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PROJECT "C"  作者: 観測者
-起- 混沌の産声
5/6

記録4 吹雪に惑う

 イノベーターとの戦いを決意して2日後。ゼノフレア達は、とある地体に来ていた。そこはディアのいた地体とは打って変り、猛吹雪が絶えず降っていた。とてもでは無いが、人間の住める環境ではない。その影響もあり魔術の数もかなり少ない。


「しかし…、まさかこんなことになっているとは―」

「知ってたんじゃないの?」

「元から吹雪の止まない地体だったのは確かだが、これほどではなかった筈じゃ。明らかにおかしい」

「…となると、いる可能性があるな―奴らが」

「ああ…」


………

………

 先日―ゼノフレア達はイノベーターと戦うに当たって、これからどうするかを話し合っていた。相手は全世界を暗躍する組織。当然、人間2人と英霊1人では敵うわけもない。


「ひとまず、妾の国に行こうと思う。イノベーターについては父上の方が詳しい。それに、何か新しい情報を掴んでるやもしれぬ」

「それは構わないが、行ってどうする?俺達が加わったと言って状況が大して変わるとは思えない」

「国に戻るには、幾つかの地体を経由していかなければならぬ。その過程でまたイノベーターと接触できるかも知れぬ。何せ、恐らくお主はイノベーターに狙われておるからな。それに、道中で仲間を集うことが出来るかも知れないじゃろう。奴らは、あらゆる地体に現れては、その地体の者を困らせておる。上手くいけば協力を仰げるやもしれん。国に戻るのは、あくまで目的の1つじゃ。それに妾も、父上に報告したいこともあるのでな」

「まぁ、特に目的もなく彷徨うよりはマシかも知れないわね。それにもし、本当にゼノフレアが狙いなら流石に協力してもらえるでしょう」

「…分かった、それでいこう」


………

………

 そうして最初に訪れたのが、この地体だ。過去に来たことのあるディアから吹雪舞う地体だとは聞いていたが、現状のこの地体は、かつて以上に吹雪が強まっているらしい。


「それにしても、いつか訪れた地体で防寒の魔道具買っておいて良かったわね。普通じゃ凍死よ、こんな場所」

「ああ、そういった魔道具は何かと便利だからな。…まぁ、英霊のディアには関係ないか」

「そうじゃの。式神や英霊はこういった自然環境における影響が少ない。無論、限界はあるがな」


 魔道具―科学と魔法の混合によって生み出された、人間界の道具。生活の利便性を向上させる物や治療に関する物、戦闘に対する物など、その分類は多岐にわたり、現代の人間界において欠かせない存在となっている。巨大都市では、その周りを囲むように結界を張る魔道具が配置されていることもある。あまりにも大きい都市では、魔獣の侵入を防ぐのは困難だからだ。それに万が一、人間同士の戦争になったとしても防衛として役立つ。

 そして今回のように寒さや暑さを緩和するものは、様々な地体を巡るゼノフレア達旅人にはとても重宝されている。そういった自然環境に対する影響を軽減する魔法も存在するが、如何せん魔力効率が悪く旅人達からはあまり好まれていない。魔道具は、その機構が壊れるまで効果を維持できる。

 英霊や式神は、そういった影響が少ない。彼らは元来、戦争などに利用されていた存在であり、それ故にそういった耐性は高く生命力も人間より高い。又、式神と英霊は不老―つまり寿命が存在せず、生命維持が限界に迎えるまで肉体に負荷が加わるか、自らがその命を終わらすまで死ぬことは無い。かつては人間の寿命を大きく延ばす術も存在したが、現代では禁術として使用を全世界で禁止されている。


「…見えたぞ、街だ」

「あそこなら、何か情報が得られるじゃろう。この地体唯一の街じゃからな」


 地体の大きさは多種多様であり、勿論人間の生活範囲もそれによって決まる。今回の地体は世界基準で見ても相当小さく、故に情報は集めやすい。



「…凄いわね。街の外は猛吹雪なのに、街の中には雪一つ降ってない。しかも暖かいわ」

「かつて、この地体を開拓した英霊達がいたようでな。この結界は、彼らが人間を住まわすために編み出したオリジナルのものじゃ。人間達は素通りすることが出来、寒さや吹雪を完全に遮断する」

「かなり限定的な結界だな。相当高度な技術が必要だ」

「まぁ、その代わり魔獣に対する防御も弱いようでな。完全に侵入を防ぐことはできぬようで、ああやって衛兵が常に巡回しておるのじゃよ」


 ディアが指さした先には、鎧に身を包み武器を持って街の警備をしている衛兵の姿があった。


「衛兵なら、この世界の異変について何か知ってるかもしれない。聞いてみるか?」

「いや、それ以上に良い人物がおる。先ずはその者を訪ねよう」

「その者って…誰のこと?」

「この地体を開拓した英霊の1人じゃよ。他の英霊達は皆、街が発展していくと共に立ち去っていったのじゃが、そやつだけは残り続けて今もこの地体を守っておる」

「会ったことがあるのか?」

「何度かな。何せここは、妾の治める地体のすぐ隣じゃからな。色々と世話になったりしたのじゃよ」

「成程。確かにそれなら協力も仰げるし、地体の異変についても知ってるかもしれないわね」

「……にしては妙だな。先程から気配を探っているが、英霊と思えるようなデカい気配は無い」

「ん、それは確かにおかしい。あやつは英霊の中でも相当の手練れ。お主が気配を察せないなど有り得ない筈じゃが―」

「…嫌な予感がする。急ごう」


英霊―しかも手練れともなれば魔力だけでも充分に存在を認識出来るはずだ。だが、感覚の鋭いゼノフレアですら捉えられぬとなれば、それは何かがおかしい。無論、たまたま街を離れている可能性も捨てきれないが、この猛吹雪の中で何が出来るかと言われれば、何も出来ないというのが正解だ。魔獣の数も少ない以上、遠征とも考えにくい。

 イノベーターに英霊に対抗する手段があるかは定かではないが、これまでのディアの話から、決して有り得ない事でもない。既に、イノベーターの手が伸びている可能性がある。



「失踪した…?」

「えぇ。数日前に姿を消して、しかもそれ以降吹雪も強くなって…。長い間ここに暮らしてあの方の世話をさせて頂いていますが、あの人が何も告げずに消えるのは妙です。…それにこの吹雪、今までにないほど強まっています」

「…そうか。教えてくれて助かった。こちらでも探してみる。何か分かったら伝えてくれ」

「分かりました、ディア様」


 ディアの案内により、英霊が住まう家に訪ねたゼノフレア達。英霊の家と言えど、外観だけでなく中身まで、普通の民家と大差ない。違う点と言えば、本棚に収納された多くの書物(魔法に関連したものが多い)と、この使用人だ。突然の訪問だったが、ディアとの面識があったようで話はすんなりと聞いて貰えた。


「ほぼ間違いないな、これは―」

「ええ。イノベーターでしょうね。連れ去られたりでもしたのかしら」

「上位魔獣すら相手にならないやつじゃぞ?いくらイノベーターが巨悪な組織と言えど、そう易々と連れて行けるような存在ではない」


 上位魔獣―魔獣の中でも特にずば抜けた力と魔力を持つ個体。その中でも強さにはムラがあるが、一般的に、上位魔獣の強さは通常の魔獣の10倍以上と言われている。無論、()()人間では当然相手にならない。それどころか、個体によっては英霊ですら苦戦を強いられる存在だ。特に強力な個体は世界中でも危険視されており、識別名が付けられている。

 そんな化け物をも単独で狩れるともなれば、確かに連れ去れたと考えるのは現実的では無い。イノベーターの強さも分からぬ以上、無いとは言いきれないが、それでも英霊1人を何の騒ぎもなく連れ去ることが出来るかと言われれば怪しいところだ。


「自らの意思で行方を晦ましたと考えた場合、誰にも告げなかったことに理由があると考えるべきだな。わかりやすい答えとしては、何か弱みを握られている―とかだろうが」

「確かにそれも有り得なくはないだろうけど…、そんな回りくどいことする必要は何よ?その英霊を味方に引き入れるとか?」

「それは考えにくいな。イノベーターは今までも十二分にあらゆる地体を混沌に陥れてきた。今更英霊などを仲間にする必要があるとは考えにくい」

「…まぁとりあえずは、その英霊を探そう。見つければ自ずと答えもわかるだろ」

「……まぁ、そうじゃな…」

(…じゃが、何故か無性に胸騒ぎがする…。この嫌な予感が当たらぬことを祈るが―)



 英霊の捜索を始めて暫く。効率を上げるためにも、ゼノフレア達は二手に分かれていた。実力的に問題のないゼノフレア1人と、カイリとディアの2人だ。ゼノフレアからしても、カイリのことを下に見ている訳では無いが、彼女の攻撃手段は魔法のみ。近接戦闘は全くと言っていいほど期待できない故、場合によっては非常に危険だ。魔獣相手ならいざ知らず、イノベーターが相手になる可能性も考えると彼女を1人にするのは得策ではない。

 実際は、彼女との付き合いが長いゼノフレアが組んだ方が良いのだが、カイリでは彼の身体能力と五感を活かした捜索について行くことが出来ない。それ故の選択だ。


「…ったく、英霊どころかまともな魔力の気配すらないな。一体どこに行ったんだ?」


今探しているのは、街から少し離れた林だ。既に街の中にいないことは確認済み。他の地体に移動したとも考えられなくはないが、先ずはこの地体を探すべきだろう。

 と、その時―


「よぉ」


()()として、背後から声をかけられた。

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