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PROJECT "C"  作者: 観測者
-起- 混沌の産声
8/12

記録7 帰還せし氷女

周りには、人の形をした肉塊が転がっている

無数の傷跡 突き立てられた得物の数々


星は瞬き、深い深淵に浮かぶ月は

暗闇の大地を照らす


その光景を前にしても、心靡かず


それは、紅い雨の降る夜だった

 ギルノドゥアと対峙して暫く。魔力の残量が少なくなってきた彼女は、これまでの疲労も相まって徐々に動きが鈍くなってきた。一方のゼノフレアは、同じく疲労はあるものの魔力は未だ余裕がある。最初は追い詰められていたが、今となってはゼノフレアが優位に立っている。


(後はカイリ達が着けば…)


生憎、ゼノフレアには洗脳等を解除する手段を持たない。カイリが辿り着くまで、ギルノドゥアをもたせる必要がある。

 洗脳とはつまり、対象に()()()()()を捩じ込む行為。だからこそ、操られた者は以前の人格など関係なく術者に従う。即ち、本来であれば決して行わないであろう行動も取るということだ。…そう、()()()()()()()()()ということも。

 だからこそ、ゼノフレアは加減をしなくてはいけない。追い込みすぎては、彼女が命の限界を超えて戦い続ける可能性がある。実力差を示しすぎてはいけない。元より、ゼノフレアとギルノドゥアとの間にそれ程の実力差は無いが、それでも現状以上に追い込めば最悪の事態になりかねない。

 英霊に限った話ではなく、闘う者とは何かと奥の手を持っている。それがどんなものかは千差万別だが、捨て身のものであることも少なくは無い。自爆などは良い例だ。そして、奥の手とは隠すもの。つまり、ギルノドゥアの故人であるディアが知らないのは当然のこと。もし仮に彼女のそれが自爆などの類だった場合、取り返しがつかない。


「加減して戦うってのは面倒なもんだ」


 迫り来る斬撃。だが、先程までの速度はない。加えて、魔力により身体能力が向上してるゼノフレアにとって今の彼女の動きは亀の歩みに等しい。避けることなど造作もない。


(気配が近付いてきた。そろそろだな)


洗脳を解くには、一度眠らせる必要がある。だが、時間をかけすぎては目を覚ます可能性があった。故にカイリ達が着く直前まで粘った。

 彼女の剣を魔力で保護した左手で受け止め、剣の柄で彼女の脇腹を突く。軽鎧をしてるが、それを加味して打った一撃だ。ギルノドゥアの姿勢が大きく崩れる。ふらついた彼女の足を払い、腕を掴みそのままギルノドゥアを地面に押さえつける。


「悪い、少し寝ててくれ」


剣を納め、手刀を首に叩き込む。英霊ともなればそう簡単に落ちはしないが、ゼノフレアが打ち込んだ手刀は速度が普通の比ではない。速度とは威力。速ければそれだけ衝撃も強くなる。人間なら、下手をすれば首が折れているだろう威力。英霊のギルノドゥアだろうと、意識を失った。


「ゼノフレア!」

「…完璧なタイミングだな」


ギルノドゥアを眠らせたと同時に、カイリとディアがゼノフレアと合流する。


「…やはり、操られておったか」

「ああ。カイリ、解呪(デスペル)を頼む」

「え?…ああ、分かったわ」


ギルノドゥアを上向きに寝かせ、カイリに場所を譲る。解呪は集中力を必要とする為、他の者がいれば精度が落ちる。


「…当たり前のように言っておるが、敢えて聞こう。あやつ、解呪を使えるのか?」

「まぁな」


 解呪という名前であるが、解呪(デスペル)とは、あらゆる魔法の効果を打ち消す魔法。その強大な効果故、扱える者は治癒魔法までとはいかないものの相当少ない。また、解呪は詠唱を必須とする珍しい魔法でありまた、必要とする魔力も多い為、今のカイリの様に詠唱しつつ丁寧な魔力操作を要求される。発動にも時間を要する為、このようにギルノドゥアを眠らせる必要があった。


「お主と言いカイリと言い、一体何者なんじゃお主ら」

「人間、としか言いようがないな。特にカイリは、本当に只の人間さ。世の中で言う、天才と呼ばれる側の人間」

「……深く詮索するつもりは無いがな。それにしても、ギルノドゥアに単独で勝利するとは」

「勝ったと言えるような戦いじゃない。あいつは操らていたし、明らかに全力じゃなかった。洗脳されていたとは言え、彼女の意識は少なからず残ってたんだろうな。じゃなきゃ、俺は今頃死んでただろうよ」

「操られていても尚、刃向かったということか」

「…それと、もう一つ。思わぬ収穫があった」


 ゼノフレアは、セカイについて伝えた。イノベーターという詳細の分からぬものとの戦いの中、明確に見えた敵。暫くはセカイを倒す事が、ゼノフレア達の目標となるだろう。



「…守護神、か」

「何か知ってるのか?」

「詳しくは知らぬ。…じゃが、古より伝承の中で語り継がれておる存在じゃ」

「伝承?」

「『神により創られし世界 大いなる秩序 護るべく存在 名を守護神 神に代わりよって世界を治めん』とな。今までにも守護神は存在したとされておるが、それが史実かどうかは定かではない。しかし、まさか実在するとはな」

「いや、まだ確定した訳じゃないし、そもそもそんな存在だという自覚もないが」

「まぁそうじゃが…。しかし、お主が本当に守護神だとするなら色々と納得がいく」

「…確かにな。イノベーターが俺を襲った理由も、セカイが俺に接触してきたことも」

「その馬鹿げた身体や魔力もな。それが守護神由来だと言うのならまだ分かる」

「それは違うと思うが…。ともかく、俺達の当面の目標は、ディアの国に行くこととセカイを追うことだな。セカイがギルノドゥアを操っていたのなら、彼女が何か知っているかもしれない」

「そうじゃな……と、終わったようじゃぞ」


 気付けば、カイリが魔法の発動を終え地面に座り込んでいた。


「お疲れ。大丈夫そうか?」

「術者が相当強かったみたいね。でも、それのお陰で魔法自体は大したことなかったわ。特に問題は無いと思う。ゼノフレアが出来るだけ安全に戦ったおかげで傷もほとんどないし、後はギルノドゥアが自ら起きるのを待つだけね」

「安全という訳じゃないがな。ギルノドゥアが治しただけさ」

「…あんたが本気でやったら、そんなホイホイ治せるような傷で済まないわよ」

「揃いも揃って化け物じゃのう。ギルノドゥアにそんな傷を負わせられる存在など、そういないぞ」

「上位魔獣と渡り合うんだからそりゃ当然よ」

「とりあえず、ギルノドゥアを家に運ぼう。流石にここで待つ訳にもいかないだろ」

「そうね。目覚めるまでどれだけかかるか分からないし」


地面に横たわるギルノドゥアを持ち上げ、近くに転がっていた彼女の剣を回収し、先程のギルノドゥアの家に戻る。


(こうやって持ち上げると軽いな)


所詮は、背丈はゼノフレアと同等くらいの女性だ。こうして抱えていれば、とてもか弱い存在に感じる。しかし、彼女と対峙したゼノフレアだからこそギルノドゥアの肉体は非常に軽く、そして力強く感じた。繰り出される斬撃や魔法はどれも重く、放たれていた殺気も体にのしかかっていた。その差異もあっての事だろう。

 握られていた剣も、近くで見れば傷だらけなのが分かる。だが、手入れは怠っていないようで、その刃は未だ輝きを失っていない。永くギルノドゥアと共にあったからか、彼女が魔力を込めずとも僅かに魔力を帯びている。そういったことは珍しくはなく、ゼノフレアの剣もまた、僅かに魔力を宿している。ギルノドゥアの場合、能力が"凍結"ということもあってか、魔力そのものが少し冷たい様で、剣も魔力によってその冷気を帯びている。


………

………

 数刻後。ギルノドゥアの目覚めを待っていたゼノフレア達は、既に一日が終わろうとしていたこともあって、カイリとディアは眠りについていた。疲労度でいえばゼノフレアが1番だが、ゼノフレアはこういったことに慣れている。


「……う…」


微かな呻き声が聞こえる。窓から外の景色を眺めていたゼノフレアは、その声を聞くと、彼女が寝ているベッドに近付いた。


「気付いたか」


閉じていた蒼色の瞳が開き、視線が合う。


「あ、貴方は…」

「操られていても意識はあったんだろう?さっき、あんたと戦ったゼノフレアだ。体、動かせるか?」

「え、ええ…」


ゆっくりと体を動かすギルノドゥア。白銀の髪が揺れ、少し隠れいた顔が完全に晴れる。


「意識の方はもう大丈夫か?」

「…そうですね、少しまだ朦朧としますが問題ありません」

「そうか、なら状況を説明しよう」


戦いの最中までは恐らく知っているだろう。だが、ゼノフレアが眠らせた後のことを彼女が知っているわけもない。それに、洗脳下でも意識があったとはいえ、はっきりと状況が理解できていたか怪しい部分がある。それも踏まえて、今に至るまでのおおまかな流れを彼女に説明する。



「成程、どうやら迷惑をかけたようですね。すみません。それと、私を助けて頂き、ありがとうございます」

「当然のことをしたまでだ。それに、洗脳を解除したのは俺じゃなくて、そこで眠ってるカイリだしな」

「カイリ、と言うのですね。…懐かしい顔もあります」


眠るディアを見つめ、そう呟くギルノドゥア。古くからの知り合いということだが、英霊にとっての古くは相当の年月。会うのは久しぶりなのだろう。


「…改めまして、私はギルノドゥア・フィヨルディン。冷気を纏う、英霊です」

「そこまで畏まらなくても良いんだかな。…俺はゼノフレア・ガーランド。こっちが、カイリ・ルーインズ。世界を旅する人間2人だ」

「よく無事でしたね。自分で言うのもあれですが、私を相手に人間一人で敵うとはとても…」

「戦ってたんだから分かるだろ?俺は、少し身体が特殊でね」

「ええ、実際に戦ったのでよく分かっています。貴方は、英霊にも匹敵する存在―」

「そこらの英霊には負けない自信はあるな。だが、ギルノドゥア程ともなれば流石にキツい。全力じゃなかったんだろ?」

「…奇妙な感覚でした。自身の体なのに、自由に動かすことが出来ない。ですが、意識や思考は残っている。それのせいと言うかお陰と言うべきか、体の動きがぎこちなかったですからね。魔法も力も上手く扱えませんでした」

(あれで本調子じゃないってんだから、恐ろしい)


 ゼノフレアとて全力ではなかったものの、追い詰められた事実は変わらない。今回は彼女に大きな不利状況があったからこそ最終的にはゼノフレアが優位に立つことが出来たが、万が一、彼女が全力で戦っていた場合―どちらか、或いは二人とも死んでいたかもしれない。


(…英霊に匹敵など、生温い。彼から感じた力は、決してそんなものではない。あの魔力量…、下手をすれば―)


「敢えて尋ねましょう。…貴方は、本当に人間ですか?」

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