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PROJECT "C"  作者: 観測者
-起- 混沌の産声
10/12

記録9 式神ヨル

 ギルノドゥアという頼もしい仲間を加えたゼノフレア一行。しかし、新たな仲間が加わった直後であるが、更なる仲間を求めてゼノフレア達は火山の多い地体に訪れていた。


「それで、式神を誘うにあたって何かアテはあるのか?」

「ええ。この地体では傭兵としての式神が多くいるので、その中から選びましょう。一応、国の兵士としてもいるのですが、流石にそちらに協力を求めるのは難しいでしょうからね」

「国の兵士か。そちらの方が実力は保証されておるじゃろうが、致し方ない。国の軍事力を借りるなど無理な話じゃな」

「それでも、いないよりマシでしょ。式神は英霊と違って強さの差が小さいし、そこまで気にする必要は無いんじゃない?」

「まぁそうだな。幸い、英霊に関しては規格外が2人揃ってる。強い奴の方が良いのは当たり前だが……?」


 突如、ゼノフレアが険しい表情を見せる。長年の付き合いであるカイリにとっては最早日常の1つだが、相も変わらず鋭い五感と気配で何かを察知したのだろう。


「どうした?」

「ギルノドゥア、あっちの方面に何がある?」

「その方向は…、確か国の管轄下の訓練所があった筈です。それがどうかしましたか?」

「一際強い魔力を感じた。だがそうか。国のってことは恐らく兵士。勧誘は無理そうだな」

「いえ、管轄下と言っても使用者に制限はありませんよ。あくまで政府が自主的に管理している場所で、寧ろ丁寧な施設なので人気もあります」

「なら行ってみる価値はあるかもしれん。それに訓練所ともなれば他にも式神がおるじゃろう」

「そうだな」



 そうして向かった訓練所にて、ゼノフレア達が目の当たりにしたのは―1人の式神が他の者達から虐められている現場だった。


「…何だ、あいつら」

「あれは…王国の兵士の鎧…。それに彼女も。仲間同士で一体何を?」


その式神は弓を持つ、赤髪の女性だった。しかし、顔には幾つもの殴られた様な跡が見え、弓には必須の矢は周りにいる他の式神達によって殆どが折られている。


「まだお前は弓なんぞ使ってるのか。近年は魔獣のレベルも上がってきている。いつまでそんな古い武器なんぞに縋るつもりだ」

「国から特性の銃が配られてるって言うのに、あんたと来たらわざわざそんなモノ使って…」


「…成程な。典型的な虐めだ」

「弓か。確かに、近年では魔獣と戦う上で使用する者は少ないが、あそこまで罵倒されるような代物ではないぞ」

「そもそも、人の得物に何やかんや口を出す権利なんてないでしょうに」

「同感です。ですが、部外者の私達がどうこうできるような話でもないですね…」

「……あいつが、先程の魔力の正体だ。傭兵じゃないなら勧誘は無理かと思ったが、案外これなら―」


 魔獣との戦いにおいて、近接武器や弓などはあまり使用されない。使用されるとしても、大半が間合いの広い槍や斧槍等、遠距離武器として火力の出る銃などが多い。何故なら、人は魔獣より身体能力が劣るからだ。加えて、その肉体は人間のものより遥かに強靭。つまり、必然的に相手に近付かなくてはならない近接武器はあまり好まれない。また、魔獣はそういった武器に強い一方で魔法には比較的弱い。それも相まって、そもそも魔獣に武器で挑む者は少ない。

 銃に関しては、火力が高く加えて魔力による銃弾の強化も簡単な為、愛用者も多い。一般的に使用されている拳銃に至っては、魔導具の類であり魔法によって扱いや威力も保証されている。今、彼らが持っているのは所謂ライフルにあたるものだが、扱いが難しい代わりに、拳銃に比べて連射力・威力共に優れる。国の兵士ともなれば、訓練されている故に扱いもそう難しいものではないだろう。


 しかし、銃にも弱点は当然ある。第一に、脆い。銃は攻撃性に優れる一方で防御面に関しては非常に貧弱だ。そういった点に関しては近接武器に軍杯が上がる。そして、隠密性に欠ける。当然だが、銃を使えば発砲音が鳴る。それを聞きつけた付近の魔獣が集まってこないとも限らない。そういった事はやはり、魔獣には魔法が最適解であるとされてしまう点だ。


「…んで、どうするのよ?」

「少し様子を見よう。あれだけ痛めつけられておきながら、彼女には折れる様子が見えない。ああいった正義感みたいのなのが強い奴は、所謂"悪"を許せないようなタイプだ。世界の敵ともなれば、もしかしたら協力を仰げるかも知れない」

「そう上手くいくかの。寧ろ、あそこまでやられておきながら兵を辞めておらぬということは、それだけこの地体に対する想いが強いとも捉えられる」

「そこは話してみるまで何とも言えませんよ。ゼノフレア殿の言う通り、ここは一先ず様子を見ましょう」


 彼女に見える傷は、今日付けられたものだけではないようだ。明らかに古傷も残っている。つまり、今までにもこういった事があったということ。それでも折れずにいる心は、賞賛に値する。…が、ゼノフレアは違和感を感じていた。


(何故あれだけの実力がありながら、反撃しない…?仲間同士の争いは好まないのか?)


 魔力だけではない。鍛え上げられたその気配は他の式神とは比べ物にならない。今彼女らが戦えば、例え多対一だろうと、彼女が勝つだろう。それ程の実力を、ゼノフレアは感じている。それでも彼女は、一切やり返す様子ではない。が、全くその気が無いわけでもない様で、その眼は反抗の怒りに燃えていた。


「なんだその眼は。お前のせいでいくらの仲間が死んだと思ってる」

「……自分の弱さを他人に押し付けるんじゃないわよ」


その言葉を聞くなり、式神の1人が彼女を殴り飛ばした。近くにあった瓦礫の山に突っ込む。


「弱いのはお前だ。付け上がるのも大概にしろ」

「……そうやって集団の中でしか威張れないあんたに言われたくないわね」

「っ!貴様ァ!!」


更に殴ろうと、式神が拳を振りかざす。

 …が


「何処にでもいるもんだな。こういう、弱者を甚振る事でしか、己の強さを示せない愚か者」


その拳は彼女に到達することなく、突如として割って入ったゼノフレアの手によって受け止められていた。


「いつの間に…!」

「…全く、面倒事には巻き込まれたくはないんだけどね」


関わった以上、知らぬふりをすることは出来ない。隠れて様子を見ていたカイリ達も、式神達の前に立ちはだかる。


「何だ、貴様らは」

「一般人ね。…帰りなさい、あんた達には関係ないことよ」


 自分に絶対的な自信があるのか、彼らは高圧的な態度でゼノフレア達にそう告げる。だが無論、この場を譲る気は無い。


「知ってるか?弓ってのはな―」


先程、彼女が殴り飛ばされる前の場所に落ちていた弓を拾い、構えるゼノフレア。近くには、都合良く大岩がある。

 その岩に向けて、残っていた矢を放つ。その矢は、式神達のすぐ横を高速で通り過ぎ、大岩をいとも簡単に砕いた。砕け散った岩の破片が飛び散り、ゼノフレア達の前に転がる。


「…銃より強い」


 その光景を目の当たりにし、カイリを除く全員が呆気にとられていた。


「こいつは、俺達の知り合いだ。これ以上続けるなら、今のをお前たちに撃ち込むが…、どうする?」


言葉に込められた殺気と直前の出来事は、式神達をこの場から退けるには十分だった。


「…ちっ」


余程のプライドがあるのか、未だその態度は変わらず、だが素直に彼らは訓練所を後にした。

 知り合い、というのは勿論嘘だ。だが、適当な理由をつけなくては幾ら実力差を見せつけたところで納得し難い。


「大丈夫か?」

「………何で助けたの」

「あの様な事を見せつけられて、黙っていられると思うの?悪いけど、私達はそこまで非情じゃないの」

「…そう。痛っ!」

「動かないで下さい。今治しますから」


座り込む彼女に寄り添うギルノドゥア。魔力を込め、治癒魔法を施す。


「…お主、何をした」

「ん、別に大したことは何も。この()()()の威力を最大限に引き出したに過ぎない」


ギルノドゥアが傷を治している間、ディアは直前に起きた出来事についてゼノフレアに問いていた。


「そういうレベルの話では無いぞ。いくらその弓が、()()()()()()()()()()()()()特殊な代物で、込めた魔力に応じて威力を増すとしても、あの大岩を砕けるわけあるまい」

「現に砕けただろ。…弓ってのは、基本的に銃より強いからな。特に、貫通力という点に関しては銃の比じゃない。俺はその潜在力(ポテンシャル)を最大限に活かしただけだ。爆ぜたのも、俺のせいじゃなくて、この魔道具の性質だな。何かしらの魔法が刻まれてたんだろうよ」

「…まぁ、お主が常識外れな事は既にある程度理解しているが」


 実際、今回に関してはゼノフレアは特段何もしていない。ただ魔導具を使う為に魔力を込めただけである。その威力を最大限に活かせる様、矢を引いただけの事。


「…もう大丈夫よ」


そんな事をゼノフレア達2人が話している間に、ギルノドゥアが彼女の治癒を終えた。先刻の暴行による傷は癒えているが、古傷までは消えていない。改めて見れば至る所にその跡が窺える。


「一先ず感謝するわ。けど、これ以上は私に関わらない方が良いわ。…もう会うこともないでしょうけど」

「待って。私達は貴女にお願いがあって…」


カイリが、去ろうとする彼女を制止する。先程から素っ気ない態度だが、一度は背を向けつつも再びこちらに振り返る。


「お願い?私がどんな立場の存在なのか分かってるの?」

「この国の兵士じゃろう。それを承知の上で話しておる」

「…違う。私は―」


彼女が首を横に振ったその時、ゼノフレアの視界にあるものが映りこんだ。長い後ろ髪に隠れていた、首元に押された烙印が。


「…奴隷か」


 そう、その烙印は世界で流通している奴隷の証明たる印だった。世界(コスモス)では、奴隷は認められている。しかし、奴隷とは名ばかりで、実際は主従関係が明確にされた下僕に過ぎず、最低限の人権や自由は保証されている。それは世界的な条約によって定められており、破れば無論、罰せられる。また、奴隷となる存在にも制限があり、なんの理由もなく奴隷にされることは無い。かつて罪を犯し、更生の余地を与えられた者が奴隷とされる。故に大罪人は奴隷にされず、一般人も勿論、奴隷にはされない。


「良く分かったわね」

「烙印が見えたからな。…つまり、あんたはかつて何か罪を犯したってことか?」

「そういうことになってるわね」

「…?含みのある言い方をしますね。実際はそうでないと?」

「…私は何もやってないわよ。と言っても、信じる人なんていないけど」

「…そもそも、式神を奴隷にすること自体珍しい。別に禁止されておるわけじゃないが、お主の契約者は人間じゃろう。普通、自分より強い存在は奴隷にしないものじゃ。歯向かわれた時に対処しようがないからの」


 奴隷の烙印には魔法が施されており、主との主従関係を対象に刻み込む。そうすることで、奴隷は主に逆らうことが困難になり、普通の人間であればそれを破ることは不可能だ。

 しかし、施されている魔法自体は決して強力ではなく、式神や英霊には効果が薄い。つまり、牙を剥く可能性が伴う。故に、奴隷商売において英霊や式神は滅多に出回らない。余程力の弱まった存在でもない限り、彼らにとって主従関係を崩すのは簡単なことだ。


「なら尚更気になる。何故逆らわない?あんたからは相当の魔力を感じる。実際、さっきの奴らなんかより強い筈だ。契約を破ることくらい、造作もないだろう」

「国王の決定事項なのよ。逆らえば反逆罪で速攻死刑よ。式神かつ国の兵士ってことで常に警戒されてるし、地体から逃げることも出来ない。それに、この烙印に刻まれてる魔法は普通のものより強力で、式神の私でも逆らえない。…どうしようもないのよ」

「式神を抑える程のものじゃと…!?それ程の強力な魔法を用いた奴隷は禁止されておる筈…!」

「ええ。そんなものを人間に使えば死人が出かねません。…その魔法も、国王が?」

「そうよ。…昔は温和な人だったんだけどね。数日前から人が変わったように非情に―」


 その発言を聞き、ゼノフレア一行は察した。


「…イノベーターだな。ここにも来てたか」

「まだ確定した訳じゃないけど、多分そうね。ギルノドゥアの時と似てるわ」

「こんなすぐに、同じような状況に巻き込まれるとはな。…しかし、こちらにとっても好都合じゃ」

「ええ。探りを入れてみる価値はありそうです」


人が変わったように、というのはギルノドゥアにも同じ様なことが見られた。ともなれば、イノベーターの―セカイの息がかかっている可能性がある。


「話は見えてきた。あんたを助けてやる。その代わり、ちょいとばかし協力してくれ」

「助ける?どうやって?」

「それは後々話します。私達の考えが正しければ、恐らくあまり時間はない」

「とにかく、今は私達を信じて」

「……」


戸惑うのも無理はない。先程出会ったばかりの得体の知れない人間と英霊に、いきなり己を助けると言われ信じる方が難しいのは重々承知だ。しかし、イノベーターの手が伸びている以上、放っておけば最悪この国が滅びる。恐らく、時間はそこまで残されていない。


「妾らは、本来の目的のために動いているに過ぎない。その過程でお主も救える、というだけじゃ。そこまで深く考える必要はない」

「……分かったわよ。このままいても何も変わらないだろうし」

「そうと決まれば、早速行くか。…そういや、名前は?」

「ああ、名乗ってなかったわね。…私の名前はヨル。よろしく頼んだわよ」

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