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無難にいきたい  作者: 人外主人公大好き
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2


「……追手は、きてないか」


ビルの影に身を潜めながら、俺は長く息を吐いた。

さっきまで張り詰めていた空気がゆっくりと解けていき、肩から力が抜けていく。


「なんでフリートに会うかな……。紐付きの中で、二番目くらいに会いたくない相手なのに」


額に滲んだ汗を乱暴に拭って、背中を冷たい壁に預けた。

別に恐怖してるわけじゃない。ただ、面倒なんだ。圧倒的に。

あれは“勇者”の名を持つ化け物だ。

正面からやり合えば、体力任せの野良でしかない俺なんて、一瞬で詰む。


「……それに、覚えてたか」


自分でも意外なくらい、胸の奥がざわついていた。

フリートの口にしたことは、大体あっている。

魔法少女が長期間力を維持できないことも──

昔から街にいた“誰か”の噂も。


違うところがあるとすれば。


「国を守ってたかどうか、くらいだな」


そんな大層なことじゃない。

俺はただ、火の粉を払っていただけだ。


奴ら──アバラントは、魔力の高いやつを好んで寄ってくる。

だから狙われて、だから倒していただけだ。

守りたかったわけじゃない。


ただ、来るから倒していただけ。

倒さないと死ぬから、やっていただけ。


英雄なんて柄じゃない。

そんな風に言われても困る。


「……はぁ。今日は最悪だ」


空を見上げる。

さっきまで騒がしかった街は、今は妙に静かだ。

幻影を張って姿を消しているせいか、俺自身の気配も極端に薄くなっている。


逃げ切れたのはいい。

でも──フリートの目は誤魔化せない。


あいつはもう、俺が“噂の魔法少女”だと確信している。


「ん、やられたな」


遠くで、フリートから注意を逸らすために放った獣型の幻影が、光の粒となって霧散した。

張り替えの時間が来たわけじゃない。斬られたんだ。


「にしても聖剣か……すごいな。あれでも、ある程度硬くしてたのに」


幻影が最後に見た光景を、脳裏に引き戻す。

光をまとった剣が、一瞬で獣の全身を断ち切ったあの光景。


「……あんなに、小さかったのにな」


ぽつりと言葉が漏れた。

胸のどこかが、きゅっと痛む。


「………………………やめよう」


感傷に浸るのはやめだ。

昔を思い出すな。せっかく切り離せたのに。


もう、巻き込むわけにはいかない。


「……姿、見られたな」


小さく呟き、幻影をもう一度張り直した。

静かなビル街に、足音だけが淡く溶けていった。

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