3.なぜか、クラスのギャルは英語がめっちゃ得意らしい。
小テストの結果が返されたあと、クラスの空気はどこか重苦しかった。
――どうやら、みんなあまり良い点数じゃなかったらしい。
そのせいか、英語の得意な氷室さんの席のまわりには、生徒たちが自然と集まり始めた。
彼女はというと、めんどくさそうな顔一つせず、質問にひとつひとつ丁寧に答えていく。
氷室凛さんは、英語に関してはクラスでダントツの実力者だ。
実際、前学期の期末テストでは学年15位という、目を疑うような成績を叩き出している。
「氷室さん、この問題なんですけど――」
「んー、これはね、ただの文法ミスだよ。単数形にすれば正解になるから。」
あっさりと、他のクラスメイトの疑問を解決していく氷室さん。
うん、やっぱりすごいな……。
――そして、僕の番がやってきた。
「そ、そあのっ、氷室さん……」
「あ? なんであんたなの?」
彼女の眉が、ぴくりと吊り上がる。
(……やっぱり来なきゃよかった。)
僕はもう、後悔し始めていた。
「この問題は、基本中の基本なんだけど!」
「は、はいっ!」
「これ、サービス問題レベルでしょ!?」
「す、すみませんでしたっ!」
……数分後、僕は思い知ることになる。
氷室さんとの間にある、決定的な実力差を。
僕がうんうん唸っても解けなかった問題が、彼女にとっては“簡単すぎる基本問題”にすぎなかったのだ。
(……すごいなあ)
「なに? さっきからじーっと見て。白河、変なこと考えてんじゃないでしょうね?」
「えっ?」
氷室さんは片手であごを支えながら、不機嫌そうに僕を睨んでいた。
「“えっ?”じゃないっての!やっぱ変なこと考えてたでしょ!」
氷室凛は眉をきゅっと吊り上げる。
「ち、違うよ!ただ、氷室さんって本当にすごいなって思っただけで……」
「ふ、ふん!……な、なにそれ。そ、そんなの……」
「僕、勉強とかあんまり得意じゃなくて……特に英語はほんとにダメだから。だから、氷室さんみたいにできる人って、すごいなって素直に思うんだ。」
なぜか氷室さんの様子が慌て始めた。
頬は真っ赤、目線は泳ぎ、手元もそわそわと落ち着かない。
「そ、そんなのさ……努力すれば誰だってできるっしょ!?」
「えっ、本當に? 僕でもできるのかな……?」
「う、うん、たぶん……白河って国語とかは得意そうじゃん?」
「我嗎? まったく得意じゃないよ。」
「え、でも小説よく読んでるじゃん? だから国語とか強いかと思ったけど。」
「……氷室さん、それ、あんまり関係ないと思うよ。」