第十二章 リリスの子と、遺言の話
ロイ=ウェルの第十二章です。
ロイ=ウェルでの悲しい過去が明かされます。
お楽しみ頂ければ幸いです☆
「ロイ=ウェルは、どれくらいの間、名前のない女王に支配されているのですか?」と、エリーは尋ねた。「今日まで、ほとんどずっとです。元々、この国に王制はありませんでした。それぞれの種族が、自分達以外の種族のことも尊重しながら暮らしていたんです。それが、ロイ=ウェルの願い、意思でもありましたからね。私達はロイ=ウェルを愛しているので、その意思に報いてきました。名前のない女王が現れるまで、この国はありがたいことに、平和そのものでしたよ」
スーは懐かしむように言い、横に座っていたサーはかつての平和を思い、涙を流した。「なら、どうして、名前のない女王はロイ=ウェルを支配できたんです?」次はマリーが尋ねた。「まさかロイ=ウェルが、そのことを望んだのですか?」
「いいえ!ああ、忌々しい話なんです!」スーは怒りを漲らせながら話した。「みなさんは…この国の言い伝えはご存知ですね?五人のロイ=ウェルに選ばれた人間が、ロイ=ウェルに揃った時に悪の支配ー名前のない女王の支配は終わる。なぜ人間が必要なんだと思いますか?」スーは三人に質問した。
思えば、確かに不思議な話だった。自分達人間は、オークやスーなど、この世界の生き物に比べ遥かにひ弱である。何か特殊な能力がある訳でもない。現に、何も出来ずに殺されそうにもなっている。普通に考えればそんな自分達よりも、この世界の生き物が協力した方が女王を倒し、悪の支配を終わらせられるだろう。けれど、ロイ=ウェルは人間を必要としている…。しばらく三人は頭を悩ませていたが、マリーが答えた。「…えっと。シンプルに考えて…女王を倒せるのは人間だけだからですか?」スーは、頷いた。「…そうです。この世界の者は、何度も女王を倒そうと戦いを挑みましたが、誰も敵いませんでした。やがて、犠牲者が増えるだけと…戦うことをやめて女王に従うようになったのです。けれど、我々はいつか女王を倒すため、何とか女王の弱みを握れないかと、長い間情報を探し続けました。そして…ある二つの事実を掴みました」スーは、三人を見つめて言った。「…名前のない女王は、あなた達と同じ人間だったんですー正確には少し違うのですが…。あなた達人間は、アダムとイブの血と肉と魂を受け継いでいます。名前のない女王は、アダムと、最初の妻であるリリスとの間の子で、アダムとリリスの血と肉と魂を受け継いでいるんです」
マーシャル達は驚いた。女王は、完全なるこの世界の生き物だと思っていたが、なんと半分とはいえ自分達と同族とは!「でも、アダムとリリスの子が、どうしてロイ=ウェルにいるんですか?」とエリーが聞いた。
それを聞いたサーは、忌々しげに叫んだ。「名前のない女王は、ロイ=ウェルを裏切ったんですよ…!アダムとリリスの子として生まれた女王は、アダムと別れたリリスに捨てられ、長い年月を、人間として一人で生きていました。そんな女王を見かねたロイ=ウェルが、助けようという思いから、この世界へ導いたんです。女王はかつて、あなた達の屋敷に住んでいたのですよ。そして、導かれた名前のない女王は、隠していた本性を現して、ロイ=ウェルを支配してしまった。リリスは悪霊の女で、その子である女王もまた、悪霊だったわけですよ」
マーシャル達は更に驚いた。自分達の屋敷に、かつて名前のない女王が居たなんて!そして、怒りも湧いた。自分を助けようとしてくれたロイ=ウェルや、そこに住む者達を支配するなんて!!しばらくエリーとマリーは怒りで声も出なかった。冷静さを取り戻したマーシャルは、質問した。「でも、それで何で人間が必要となるのですか…?女王が悪霊なら人間が倒すのは難しいんじゃ…?」
それを聞かれたスーは、悲しや悔しさや後悔が一緒くたになった、くしゃくしゃの顔面になった。サーは号泣し、何も話し出せないようだった。それを見たスーはサーを慰めつつ話し始めた。「…先程も言いましたが、女王はアダムとリリスの子です。それが分かった私達ロイ=ウェルの民は、それが弱みにならないかと考えました。そして、ある仮定に辿り着きました。あなた達の世界の神は、アダムとイブの子である人間達の方を、時には罰を与えつつも滅亡させることなく大事にし、守ってきている。それはアダムとリリスの子よりも人間が良い点を持つから、即ち女王は人間には勝てないのではないかと。…そして、試しに人間を戦わせてみようとなったのです」
辛そうに話し続けるスーを見て、マーシャル達は話を止めようとした。それを、スーは制した。「…話さなければならないのです。これは私達の永遠の罪なのですから。私達は、女王を戦わせるために人間を導くようロイ=ウェルに頼みました。もちろん、絶対に守るからと。嫌がっていましたが、ロイ=ウェルは受け入れて、あなた達の世界から人間を導きました。そうして導かれたのが、あなた達の屋敷に女王が居なくなってから新しくやって来た、オルガノンノという、20歳の優しい青年です。彼は私達の頼みを引き受けてくれました。彼は風変わりさ故に人間界では孤立し、私達が初めての友達だと言っていました。絶対なんとかするから、みんなは戦いの時出てこないで! と、笑った顔が今でも目に浮かびます。そうして、彼は私達の為に戦い、私達は守りきれず…彼は殺されてしまいました。私達が殺したも同然なのです…!そんな私達に、最期までオルガノンノは優しかった。私達に、女王を倒せる可能性を示してくれたのです」
「可能性…?」とマーシャルは聞いた。スーは頷いて続けた。「オルガノンノか殺された時に、飛び散った彼の血が、女王にかかったんです。すると、驚くべきことにかかった所が急速に朽ちていったのです!そのまま死ぬことはありませんでしたが、今でもその箇所は朽ちたままのはずです。人間の血は女王にとって致命的弱点だと分かったのです…その情報をもたらしてくれたオルガノンノは、最期にこう言って亡くなりました。『女王が死ぬには、きっと人間の大人1人分の血が必要なんだ。でも、それじゃあ次に呼ばれる子が死ぬこと確定で可哀想だね?そうだ、五人くらい人を選んで集めて、その人達から血を分けてもらったらどうかな?そしたら、誰も犠牲になることがなく、あいつを倒せるんじゃないかなぁ?いつか、みんな救われたら良いなぁ…』最期まで、私達やひいては未来の子のことを気にしていました。ロイ=ウェルの悪の時代が終わるのに五人が必要という言い伝えは、私達が代々まで言い伝えていくべき、私達の救えなかった友の遺言であり、悲願でもあるのです。ロイ=ウェルや私達はそれを胸に刻み、ロイ=ウェルは彼の悲願を果たす為に、オルガノンノの後に新しく屋敷に来た子を、また一人導きました。しかし、人間の血が自らの弱点だと知り、人間を敵視した女王による命令で、エルフェルの親がその子を先に捕まえて、殺してしまったんです…名前も知ることが出来ませんでした…私達は、また守れなかったのです。それ以来、導くことが怖くなったのかロイ=ウェルは誰も導かず、私達は支配されたまま、オルガノンノの遺言を言い伝えつつ、長い間生きていました。私達はそれを、二人を守れなかった罰として受け入れてきたのです」
マーシャル達三人の目からは、涙が溢れて止まらなかった。告白を終えたスーは、三人を見つめた。「私達を軽蔑するでしょう?」と、スーは言った。三人は必死に首を振った。オルガノンノや次に選ばれた子、ロイ=ウェル達の無念を思うと、胸が張り裂けそうだった。名前のない女王が居なければ、誰も苦しむことは無かったはずなのに!
「ね、私の血を取って!」と、マリーは叫んだ。エリーもマーシャルも「私も!」「僕も!」と続いた。それを聞いたスーは目を見開き、それから優しく微笑んで言った。「いいえ、私達はもう、私達のことで人間に何もー命でも血でもー犠牲にして欲しくありません。その血は、大事に取っておいてください」
「けど、それじゃオルガノンノさんの悲願が…!それに、ロイ=ウェルが僕ら四人姉弟を導いたんですよ?ロイ=ウェルはきっと、また勇気を出したんです。四人いれば…ちょっと今一人いないんですが…少し血の量を増やせば最悪三人でも何とか」と、マーシャルは言った。
「いいえ、ロイ=ウェルもきっと、私達と同じ気持ちです。それに、ロイ=ウェルがあなた達を導いたのは、多分、何かを考えてだったりではありませんよ。ロイ=ウェルは生き物のようなもので、意思を持ち、年だってとっているんです。一体いくつなのかは分かりませんがね。最近ではボケてもきてて、多分過去のことも忘れてるんです。だからきっと、あなた達を導いたのは単なる気まぐれですよ。…なぁに、大丈夫です。あなた達が血を流さなくとも、ラススヴェートが来るのですから!」
スーがラススヴェートの名を口にした途端、みんなから不安や悲しみなどが消え去った。万事うまくいく、そんな気がした。マーシャル達三人は、ラススヴェートのことを聞きたがった。
「ラススヴェートは、絶対王です。居場所を持てないという宿命があり、一つの国に留まることは出来ないのですが、訪ねた国に必ず幸福をもたらすのです。彼が近づいてくるだけで、その国や国にいる者は守られ、救われる。それ故に人々は彼の前に跪き、王と認めるより他ないのです」と、スーは答えた。
「ラススヴェートなら、名前のない女王に勝てるんですか?」と、マリーは尋ねた。それを聞いたサーは言った。「ラススヴェートを前にしたら、女王なんて、すぐに消し飛びますよ」
スーはそれに頷いて言った。「ロイ=ウェルの言い伝えで、ラススヴェートが来たらば全ての間違いや悪が正される、というのがあります。先ほど、あなた達は私が間に合うことで生き延びることが出来た。それは、あなた達が不当な理由で死ぬという間違いが、ラススヴェートがロイ=ウェルに近づいていることで正されたからです。きっと、名前のない女王の支配という間違いや悪は正されます。ラススヴェートが来るのならば、あなた達はもう、戦う必要なく帰ることができる。それを伝えてほしいと、エルフェルは私に頼んできたんです。エルフェルは女王の城で水晶を使い、ラススヴェートが近づいていると知って、私に依頼したんですって。ちゃんとした理由があれば、納得して帰るだろうとね。さぁ、お腹も落ちついた頃合いでしょう?扉までお送りします。扉の前で走っていった子は後からまた送ります。向かった方角や女王を気にしているあたり、あの子はおそらく名前のない女王の城に向かってます。あの子が捕まって殺されたりすることはラススヴェートの加護でないはずなので、私が城に戻り、保護してきますよ」
三人は、それを聞いて安心した。ふと、マーシャルは先ほどより部屋が寒くなっているのに気がついた。料理中は部屋に煙が充満しないように少しだけ開かれていた扉は、食事中寒くないようにとサーが閉めてくれていたはず。不思議に思ったマーシャルが扉の方を見ると、開かれた扉の隙間に誰かがいるのが見えた。あれはひょっとしてー
「リリー!」とマーシャルは叫んだ。その声に反応して、リリーは逃げ出した。マーシャルが扉を開けた時には、暗闇しか見えずリリーは見えなかった。
「なんてことだ、ラススヴェートのことを聞かれてしまった!」と、スーは叫んだ。「女王への土産話がないかと潜んで聞き耳を立てていたのか…!ラススヴェートが近くまで来ていて、弱点である人間達もいることを知ったら、きっと女王は今までよりもあなた達を狙うでしょう、ラススヴェート相手よりは楽ですしね。あちこちに潜んだ女王の味方が襲いに来るでしょうし、この家のこともバレてしまいました。ここにいるのは危険です。しょうがない、本当はあなた達の世界に帰るのが一番ですが、今の状況の中で最も安全な場所まで、あなた達をお連れします!」
「それって…」
「ラススヴェートの所です、さぁ早く支度を!」




