ラススヴェート」とマーシャルが言った。「どうにかして、リリーを救えないでしょうか?」

「分かった、私が必ず救おう」と、ラススヴェートは言った。「どんな犠牲を払おうともな」そしてまた黙り込んでしまった。ラススヴェートの返事に、エリーとマリーは喜んだが、マーシャルは違った。間近でラススヴェートの顔を見ていたマーシャルは、高貴で強そうで落ち着いたラススヴェートの表情に、悲しみが浮かんだのを見たからだ。どうして、そんな顔を…?しかし、そんな表情はすぐにラススヴェートから消えた。ラススヴェートは、マーシャル達三人に対し、こう言った。

「お前達の血が、名前のない女王の弱点なのは知っているか?」

 それを聞いたマーシャル達は頷いた。それを見たラススヴェートは続けて言った。「そうか、ならば話が早いな。お前達、血を私によこしなさい」

 それを聞いたスーは、驚いて叫んだ。「ラススヴェート!ロイ=ウェルの歴史をご存知でしょう?我々はこれ以上、我々のことに人間を巻き込む訳にはいきません。あなたならば、名前のない女王などすぐに倒せるでしょう。この子達を我々は守り抜き、無事に人間界に帰すべきです!」

「だからだ、ギリー・ドゥのスーよ」厳かに、ラススヴェートは言った。「絶対に私よりも強い力が無いと、お前は言い切れるか?無論、私は全力でこの子達を守るつもりだが、用心に越したことはない。この子達に名前のない女王を倒せる血が流れているなら、身を守る為にそれを利用しない手はないだろう」

 そう言うと、ラススヴェートはマーシャル達三人に、横に並ぶよう言った。三人が横並びになると、ラススヴェートは祭壇から降り。まずマーシャルと握手した。すると、二人の繋いだ手が光り輝きだし、マーシャルの腕に流れていた血が、手を通じてラススヴェートの手のひらに移った。すると、ラススヴェートはマーシャルの手を離し、手のひらを上に向けて呪文を呟いた。すると、マーシャルの血がラススヴェートの手のひらから浮き出て、空中で剣の形となった。血で出来たそれはやがて固まって重くなり、空中から落ちた。それをラススヴェートは掴み、マーシャルに渡した。

「さぁ、お前の血で出来た剣だ。名前のない女王はもちろん、名前のない女王の味方の生き物達も、これで倒せる。そいつらは名前のない女王が、自分の身体を元にして作り出した生き物だからな。これで戦えば、お前達は無敵だ。この剣の鞘はお前達の身体だから、いざって時までは身体に入れておくといい。さぁ、エリーとマリーのも作ってやろうな」

 ラススヴェートは、エリーとマリーの剣も続けて作成した。三人はラススヴェートにお礼を言った。それに対してラススヴェートは微笑み、剣の入れ方を教えようとした。

 しかし、それは出来なかった。なぜなら丘の上の空き地に、敵の気配が満ちたからだ。マーシャル達三人は何が起きたのかを理解出来なかった。しかし、ラススヴェートやスー、テントのロイ=ウェルの住民達は、全員戦闘体制を取った。

 敵が姿を現した。それは、ミギが率いる狼の群れだった。狼達は今にも飛びかかろうという体制で、舌舐めずりをし、背中の毛を真っ直ぐに逆撫でていた。狼達は、ミギが命令を下すのを今か今かと待っていた。ミギは人間がラススヴェートと合流したことに気づいていたが、逃げようとはしなかった。数ではこちらが上だし、純粋にラススヴェートと戦って、その力を見たいという気持ちがあったからだ。やがて、ミギは命令を下した。「女王陛下の敵どもだ、全員殺れ!」

 戦いが始まった。ロイ=ウェルの住民達は、襲いかかってきた狼達に立ち向かった。狼達は、するどい牙や爪で住民達を殺そうとしたが、それは無理だった。ラススヴェートの加護により、それらは全て無意味な代物となった。ラススヴェートの加護を受けながら、住民達は狼達を駆逐していった。

 突然始まった戦いに、マーシャル達は動けなかった。ラススヴェートのそばにいるようスーに言われたマーシャル達は、ラススヴェートの近くで戦況を見守っていた。スーは、マーシャル達をラススヴェートに任せ、援護として弓を放ち、狼達を燃やしていった。

 マーシャル達は、勇気を振り絞ることが出来なかった。今、この戦場において一番強いのは自分達だと、マーシャル達は分かっていた。狼達が名前のない女王の味方ならば、自分達が剣を振るえば、すぐに倒せるだろう。ロイ=ウェルの住人達は、ラススヴェートに守られて倒されてはいないが、まだ狼達を倒しきり、勝ったわけではなかった。名前のない女王に勝つためには、ここで絶対に勝たなくてはならないのに。

 そう思い至ったマーシャルは、まず動きだした。戦わなくては勝てない、そう判断したからだ。マーシャルは、ラススヴェートを倒そうと襲いかかってきたミギに突進し、脇腹を突き刺した。しかし、それはトドメにはならなかった。刺された箇所からミギの身体は朽ちたが、ミギは稲妻のような速さで体の向きを変え、逆にマーシャルを襲おうとした。目は燃えさかり、怒りに満ちた唸り声を上げた後に、口を開いてマーシャルの頭を噛み砕こうとした。

 すると、今度はエリーとマリーがミギに突進した。弟を守るため、二人は無我夢中でミギを刺し、切り付けた。その隙にマーシャルは突き刺さった剣を抜き、また違う箇所を突き刺した。三人の猛攻により、ミギは全身が朽ちていき、とうとう全身が朽ちて消えた。

それを確認した三人は、別の狼達の元へ突進した。

 しばらくすると、空き地には狼達が居なくなっていた。全ての狼を、三人は倒したのだ。最後の一匹が片付くと、三人は顔を見合わせた途端に体が震えて止まらなくなった。互いに手を伸ばし合うと、三人は抱き合ってキスをした。

「よくやったな、ロイ=ウェルに選ばれし子供達よ」と、ラススヴェートが言った。彼は加護により、一人の犠牲も出さなかった。「お前達は戦わなくても良かったのに…ちょうど私も戦おうとしていたのだし」

「いいえ、ラススヴェート。…選ばれた僕達は戦わねばなりません。僕達には、勝つ為の力があります。僕達は、勝ってリリーを取り戻したい。ーそれに、オルガノンノさんや、最初に選ばれた、名前も分からない子の無念を晴らしてあげたい。彼らと同じ人間として、僕達は女王に勝ちたいんです」マーシャルはそう言い、エリーとマリーも頷いた。

「…ありがとう」と、ラススヴェートは言い、それから小さく呟いた。「…エルキヴァードというんだよ」 しかし、その呟きは誰にも聞こえなかった。それで良いとラススヴェートも思った。ごめん、まだそれを言う時じゃなかったね…。苦笑して自分を叱った後に、ラススヴェートはマーシャル達や、ロイ=ウェルの住民達に言った。「我々の初勝利だ!我らならば、名前のない女王を倒せるぞ!」

 高らかな絶対王の声に、一同は雄叫びをあげた。誰しもが勝利を確信していた。すると、どこからか女の高笑いが聞こえた。

「ハハハハハ!何も知らない奴らが粋がっておるわ。これから絶望が始まるとも知らずにな!」

 

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