記録2 邂逅
「…屋敷、か?随分と立派だな」
「かなり昔のものみたいね。大きな傷はないけれど、ところどころ傷んでる」
人1人いない不思議な地体にて、英霊かと思われる気配を追っていたゼノフレア達。その先で見つけたのは、木造の古い屋敷だった。
「中にはいないみたいだ。ということは―」
「何者じゃ?お主等」
「「!?」」
いきなり背後から声をかけられる。咄嗟の出来事に、ゼノフレアは反射的に距離を取り、カイリは臨戦態勢を取った。
…だが、そこに居たのは―
「え…何?この子」
少女の姿をした存在だった。その見た目から、警戒を解くカイリ。厳かな服装から、この屋敷の関係者であることは想像できる。
そして、その魔力量と身の毛のよだつ気配から、彼女が人間では無いことはすぐに理解できた。
「何と言われてもな。そもそも質問してるのは妾の方じゃが…」
「…あぁ悪い。俺はゼノフレア、こっちがカイリ。旅の途中でこの地体に寄ってな。英霊らしき気配がしたから辿って来たんだ」
警戒は解かずに、ごく自然に会話を進める。彼女に敵意がないのはすぐに察したが、ゼノフレアはそれでも油断ならなかった。
何故なら、背後を取られてもなお、彼女の気配に気づかなかったからだ。
「そうか。確かに、妾は英霊。名をディアブロスと言う。ディア、とでも呼んでくれ。…それで、わざわざ辿ってきたということは妾に何か用か?」
「え、えぇ。この地体について何か情報を得ようとしてて。…あと、それと休める場所も探してて」
「…あぁ成程。この地体に人がいないことが気になったのじゃな」
「ああ。これだけ快適な世界だ。国の1つや2つあってもおかしくはない。…だが、国どころか人すらいない。それに対して魔獣の数は異常に多い。明らかにおかしい」
「ふむ、まぁ隠すことでもないからの。…取り敢えず入れ。安心せい、屋敷内に危険はない」
「やっぱり、この屋敷は…ディア、のなの?」
「それ以外にあるか。別にここで夜を明かしても構わんぞ。妾以外におらぬからな」
「………」
(これだけの屋敷で、1人?怪しすぎる………が、こちらを襲ってくる様子も無い。とりあえずは着いて行ってみるか)
色々と疑問は残るものの、今は選択肢も限られている。情報や休息場所を得るためにも、今はディアに従うのが最善と言えよう。
………
………
「さてと…」
屋敷に入ったゼノフレア達は、客間に案内されていた。少し待っていてくれ、と言ってディアは他の部屋に行ってしまった。
「どう思う?ゼノフレア」
「どう、と言われてもな。彼女に敵意は無いようだし、確かに屋敷に危険もない。この地体についても話を聞かないことにはなんとも言えない」
「そうじゃなくて…、あんたが背後を取られたことよ」
「……それについても、だ。今までの戦いでも、背後を取られたことはある。それだけ彼女が優れた英霊ということなんだろう」
英霊にも、強さの違いは当然存在する。単純な身体能力や魔力量だけで言えばそこまで差は生じないが、実戦経験の数は実力に大きく影響する。また、得意とする魔法や能力によっても力量の差は生まれる。
「待たせたの」
暫くして、盆にティーカップを3つ乗せて、ディアが客間に入ってきた。また、先程よりもどこか気品が増している。
「魔獣との戦闘の後だったのでな、少し身なりを整えさせてもらった」
「気にしなくて良いのに。寧ろ、私達の方が整えたいくらいだわ」
「まぁな。…それで、早速だが聞きたいことがある」
「分かっておる。この地体の事じゃろう」
「あぁ」
「結論から言うと、この地体に特別問題があるわけではない。魔獣の数が多いのは、ここの魔力濃度が高いからじゃ。それに、お主らは見ていないかも知れぬが、かつては街や集落だった廃墟もある」
「つまり、かつては人が居たってこと?」
「あぁ。だが、とある出来事がきっかけで皆、他の地体に渡って行った」
「出来事…?」
「魔獣の大量発生じゃ。理由は分からぬが、ある日、この地体に尋常ではない魔獣が湧き出た。無論、妾と、当時はいた妾の側近達と共に戦ったが、あれを凌ぐことは出来なかった」
「…それで、避難せざるを得なかった、と」
「まぁ、そんなところじゃ。じゃが、妾はこの地体の領主、離れるわけに行かぬからな。こうして今も変わらずここにいる」
「領主?この地体は国の領地なの?」
「ああ、地体丸ごとな。そして妾はその国の陛下の娘じゃ。―まぁ、造られた存在で娘と言うのもおかしな話じゃが」
「成程、どうりで他の英霊に比べて気配がデカいわけだ。1つの地体を支配下における程の国が造った英霊ともなれば流石にそこらの英霊とは強さが違う」
「買い被りじゃ。…それで、お主らにも少し聞きたいことがあるのじゃが、良いか?」
「あ、あぁ。別に構わない」
「……お主ら、このような紋章を付けた服を着ている者を見た事ないか?」
ディアが懐から取り出したのは、掌が太陽を掴もうとしている、特殊な紋章の書かれた紙だった。紋章と言えば、大抵は貴族や歴史あるものであることが多い。それ故に多くの人間がどこかしらで見た事あるのが大半だ。
だが、ゼノフレア達はこの紋章を見たことがない。
「いや、無いな」
「私もだわ。…でも、これ、何の紋章なの?なんか不穏というかなんというか―」
「いや、無いなら良い。…これは、妾らの国が追い続けている、とある組織の証。国が動く程の危険な存在である、ということだけは言っておこう。お主らも、これを見かけたら素直に逃げるが良い。とても、普通の人間が敵う相手ではない」
これだけ警告してくる、相当危険な集団であることはすぐに理解できた。だが、それほどの犯罪的組織であれば名前や噂程度であれば聞いたことがあってもおかしくはない。だが、そういった噂は、旅をしてきた今まででも全く無かった。
「英霊のディアがそういうなら相当なのは分かったが、そんな組織がいたら世界のどこかで噂くらい聞いてもおかしくないと思うんだが。そんなに奴らは追うのが難しいのか?」
「あぁ。奴らは突然現れては突然消える。…じゃが、1つ確かなのは、奴らか現れた地体には必ず異変が生じる、ということじゃ。先程話した魔獣の大量発生も、奴らの仕業だと妾は踏んでおる」
「地体1つを揺るがす程か。それでいて存在が認識されない…。相当なもんだな」
「地体に異変を及ぼすと聞けば黙っていられないかも知れぬが、関わるのは止めておけ。寿命を減らすだけじゃ」
「そこまで言われなくても、関わる気なんてないわよ、そんな恐ろしい連中。あんたもそうでしょゼノフレア……ゼノフレア?」
ふとカイリが横に座っていたゼノフレアを見ると、彼は目を鋭くしてなにかを感じ取っていた。
「なぁディア。その組織って、直接的に人に干渉することはあるのか?」
「…あるな。かつて、とある地体で多くの人間が一夜にして虐殺されたことがある」
「そうか。……もう1つ。それは俺ら旅人も含まれていたか?」
「ああ、奴らに見境などない」
「そうか―」
ディアもなにかに気付いたのか、既に全身に魔力を巡らせている。
「ちょ…、2人とも、どうしたのよ…?」
「……数は…5、いや6人か。妾が狙いか…?」
カイリの質問も意に介さず、2人は周りを取り囲むなにかを警戒している。だが、あちらも動く気配はなく、ディアは状況を把握しようと意識を周囲に配っていた。
その時―
「っ、伏せろ!!」
咄嗟の出来事だが、すぐさま2人は、言葉通り地面に伏せた。直後、爆発音と共に屋敷の壁が破壊され、その煙の中から一太刀がゼノフレア目掛けて飛来した。
(重い…!)
金属音が鳴り響き、ゼノフレアは突っ込んできた謎の男と鍔迫り合いになっていた。その男が纏う服には、例の紋章が縫い付けられている。
「…引くに引けない、か」




