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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悪役令嬢として婚約破棄されたけど実は聖女だった私が、王国の裏切り者たちを返り討ちにして処刑した件について

作者: 結城斎太郎


華やかな舞踏会の夜。

貴族たちの視線が一斉に、たった一人の少女に向けられていた。


「エリシア・ヴェルディナ嬢。この場で、貴様との婚約を破棄する!」


声高に告げたのは、王太子レオナルド・グランハルト。

その傍らには、純白のドレスを纏った令嬢が優しげな微笑を浮かべて寄り添っている。


「理由は明白。お前はルナ嬢に嫌がらせを繰り返してきた。王妃の器ではない!」


──その瞬間、会場は息を呑んだ。


けれど、当のエリシアはというと。


「……そうですか。では、その通りにいたしましょう」


静かに、しかし凛とした声で告げる。

黄金の髪を揺らして、彼女は深々と一礼した。


「私との婚約破棄を受け入れますわ、殿下。心より、お慶び申し上げます」


──一礼し、彼女はくるりと背を向けた。

その背中に、レオナルドも、ルナも、誰一人として追いかけることはなかった。


彼女がこの先、何をするのかも知らずに。



---


エリシア・ヴェルディナ。

一見、傲慢で高慢な悪役令嬢と噂されていたが――その正体は、代々の聖女の血を引く“選ばれし者”だった。


けれど王宮の陰謀により、彼女の聖女としての力は封印され、実権を奪われていた。

そして、“偽聖女”ルナがその座に据えられたのだ。


「……滑稽ね。私を悪役に仕立てて、聖女の座も婚約者も奪って……。なら、奪い返しましょう。全てを」


彼女は静かに封印を解いた。

その瞬間、金色の魔力が天井を貫くように放たれた。


「さあ……聖女の力、解放してあげる」



---


数日後。王都は異常気象と魔獣の出現により、混乱に陥っていた。


偽聖女・ルナはまったく力を持たず、ただ泣き叫ぶばかり。

王太子レオナルドも狼狽えるばかりで、王国の信頼は地に落ちた。


そこへ、純白のローブに身を包んだ一人の女性が現れる。


「その魔獣、私が封じましょう」


高らかに宣言した彼女の姿に、誰もが息を呑んだ。

かつての“悪役令嬢”――エリシア・ヴェルディナだった。


聖なる光が彼女の周囲に広がり、魔獣たちは塵と化す。

その力は、誰の目にも明らかだった。


「真の聖女……!」


「なぜ、彼女が……?」


王都の民がひれ伏す中、エリシアは王城の玉座の間に乗り込む。


「レオナルド殿下。あなたは、聖女を偽った罪。国と民を欺いた罪。婚約者を貶めた罪……それらを償う覚悟はあるのかしら?」


怯えたレオナルドの視線の先に、エリシアが差し出したのは“退位勧告”だった。


「あなたは王太子の器ではないわ。どうぞ、退位なさって」


ルナと共に、彼はその場から姿を消した。

その後、辺境へ流されることになるのだが――それはまた別の話。



---


後日。

王宮の庭園で、エリシアは一人の青年と並んでいた。


「君は変わらないな。ずっと強くて、まっすぐだ」


そう微笑むのは、隣国の第二王子であり、彼女の幼なじみ――カイル・アーデルベルト。


「私のどこが強いのよ。ずっと泣いてたじゃない……」


「そうだね。でも、誰にも泣き顔を見せずに立ち向かった。それだけで、君は最強だよ」


彼の手が、そっとエリシアの手を包む。


「……私にはもう、何も残っていないわ。聖女の座も、婚約者も、家も……」


「じゃあ、俺があげるよ。新しい居場所と、婚約と……そして、愛を」


「……溺愛ってやつ?」


「もちろん」


彼の笑顔に、エリシアは初めて、涙をこぼした。


それは悔し涙でも、怒りの涙でもない。

幸福と、解放の涙だった。



---




それから数年。

エリシアは新生“聖女庁”を立ち上げ、民のために力を尽くす。

隣国のカイル王子と正式に婚姻を交わし、政略ではない“真実の愛”を手に入れた。


──悪役と呼ばれた少女は、

聖女として、王妃として、そして一人の女性として、最強にして最愛の存在となったのだった。





---


王国の東境、聖女庁本部。

エリシア・アーデルベルト――元・悪役令嬢、現・真の聖女は、庭園の花に水をやりながら、ふと空を見上げた。


「……来たのね」


空には、見覚えのある王国軍の紋章を掲げた飛空艇の群れ。

王国は未だ懲りていなかった。退位させられ、聖女を奪われ、威信を失った王国の貴族たちは、密かに軍を集め、聖女庁に逆襲を仕掛けてきたのだ。


「エリシア様、ご命令を。迎撃部隊を――」


「いえ、私が出ます。これは……私の因果ですから」


彼女は静かに、純白のローブに袖を通す。

胸元には“聖女の証”である水晶のペンダントが輝いていた。



---


戦場は静まり返っていた。

地上に降り立った王国軍は、傲然と進軍する。


先頭には、元王太子レオナルドの叔父であり、現軍総司令のバルゼン侯爵がいた。

彼は大声で叫ぶ。


「偽聖女め!王国の威信を返してもらうぞ!お前の首と共にな!」


その時だった。


空が光り、風が止み、大地が震えた。


「貴方たちが、悔い改めていれば、私は赦したでしょう。でも――」


エリシアの姿が、光の柱と共に現れる。

彼女の周囲には結界が展開され、近づくものすべてを焼き払う聖なる力が渦巻いていた。


「貴方たちは、二度までも私を嘲り、命を弄んだ」


その声は、女神の咎めのように重く響いた。


「だから――死を以って、償いなさい」


彼女が手を振ると、聖なる雷が天より降り注ぎ、王国軍の兵士たちを次々に焼き尽くす。

肉が焦げ、鎧が溶け、断末魔が響く。


「ぎゃああああああああッ!!」


「や、やめろ……! 我々は、命令されただけで――!」


「言い訳は要りません。貴方たちは選べたはず。命令よりも、人としての良心を」


バルゼン侯爵が震える声で叫ぶ。


「エリシア・ヴェルディナ! 私は貴様の父を知っている!お前が幼い頃、我が膝で育ったのだぞ!」


エリシアは目を細めた。


「……だからこそ、裏切りは許せない」


彼女の指先が光ると、バルゼン侯爵の足元から蔦が伸び、身体を縛りつけた。

蔦の棘が肉に喰い込み、悲鳴が上がる。


「助けて……誰か……!」


「ここに、神の名のもとに宣言します。貴方、バルゼン侯爵を反逆と殺戮の罪により――“聖断”します」


「や、やめろぉおおおおおッ!!」


その叫びが終わるよりも早く、光の剣が天より降り、彼の身体を真っ二つに裂いた。

焼け焦げた肉と鉄の匂いが風に舞う。


逃げ惑う兵士たちに、エリシアは一言も言わなかった。

ただ、一歩踏み出すたびに聖なる力が地に染み渡り、彼女に敵意を抱く者すべてを、無慈悲に焼き払っていった。



---


戦が終わる頃には、王国軍三千の兵は、わずか百に満たない数に減っていた。


生き残った者たちは、すべてを地に伏して祈る。


「赦してください……聖女様……」


エリシアは彼らを一瞥し、冷たく言い放った。


「その言葉を、なぜ最初に言わなかったのかしら。――処刑台の上で、同じことを繰り返して」



---


数日後、王都レグナリアにて。


処刑場にて、王国の反逆者たちが並べられた。

バルゼン侯の後継者、ルナの父であるリュシアン侯爵もその中にいた。


市民の目の前で、首が刎ねられ、罪状が読み上げられる。

「偽聖女を擁立し、王国を欺き、戦を招いた罪――処刑」

「聖女に背き、民を苦しめた罪――処刑」


首が刎ねられるたびに、鐘の音が鳴り響く。

その様子を、エリシアは遠くから静かに見つめていた。


「……やっと、終わったわ」


彼女の隣には、夫であるカイルが寄り添っていた。


「辛かったら、目を背けてもいいんだよ」


「ううん。最後まで見届けなければ、私の復讐は終わらない。これが私に与えられた裁きの役目だから」


彼女の手を、カイルがそっと包む。


「君は本当に、優しい人だ。だからこそ……俺は、そんな君に世界中の愛を捧げたい」


「……ありがとう、カイル」


エリシアは、やっと穏やかな微笑を浮かべた。

その微笑みは、かつての“悪役令嬢”でも、“偽りの聖女”でもない。


すべてを取り戻し、裁き終えた“真の聖女”の、それだった。



---




王国はその後、聖女庁の庇護下に入り、再建されることになる。

不正と腐敗は一掃され、貴族制度は改革され、民の生活は安定を取り戻した。


そして聖女エリシア・アーデルベルトは、再び戦う必要のない平和の時代を迎える。


だが、彼女の中にはひとつの誓いが刻まれていた。


「もしまた、誰かが聖女を侮るなら――私は、何度でも裁く」


その言葉を最後に、彼女は静かに聖域へと戻っていった。


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