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PROJECT "C"  作者: 観測者
-起- 混沌の産声
12/12

記録11 決着へ

 名憑きの魔獣―陽狼に遭遇したゼノフレア達。魔力を乱すことにより魔法を無効化する特性を見破り、見事ゼノフレア渾身の一撃が炸裂するものの、それでも陽狼を倒すには至らない。

 陽狼の体は灼熱の炎に包まれており、武器での攻撃はほぼ不可能だ。無理をして近付けば灰にされる。そうなると、必然的に攻撃手段は魔法に限られてくる。ヨルの様な遠距離武器であれば攻撃も可能だろうが、肝心のヨルは肉体の損傷が激しく、今戦わせるのは危険が伴う。


 しかし、当の本人は3人と1匹を冷静に観察し、着実に機会を窺っていた。


「カイリ、私が合図したら魔法を奴に打って」

「え…?」

「私の弓なら、奴の体を貫ける。仕留められなくても、その隙をついて3人が何とかしてくれるでしょ?だけど、ああやって動き回られると、今の私じゃ標準が定まらないのよ」

「私達の方に注意を向けたいってこと?」

「話が早くて助かるわ。頼んだわよ」

「ちょ、まだやるって言ってな―」


それだけ言うと、ヨルは崩れた小屋の瓦礫の下から自身の弓を引っ張り出し、魔力を込め始めた。弦の無い独特な弓だが、ヨルが魔力を込めると共に弦が現れる。あの時ゼノフレアが見せた時と同じように。


「…仕方ないわね」


 下がっていろ、と言われたカイリにとっては上位魔獣の恐ろしさも知っていることから、関わるのは得策ではないのは分かっていた。しかし、ヨルは既に構えており話をしても無駄なのはその容姿から伝わってくる。

 それに、今はまだ互角の戦いを繰り広げてはいるが、いつ3人が倒れるかは分からない。早々に決着をつけたいのはカイリもその通りだった。



(あいつら、無理しやがって)


 戦いの最中、聞こえてきた会話。カイリ達を下がらせたゼノフレアにとって、陽狼の標的を彼女たちに向けるのは避けたい。が、今のままでは状況が悪いのも事実。ゼノフレアとディアの2人がかりでギルノドゥアの能力を放つ隙を作ろうとしているが、1度見た技をそう簡単に打たせてはくれない。先程より明確に、陽狼はギルノドゥアを襲っている。


「…仕方ない」


 剣に更に魔力を込め、それを両の手で握り締める。彼女らが無理をするなら、こちらも無理を持って応じる。


「…!?ゼノフレア!?お主何をして―」


全身を魔力で覆い、可能な限り熱を遮る。ギルノドゥアを狙っていた陽狼だが、自身に迫る者がいるとなれば当然、そちらに標的が向く。

 迫り来る巨大な牙を華麗に避け、前脚の腱を切りつける。やはり両断とは行かないものの、剣に込められた高濃度の魔力は、多少乱れようともその威力を底上げする。先程は斬れなかった陽狼の肉体に、刃が入り込む。


(まだだ…)


 切断箇所から血が勢いよく吹き出す。痛みの咆哮を上げる陽狼だが、未だ止まる気配はない。しかし、ギルノドゥアに向いていた敵視はこちらに移った。このまま奴の怒りを買い、陽狼の視界を狭める。

 灼熱の炎がゼノフレアの腕を焼く。しかし、ゼノフレアも又、止まらない。返り血を浴びて紅く染まった剣が、再び陽狼の肉体に傷を生み出す。


「ゼノフレア殿!それ以上は…」

「今だ、カイリ!」

「……!」


 奇行とも思えるゼノフレアの行動に、その場にいた全員が困惑していた。しかし、長い間ゼノフレアと共に旅をしてきたカイリだからこそ、今のゼノフレアの発言を理解し、即座に行動に移れた。

 

 突如飛来してきた魔法に、陽狼の視線がカイリ達に向く。ゼノフレアに切り刻まれたことにより、既に陽狼は冷静さを失っており、その怒りをぶつけまいとすぐさま、その牙がカイリに向いた。


「これでいいんでしょ!?」

「ええ、良くやってくれたわ」


 その背後には、常に陽狼を観察し続けたヨルが控えていた。真っ直ぐと迫り来る陽狼に向けて、練り続けた一矢を撃ち込む。

 

 放たれた矢は、陽狼の額に的確に突き刺さり、そしてその場で激しく爆ぜた。いくら名憑きと言えど、これ程の攻撃を額に喰らえばタダでは済まない。


「…!今です!ディア殿!」

「っ!ああ!」


 生まれた大きな隙。裏で何があったは分からないが、今起きた事実を冷静に分析し、ギルノドゥアはすぐさま能力を発動した。そこへ、ディア渾身の一撃が炸裂する。


"聖槍(ロンギヌス)"


 高く飛び上がったディアの手元に、凝縮された魔力が一本の巨大な槍を生み出す。それを掴み、陽狼に投げつける。


 大爆発の中から現れた陽狼は、全身に傷を負い、今にも倒れそうだが未だ奴はこちらに殺意を向けている。まだ倒れないかと、彼女らは身構える。

 …が


"無限斬奈(むげんざんな)"


背後に回り込んでいたゼノフレアの、神速の5連撃が陽狼に更なる追い討ちをかける。


「止めだ」


地面に倒れ臥した陽狼に、大地を蹴って空に舞ったゼノフレア最後の一撃が襲う。


 衝撃と土煙が舞う。そして遂に、陽狼の息が絶えた。

 剣を突き刺した肉体が跡形もなく消滅し、刀身に付着した血を払う。焼き焦げた右腕は、痛みはあるものの動きに支障はない。それを確認すると、ゼノフレアは自身の剣を背中の鞘に納めた。


「ゼノフレア!」


 そんな彼の元に、カイリが慌てて駆け寄る。よく見れば、右腕だけでなく至る所に僅かな火傷や掠り傷を負っていた。


「全く、無理して…」

「先に無理をしようとしたのはそっちだろ。お前らの会話、聞こえてたぞ」


そう言い、目線をヨルに移す。


「とは言え、助かったよ。本調子じゃないのにあの威力か。末恐ろしいな」

「私としては人間の貴方の方が恐ろしいけど」

「それについては同感じゃ。まさか本当に名憑きを殺すとは」

「ディアも大概だろう。戦闘中に重複詠唱なんて、そう簡単に出来ることじゃない」

「それより、今は貴方の怪我を治すのが先です。いくら何でも無茶をし過ぎです!」


 ゼノフレアに近寄り、治癒魔法を施すギルノドゥア。当の本人は特段痛がる様子もしていないが、傍から見れば重症であることには変わりない。


「悪い。一応魔力で守ってはいたが、流石に無傷とはいかなかったか」

「当たり前でしょ…。いくらあんたでもそりゃ無謀よ」

「とは言え、それでも相当傷は抑えられているようね。普通なら火傷じゃ済まないわ。本当に何者なのよ、貴方。私の弓も、見ただけで使いこなしてたし」

「さぁな」


 ギルノドゥアの回復を受け終え、先程まで陽狼のいた方へ視線を戻すゼノフレア。突然の出来事だった故、考えるのは後回しにしていたが ―


「…陽狼は、的確に俺達を狙っていた。それにタイミングも良すぎる」

「あぁ。しかし、考えられる可能性としては一つしかあるまい」

「イノベーターが、私達を襲わせたってこと?」

「実際見たわけではありませんが、そう考えるのが一番自然ではあります。しかし、そうなるともう一つ疑問が」

「…何故私達のことに気付いたのか」

「その答えは明白だろう。奴らは今も尚、この城下にいるってことだ。洗脳をかけたところで、上位魔獣―しかも名憑きを使役できるとは思えない。つまり、イノベーターの奴ら本人がどこかしらにいるってことだ」

「でも、それならあんたなら分かるんじゃないの?」

「イノベーターだからと言って、全員が異質な気配を持つとは限らない。実際前に戦った奴らも、気配や魔力量自体は普通の人間だった。先はそれも加味して探ってみたが、それ以上にこの地体は式神が多すぎる。しかも、さっきは名憑きが目の前にいたんだ。探る暇なんてなかったし、探ったところで意味が無い」

「そうなると、余計に急がなくてはならぬな。しかし…、まさか名憑きを使役してくるとは。恐ろしい事実を知ってしまったものじゃ」

「でも、貴方達は実際に名憑きを倒してみせた。何とかなるでしょう?こうなった以上、私も協力しさざるを得ないし」

「…陽狼は、名憑きの中でも相当弱い部類だ。最弱とまでは言わないが、しかし、これはまだ奴らにとって序の口なんだろうよ」

「考えたくもないですね…」

「だが、残念ながら事実だ」


 あくまでまだ可能性の話だが、イノベーターが名憑きを手札として持っているとなると、これからの闘いは想像を絶する。陽狼が弱い個体だった故に可能だっただけという説も捨てきれないが、ゼノフレアとしてみればセカイを知っている以上、逆にその可能性は低いと考えている。

 セカイから見れば、名憑きとて格下の相手だろう。それだけの気配と強さを、ゼノフレアは感じた。唯一、最強と呼ばれる()()魔獣であれば話は別なのだろうが、それでも十分すぎる脅威だ。


「…そういえばお主、魔術も使えたのじゃな。まさか人間からあんなものが出てくるとは思わなかったぞ」

「別に魔術は式神や英霊の特権ではないだろう。術式が複雑かつ消費魔力量が桁違いに多いから、普通は使えないとされてるだけで」

「間接的に、自分は普通じゃないって言ってるわねそれ。私でも使えないわよ、魔術」


 魔術―それは魔法の極地。従来の魔法とは比べ物にならない威力と効力を誇るが、同時に、術式が何十倍にも複雑になり、必要とする魔力も爆増する。

 しかし、だからこその力であり、古の時代―魔術全盛期では当たり前のように使われていたとされている。

 

 魔術には更に上があり、それが古代魔術だ。はるか古の時代に創られたその魔術は、現代より戦の規模が違う故に、発動する力も段階が違う。

 しかし、当然のように、必要とされる技量や魔力も段違いだ。術式が複雑かつ膨大すぎる故、重複詠唱を前提とされている他、その数により、人間では脳が焼き切れる。故、古代魔術はゼノフレアとて使うことは出来ない。現代において使える者は、片手で数えられる程度と言われている。


「今はそんな事はどうでも良い。急がないと、手遅れになるかも知れない」

「え…?」

「奴らが俺たちのことを認知しているということは、今みたいに襲ってくるかも知れないってことだ。そして、この国の王はイノベーターの手中。分かるか?この国全てが敵になるかもしれないってことだぞ」

「「!」」


 国の最高指導者が指示を出せば、国民はそれに従う他ない。その命令に違和感を感じようと、所詮は他国の人間達のゼノフレア達を優先するわけがなく、ましてや自身が罰せられる可能性もあるとなれば、誰も迷わず襲ってくるだろう。そうさせない為にも、最早手段を選んでいる暇はない。


「王に会いに行く。そして洗脳を解く」

「だから言ったでしょ?今は…」

「言い方を改めようか。…城に攻め入るんだ。無論、誰も殺しはしないがな。話は後でいくらでも聞いてもらえば良い」


 手荒い手段ではあるが、確かにそれが一番手っ取り早いのも事実。洗脳されているのが国王だけとも限らず、城全体が既に落ちている可能性もある。


「確かにそれが一番早いが、しかしイノベーターが何かしてくる可能性もあるぞ?それこそ、上位魔獣を放ってくるかも知れぬのじゃ」

「尚更だろう。本来、上位魔獣は国一つで挑む存在。国王が正気に戻れば、最悪そちらに任せられる」

「そうなれば、もう決まりですね…?」

「ええ。私は賛成よ。ここでグダグダしてても仕方ないわ」

「ヨル殿はそれで良いのですか?」

「構わないわよ。私だって、好きで奴隷のままでいる訳じゃないし、私の"主人"も恐らく城にいるだろうからね。この際、私も決着をつけるわ」

「そうではなく、あくまでも国王に歯向かうということには―」

「あの人が前のように戻るのなら、話をすれば必ず理解してくれるわ。その点には心配要らないわよ」

「そうですか」

「城の案内なら任せて。出来る限り最速で玉座に案内するわ。それと、兵の相手なら任せて。貴方達だと、うっかり殺しちゃいそうだし」

「別にそういうつもりはないんだがな。まぁ、そこは任せるよ。あんたにも色々あるだろうしな」

「それまでに貴女の治癒は終わらせます。急ぎましょう」

「あぁ」


………

………

「陽狼が消えた。やはり、お前には可能性があるな」


 眩い純白に包まれた謎の空間。そこに男―セカイはいた。その場が何処なのかはセカイしか知らず、道のりも同じだ。つまり、この場所には今、セカイしかいない。

 右腕の手首を押さえ、セカイは呟く。


「そのままお前は戦い続けるがいい。俺の計画通りに、な…」


不気味な笑みを浮かべながら発したその言葉は、ただ虚無に消えてゆくのみで、誰の耳にも届かない。

 そして、セカイもまた、その場から姿を消した。音もなく、何も残さず、一瞬にして。


 奇妙な空間には、何も残っていない。



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